VIETJO - ベトナムニュース 印刷する | ウィンドウを閉じる
[特集]

破れた紙幣を買い取る仕事

2023/09/24 10:23 JST更新

(C) VnExpress
(C) VnExpress
(C) VnExpress
(C) VnExpress
 「破れた紙幣、買い取りますよ」という声を聞くやいなや、近くの個人商店から男性が飛び出てきて、右端が焼けて縮れてしまった10万VND(約610円)紙幣を取り出した。

 破損した紙幣を買い取ってこの道20年余りのチュオン・ティ・キム・ロアンさん(女性・60歳)は、紙幣を受け取って両面をよく観察し、記番号を確認した。そして、縮れた角を軽く整えると、「6万VND(約360円)で」と言った。

 客は同意し、ロアンさんは客に6万VND(約360円)を手渡してから、買い取った紙幣を小さな袋に入れた。その袋の中には、破れたり焼けたりした紙幣が十数枚入っていた。

 過去の多くの研究から、この仕事はフランス植民地時代にベトナムで紙幣が発行されたころに誕生したと考えられている。使用する過程で破損し、流通の基準を満たさなくなれば、両替の需要が生まれるからだ。

 この仕事が最も盛んだったのは2000年代で、多くの人がこの仕事に従事していた。当時、この仕事を営む人は固定の場所で客を待つのではなく、客を探して住宅街に入ったり、街中を歩き回ったりしていた。

 ロアンさんは幼いころ、「お金を買いに」行く父親のバイクの後ろに座りながら、父親が年老いたらこの仕事を継ごうと決めたのだという。

 ベトナム国家銀行(中央銀行)の規定によると、破損した紙幣でも全体の60%以上の面積が残っていれば、銀行の支店や取引所に行って無料で交換することができる。

 しかし、多くの人はおっくうだったり銀行に行く時間がなかったりして、ロアンさんのような業者に額面よりも安く買い取ってもらうという。額面と買い取り額の差額は、ガソリン代と手間賃とみなされる。

 買い取る紙幣は損傷した部分が30%を超えないものとし、角が破れたり、半分に破れたり、一部が焼けたりしているものが多い。通常、業者は紙幣の損傷度合に応じて買い取り額を決める。

 ただし、ロアンさんの場合は固定で、20万VND(約1210円)紙幣なら12万VND(約730円)、50万VND(約3030円)紙幣なら30万VND(約1820円)で買い取る。ロアンさんは5000VND(約30円)紙幣や1万VND(約61円)紙幣などの小額紙幣も買い取っている。

 「この仕事の原則は、お金をけなさないこと。額面がいくらだろうと買い取ります」とロアンさん。1週間で100万~150万VND(約6100~9090円)分の紙幣を集めてから、銀行に引き換えに行く。

 ロアンさんは毎日、商売の最中に意図せず破損した紙幣を受け取ってしまうことが多い飲食店や個人商店が集まるエリアや、マンションのあるエリアなどを中心に、バイクで走り回っている。商売以外でも、日常生活の中でうっかり財布のファスナーにひっかけて紙幣を破ってしまったり、料理中に紙幣を燃やしてしまったりすることもある。

 一方、ロアンさんと同じく破損した紙幣を買い取っているチャン・ラムさん(男性・31歳)は、主にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で客を集める「次世代」の業者だ。ラムさんは、紙幣の状態を確認して買い取り額を決めるために、客にザロ(Zalo)やフェイスブック(Facebook)で紙幣の写真を送ってもらっている。

 「紙幣全体の60~70%以上の面積が残っていれば買い取ります」とラムさん。この仕事を始めてから最初の3か月は、偽札や、損傷があまりにも激しい紙幣を買い取ってしまい、銀行で引き換えができず、損をしていた。

 何度か客にだまされてから、ラムさんは偽札の見分け方を学び、さらには紙幣を引き換える客の服装や乗っている自動車、外見を観察し、経験を積んだ。「もし、お客さんが自宅に紙幣を受け取りに行かせてくれなかったり、どもったりするようであれば、その人は偽札を渡そうとしている可能性が高いです」とラムさんは説明する。

 南中部沿岸地方クアンナム省出身のラムさんの本業は配車アプリの運転手で、収入を増やすために6か月ほど前から破損した紙幣の買い取りをしている。ラムさんはバイクの後ろに「破れたお金、古いお金、買い取ります」という文言と電話番号を記した看板を掲げている。

 ラムさんにとって、この副業はそれほど大変ではないという。ラムさんは、紙幣を引き換えるためにエアコンの効いた銀行の中で座って待つ時間は、本業の合間の休憩時間だと考えている。

 例えば紙幣の3分の1が焼けて変形してしまっていたり、真っ二つに破れそうだったりして銀行が引き換えてくれるか確かでない場合、ラムさんは信用を得るために客に自分の身分証明書を預けて、その場で買い取らずに銀行に行くようにしている。

 「だから、私のIDカードや運転免許証はいつもあちこちにあるんです」とラムさんはユーモアたっぷりに話す。もし、銀行で引き換えられれば、手間賃として客から3万~5万VND(約182~303円)を受け取っている。また、遠方の客には、自宅に紙幣を受け取りに行く分のガソリン代を援助してもらっている。

 この副業でラムさんは月に300万~500万VND(約1万8200~3万0300円)の収入を得ている。その代わり、その日に買い取った紙幣を整理するのに毎晩20~40分ほどかかっている。

 同じく破損した紙幣の買い取り業をして10年近く経つレ・グエン・トゥアン・アインさん(男性・34歳)は、過去に、けんかをして紙幣を真っ二つに破ってしまったという夫婦から、その紙幣を買い取ってほしいと懇願されたことがある。その時は額面の80%の金額で買い取り、破れた部分をテープで貼って難を逃れた。「もし、記番号がなくなっていたらお断りするしかなかったので、助かりました」とアインさん。

 アインさんは、今から8年前にホーチミン市1区で起きた火災により、多くの人の財産が焼けてしまったときのことを今でも覚えている。もちろん、火災で紙幣も焼けてしまった。そこで市当局は、焼けた紙幣を銀行に持って行くよう被災者に通知する公文書を出した。小額紙幣については、被災者は少しでも価値を取り戻すために、アインさんたちのような買い取り業者のところへ持って行った。

 この10年ほどは、オンライン取引が普及したことで、破損した紙幣の買い取りという仕事はブームが去ってしまった。現在の客といえば、古銭の売買をする人たちなどほんの一部にすぎない。

 アインさんによると、オンライン取引が生活の隅々まで浸透しつつある中、破損した紙幣の買い取りの需要は特にこの5年で急激に減少しているという。しかし、流通しなくなった紙幣でも、その珍しさや希少さから高値がつくこともある。そのため、アインさんはそういった紙幣も買い取っている。「ボロボロの紙幣でも、その紙幣にしかない価値があるんです」とアインさんは語った。 

[VnExpress 06:00 13/09/2023, A]
© Viet-jo.com 2002-2024 All Rights Reserved.


このサイトにおける情報やその他のデータは、あくまでも利用者の私的利用のみのために提供されているものであって、取引など商用目的のために提供されているものではありません。弊サイトは、こうした情報やデータの誤謬や遅延、或いは、こうした情報やデータに依拠してなされた如何なる行為についても、何らの責任も負うものではありません。

印刷する | ウィンドウを閉じる