[特集]
弁護士を目指す脳性麻痺の法学士、卒業までの知られざる物語
2023/07/02 10:19 JST更新
(C) dantri |
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東北部地方フート省出身のグエン・マイ・アインさんは、脳性麻痺というハンディキャップを抱えながらも、この6月にハノイ法科大学を卒業し、法学の学士号を取得した。
卒業式の日、学長に手を引かれて壇上に上がるマイ・アインさんの姿を見た母親のディン・ティ・トゥー・ハオさんは、そのときは多くを考えることができず、歩行も困難な娘が裾の長いローブにつまずいてしまうのではないかとばかり心配していた。
卒業式が終わって足早に帰宅したハオさんは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿・拡散された娘の写真を見て、涙を流した。はるか遠い存在のはずの学長が、卒業式で娘の手を引いてくれ、さらに壇上から降りるまで待ってくれた、その学長の行動に改めて感動し、涙を抑えることができなかったという。
そんな学長の姿を目にして、自身も教師であるハオさんは、果たして自分は生徒たちにそのように接することができるのだろうか、と自問した。
マイ・アインさんは2月の時点ですでに単位を取得し終えていたため、一足先に卒業し、地元に戻っていた。特に混雑した場所での移動が困難なアインさんは、6月の卒業式には出席するつもりはなかった。しかし、大学側からの励ましの電話を受け、家族で朝の6時からハノイ市に向かうことにした。
「娘はエスカレーターにも乗ることができないので、家族で1歩ずつサポートしながら、階段で応接室に向かいました。その努力が実を結び、卒業式で娘の幸せな瞬間に立ち会うことができました。ほんのわずかな時間でしたが、娘にとっても、私たち家族にとってもとても意味のあるものでした」と、ハオさんは感慨深げに話す。
アインさんには双子の妹がいる。妹のグエン・チュック・アインさんは、ハノイ薬科大学の学生だ。母親のハオさんによると、2人は妊娠7か月目のときに早産で生まれ、生まれてから20日間は中央小児病院の保育器の中で過ごさなければならなかった。
生後18か月のとき、家族がマイ・アインさんを病院に連れて行くと、医師から痙性脳性麻痺と診断された。
「医師の話が終わり、私は病院で震えながら泣きました。でも、その後、強くいなければと自分に言い聞かせました。自己憐憫に陥ったって何も変わりませんし、一縷の望みに賭けようと思ったんです」とハオさん。
それ以来、3か月間の夏休みに入るたびにハオさんとマイ・アインさんは数百kmの道のりを越え、リハビリのためにフート省からハノイ市の中央小児病院へと通った。夏が終わるとフート省に帰り、自宅でもリハビリを続けた。
両親ともに教師で、当時の2人の給料ではマイ・アインさんの薬や指圧などの治療費をまかないきれなかった。それでも、誰かが良い薬があると言えば、買いに行った。
小学2年生のとき、マイ・アインさんは歩行能力を改善する手術を受けた。しかし、手術後もあらゆることが依然として困難で、歩くのはゆっくり、物を持つのも難しく、ましてや文字を書くこともできなかった。
そんな中でも、努力の甲斐あってマイ・アインさんは中学3年生(日本の中学2年生に相当)のときに歴史の科目で町レベルの優秀生徒として表彰された。中学4年生(日本の中学3年生に相当)のときには、同じく歴史の科目で省レベルの優秀生徒コンテストで2位に入賞した。そして、難関高校にも合格した。
一方でハオさんは、マイ・アインさんのような子に対する差別や人々の目によって、本人が心を痛めることも少なくなかった、と語る。大学入試前には、「マイ・アインさんのような人がわざわざ入試を受ける必要もないだろう、土産物店でもやればいい」などと言う人もいたという。それでもマイ・アインさんは受験を決意し、結果、高得点でハノイ法科大学に合格した。
現在は法律事務所でインターンシップ中のマイ・アインさん。同時に、自分と同じような境遇の人たちに寄り添い、サポートするため、ベトナム脳性麻痺児童家族の会の事務所でアルバイトもしている。
マイ・アインさんの両親は、娘にはあまり大変でない仕事を選んでほしいと思っているが、マイ・アインさん自身は弁護士という夢への情熱を燃やし続けている。
[Dan Tri 15:35 26/06/2023, A]
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