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[特集]

「配給ビール」を楽しむハノイの人々

2024/08/25 10:10 JST更新

(C) VnExpress
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 16時、ブイ・タイン・ソンさん(男性・77歳)は、カウンターでピッチャー2杯のビアホイ(生ビール)を受け取ると、小脇に抱えて、「配給切符」を手に順番を待っている人々の列を抜けた。

 ソンさんがテーブルに戻ると、すでに3人の友人がグラスとおつまみを持って来ていた。おつまみは茹でた落花生1袋と、ライスペーパーの煎餅数枚だ。青いガラス製のグラスにビールを注ぎ、グラスをかちゃかちゃとぶつけ合ってから飲む。「スポーツの後にこのビールを飲むのがいいんです」とソンさんは話す。

 実はこの「飲み屋」は、ハノイ市バーディン区クアンタイン通りにあるバーディンスポーツセンターの軽食カウンターだ。このセンターは、退職した中級・高級幹部にスポーツの場を提供する目的で1980年代に設立された。

 他のテーブルでは、10人近い高齢の男女のグループ「B&B(Boi va Bia=水泳とビール)」が、茹でた落花生をつまみながらビールを飲んでいる。彼らによると、このグループはセンターがこの地に移転した2010年から活動しているという。

 グループは、冬でも夏でも、センターで泳いだ後は皆で何杯かビールを飲んでから帰る。ホアン・ゴック・シンさん(男性・74歳)はこう語る。「ビールの質も良いし、列に並んでビールを買うというのは、配給時代(ドイモイ(刷新)前、1976年から1986年ごろ)を彷彿とさせるので、我々はここで飲むのが好きなんです」。

 ここはテト(旧正月)以外毎日営業しており、営業時間は16時から18時30分までで、ピークタイムは17時から18時だ。このころには、支払いとビールの受け渡しのカウンターに並ぶ人の列はどんどん長くなっていく。席もどこもいっぱいで、空席を見つけるのも一苦労だ。

 センターは、何度か移転して今の地に落ち着いてからも、もともとの「配給ビール」モデルを継承している。ビールを飲むには「配給切符」を購入して、列に並んでビールを受け取り、席も自分で探さなければならない。

 ここのビールは他よりも安く、グラス1杯1万2000VND(約70円)、ピッチャー1杯6万VND(約350円)だ。客のほとんどが数十年来の常連で、彼らにとってここで楽しむビールは、スポーツの後の1杯というだけでなく、「ノスタルジーの天国」でもある。

 元外交官のソンさんによれば、1960年代にホアンホアタム通りのビール醸造所がビールを販売し始めたころ、ビールに馴染みのない多くの人々は「臭くて苦い」とけなした。当時はグラス1杯1.2ハオ(hao、1VND=10ハオ)だったが、追加で8スー(xu、1VND=100スー)を支払い、シロップを買って混ぜ、ビールに甘味を足して飲んでいた。

 ビールは徐々にハノイ市の人々の生活に入り込み、行列に並ばなければ買うことのできない、数量限定の贅沢品となった。価格もグラス1杯3ハオに値上がりした。

 ベトナム科学技術研究所の元幹部であるシンさんの記憶では、当時の飲み屋には温度を2~4度に保った樽が2つ、蛇口が2つあり、片方の樽からビールを、もう片方の樽から炭酸ガスを同時にグラスに注いで、ビールの泡立ちを良くし、冷たいのどごしを生み出していた。

 「それに、気泡が入った青いガラス製の500mlのグラスなしでは、ビアホイを飲んだとは言えません。グラスは互いにぶつかり合うたびに、かちゃかちゃと大きな音を立てるんです」とシンさん。

 グエン・カオ・ギンさん(男性・82歳)は、スポーツをしてビールを飲むために、毎日3km歩いてゴックハー通りからバスに乗り、センターにやって来る。これまでの人生で様々な種類の高価な海外の酒を口にする機会もあったが、ギンさんにとってはここの素朴なビールが格別なのだという。

 ビック・トゥイさん(女性・75歳)は、カウザイ区スアントゥイ通りの自宅からセンターまで8km離れており、往来にはバスを乗り継がなければならないが、ここでビールを飲むことが長年の楽しみになっている。トゥイさんは夫とともに週に2~3回はここでビールを飲み、さらに来られない日のために3~5Lのビールを買って帰る。

 トゥイさんは、幼いころから父親に連れられてここに来ていたという。高齢になった今、主食を食べないことは多いが、ビールを欠かすことはない。往来に時間はかかるが、ここのビールはかつての醸造所の素朴な味わいが残っているように感じられることから、今も夫婦で通い続けている。

 バーディンスポーツセンターの「飲み屋」は、スポーツの後の人々の集まりや交流の場所であるだけでなく、多くの市民や若者が集まる文化的な場所にもなっている。さらに最近は毎週のように、ハノイ市の観光ツアーの一環として「配給ビール」の文化を体験するため、外国人観光客の団体もここを訪れている。

 「市内で『配給ビール』が飲めるのは、もはやここだけだろう、といつも話しているんです」と、ギンさんは語った。

【過去の関連記事】
配給時代の「ビアホイグラス」、40年間の歴史(2017年9月24日配信)
配給時代の悲喜こもごも(2017年9月10日配信) 

[VnExpress 07:00 09/08/2024, A]
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