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[特集]

テトは故郷に帰らず「他人の看病」、大きな収入に

2024/02/11 10:18 JST更新

(C) VnExpress
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 南部メコンデルタ地方ベンチェ省出身のカインさん(男性・40歳)は、テト(旧正月)も故郷に帰らず、ホーチミン市に残って病人の世話をする。収入は1日100万VND(約6000円)近くで、普段の倍になる。

 夜中、カインさんが看病を担当する90歳の男性がトイレに行きたいと言うので、カインさんも起きて、男性の手を引いてトイレに連れて行き、用を足し終わるとまたベッドに連れて戻った。

 今から3か月前、カインさんの所属する会社がカインさんを病院へ派遣し、一時は昏睡状態だったこの男性の看病を割り当てた。この男性には、不整脈やてんかんなどの基礎疾患が複数あった。

 この男性は3週間後に退院したが、家族の依頼を受け、ホーチミン市3区にある男性の自宅でカインさんが引き続き世話をすることになった。男性は娘の家族と一緒に住んでいるが、他の2人の子供は海外に住んでいる。

 「テトの10日間で1000万VND(約6万円)近く稼げるので、故郷に帰るつもりはありません。それに、この患者さんとは長いこと一緒に過ごしているので、娘さんが旦那さんの故郷に帰っている間、患者さんご自身も、私に世話をしてもらいたいとおっしゃっているんです」とカインさんは語る。

 カインさんはかつて、ホーチミン市の大手ホテルでシェフのアシスタントとして働いていた。当時の収入は月に800万~900万VND(約4万8000~5万4000円)で、家賃や食費、交通費を差し引くと、貯金はあまりできなかった。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により失業し、故郷に戻ったカインさんは、ある人から病人の世話をする仕事をすすめられた。いわく、「高収入で、病院で世話をするなら炊き出しがあり、患者の自宅で世話をするなら家族と一緒に食事をとるので、食費もかからない」ということだった。

 それに、この仕事は時間の融通も利き、家庭の都合で忙しいときには、会社に頼んで代わりの人を手配してもらうこともできる。

 最初のころ、体重が70kgほどの患者の男性はずっと同じところに横たわっていたため、カインさんは向きを変えたり、おむつを交換したり、身体をきれいにしたり、飲ませたり食べさせたりと忙しかった。今はだいぶ回復しつつあり、男性は自分で食べたり飲んだりすることもできるようになり、カインさんは主に、男性が倒れないようにそばで支える役割を担っている。

 カインさんはこれまで約1年間にわたり複数の病人の世話をしてきたが、患者と一緒にテトを迎えるのはこれが初めてだ。皆が故郷に帰っていく様子を見て、少しは悲しかったというが、子供もまだ小さいため、頑張ってお金を稼がなければ、と思い直した。

 「テトに帰ってもだいたい飲んでいるだけですがね」とカインさんは言う。よく妻に電話をかけて、子供たちのテトの世話をしっかりするよう伝えている。

 カインさんと同じく、初めて患者と一緒にテトを迎えるというトゥーさん(女性・30歳)は、ホーチミン市のグエンチャイ病院に寝泊まりして、80歳の女性の看病をしている。

 この女性は糖尿病の合併症により10日前に四肢の切断手術を受けたばかりで、寝たきりだ。医師によれば、女性の病状は落ち着いており、テトの前には退院できるということで、女性の家族はトゥーさんに自宅で世話を続けてほしいと依頼した。

 「私の両親が北部からホーチミン市に来て、3歳になる子供の面倒を見てくれています。来年には幼稚園に入ります。テトも家族がホーチミン市にいてくれるので、安心して仕事ができます」とトゥーさん。

 以前、トゥーさんは飲食店でウェイトレスとして働いていた。当時の収入は月に数百万VND(100万VND=約6000円)。がんを患って入退院を繰り返した義父が亡くなるまで、7か月間看病したトゥーさんは、他人の看病をするという仕事を知り、業務も規則的で収入も安定していることから、転職することにした。

 仕事を始める前に、トゥーさんは必要なスキルの訓練を受けた。闘病中の義父は、いらいらして子供や孫にきつくあたることが多かった。そうした経験からトゥーさんは、「気難しい患者さんのことも理解できますし、患者さんを身内のように思い、最善のお世話ができます」と話す。

 旧暦の年末になると、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でも看病人を探しているという投稿が増える。患者の病状や住所などの情報が投稿されると、仕事を受けたいという人たちからたくさんのコメントが寄せられる。こうした看病人の多くは、積極的に自己紹介をしたり、連絡先を記載したりもする。

 ホーチミン市10区在住のトゥアン・フンさん(男性)は、3年前に父親が脳卒中を患い、生活のほとんどすべてを家族に頼らざるを得ない状況だ。フンさんは、毎年テトには子供たちも一緒に妻の実家に帰省するため、その間は看病のサービスを利用している。「このサービスがなかったら、家族でどこかに出かけなければならなくてもなかなか対応できないでしょう」とフンさんは語る。

 現在のところ、テト期間中に自宅や病院で病人の世話をする人がどのくらいいるのかという統計はないが、ホーチミン市のいくつかの病院によれば、こういった「他人の看病」のサービスはここ数年で増加しつつあるという。

 医療分野の看病人サービスを手掛ける会社の社長であるグエン・ミン・タム氏によると、スタッフの約60%がテト期間中も仕事を受ける。収入は普段の2倍だ。同社のサービス料金は、患者の病状にもよるがだいたい50万~60万VND(約3000~3600円)、もしくは90万VND(約5400円)ほどとなっている。

 したがって、旧暦12月25日から1月5日にかけてのテト期間中に患者の自宅で世話をするスタッフの収入は、1日あたり100万~200万VND(約6000~1万2000円)になる。普段から患者の自宅で世話をしている多くのスタッフは、テト期間中も故郷に帰らずに看病をするという内容で患者の家族と契約している。

 病院に入院している患者の世話が必要な場合も、会社がスタッフを手配する。タム氏はこう語る。「テトにはほとんどの患者が退院して帰宅しますが、蘇生部門と救急部門では、テト期間中も看病の需要があるんです」。さらに会社では、テトが終わった後に遅れて帰省を希望するスタッフのために、代休と帰省の交通費を支給するという。

 先のカインさんは、テトが明けたら会社に代わりの人を手配してもらい、家族に会いに数日間帰省するつもりだという。

 こうした看病の仕事というのは、かつては主に女性が選ぶ仕事だったが、カインさんはこの仕事に様々な意義を見出し、多くの患者の回復にも貢献できていることから、この仕事を長く続けていくつもりだと話す。「少子化のこの時代、親の世話をする時間もそうありませんからね」。

 カインさんと90歳の男性のテトも、お互いに家族のように思っている2人だからこそ、きっとあたたかいものになるだろう。 

[VnExpress 06:03 07/02/2024, A]
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