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[特集]

きっかけは1万VNDの誤送金、運命的に出会った夫婦の物語

2023/05/28 10:10 JST更新

(C) vnexpress
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 今から7年前、ブー・ティ・トゥエットさんは初めて男性からのメッセージを受信した。しかし、それは口説き文句ではなく、返金の申し出だった。

 東南部地方ビンフオック省在住のトゥエットさんは、今でもそのときのことをよく覚えている。トゥエットさんはその日、携帯電話に1万VND(約59円)をチャージしてほしいと妹から頼まれた。「妹の番号に送金したつもりが、番号を1つ打ち間違えたようで、別の人の携帯電話に送金されてしまったんです」とトゥエットさんは語る。その相手こそが、後に夫となるハイさんだった。

 東北部地方ランソンに住んでいたゴ・バン・ハイさんは、送金があったことに気づいたものの、誰からかはわからなかった。そしてその日のうちに、ハイさんは南部と北部のアクセントが混ざった女性からの電話を受けた。「彼女は返金を求めるわけでもなく、ただ間違えて送金したことを確認したかっただけのようでした」とハイさんは振り返る。

 ハイさんは返金の申し出を口実にしてトゥエットさんにメッセージを送ったが、本当の目的は知り合いになることだった。この誤送金は運命に違いないと信じていたのだ。一方、トゥエットさんはというと、そこまで深く考えていなかった。楽しみを見つけようとハイさんとのメッセージのやりとりに同意したが、障がいを持つ自分に男性が好意を寄せてくれるとは期待もしていなかったという。

 トゥエットさんの脚は生まれつき曲がっていて、病院で骨形成不全症だと診断された。少しの衝撃ですぐに骨折してしまうため、トゥエットさんは小学2年生が終わる前に退学して家で過ごすようになり、4人の妹の世話や料理をしたり、両親が営む食堂を手伝ったりしていた。

 トゥエットさんの妹たちは皆、年頃になると男性にモテたが、トゥエットさんだけは毎日家の中で寂しく過ごしていた。しかし、ハイさんと知り合ってからは、携帯電話のメッセージの着信音が鳴ると心臓の鼓動が速まるようになった。苦労が多く、外の人との関わりもほとんどないトゥエットさんにとって、ハイさんからの電話やメッセージは日々の生きがいとなった。

 2人は1年以上、電話とメッセージだけのやりとりを続けた。そして2016年のテト(旧正月)が近づいたころ、ハイさんは1000kmも離れたトゥエットさんの家に遊びに行きたいと話を持ちかけた。

 トゥエットさんは驚くと同時に、ハイさんが障がいを持つ自分の姿を見たらもう友達でいてくれなくなるのではないかと恐くなり、何も言葉を返すことができなかった。しかし、事実を隠しておくこともできず、トゥエットさんは自分の病気についてハイさんに全て話し、ハイさんが静かに自分から離れていくことを受け入れるために心の準備をした。

 すると、しばらくしてハイさんからこんなメッセージが届いた。「家の住所を教えて。あなたがどうであろうと、変わらず好きだから」。

 2日後、ランソン省に住んでいるハイさんが、突然トゥエットさんの家の前に現れた。その時、トゥエットさんは強がって見せたものの、実はハイさんを直視することができず、ぎこちなくなってしまったのだという。

 トゥエットさんの家で数日間を過ごす間、ハイさんはトゥエットさんがどうやって移動したり色々なことをしたりするのか、よく観察した。両手を使って移動しているにもかかわらず、何をするにも器用なトゥエットさんを見て、ハイさんは彼女がいかにエネルギッシュで、皆の負担になりたくないと努力してきたかを知った。

 そしてハイさんは故郷のランソン省には戻らず、ビンフオック省で仕事を探し、トゥエットさんのそばにいようと決めた。トゥエットさんの家から数百mのところに部屋を借り、時間があればトゥエットさんを誘って遊びに出かけた。

 数か月後、ハイさんはトゥエットさんに正式に告白したが、トゥエットさんはハイさんの気持ちが本物だとは信じることができず、告白を拒否した。そして、幸せを与えてくれる普通の女性を見つけるようハイさんにアドバイスした。

 それでもハイさんは諦めなかった。行動やメッセージで毎日気持ちを伝え、必要な時はいつでも彼女をサポートした。時間があるときはトゥエットさんを抱えて自転車の後ろに乗せ、一緒に通りを眺めながら自転車を漕いだ。2人が一緒に過ごす時間は日に日に増え、トゥエットさんはようやくハイさんの気持ちが本物だと信じられるようになった。

 そんなある日、トゥエットさんは妊娠していることに気づいた。医師は母体の健康が保証できないとして子供をおろすよう忠告したが、トゥエットさんは「この子を産みます。私の人生ですから」とはっきり告げた。そして、両親にも2人の関係と赤ちゃんの存在を認めてもらえず、2人は駆け落ちした。

 妹からの援助も合わせて数百万VND(100万VND=約5900円)をかき集めた2人は東南部地方ビンズオン省に行き、小さな部屋を借りた。ハイさんは工場に働きに出て、トゥエットさんは内職をした。2人は毎日一緒に料理をして、たくさん話をした。夜になると、出会ったころのようにハイさんはトゥエットさんを連れて散歩に出かけた。

 ただし、これはトゥエットさんの健康状態が安定している時だけで、妊娠中のトゥエットさんはつわりで何も食べることができず、水と牛乳しか飲めないような日々が続いた。トゥエットさんは、流産してしまうのではないか、もしくは自分のように障がいのある子供が生まれてくるのではないかという不安を常に抱えていた。

 そんな時はいつもハイさんが「どんな子であろうと僕たちの子であることに変わりないんだから、愛してあげないと」とトゥエットさんを励ました。臨月に入るとトゥエットさんは身体が重くなり、1か所に横たわっていることしかできなくなった。トゥエットさんが苦しそうにしていると、そのたびにハイさんはトゥエットさんを抱きかかえて座ったまま眠った。

 そして2人の子供、ザー・バオくんが2.6kgの体重で無事に誕生した。トゥエットさんは思い切って実家に電話をかけ、両親に孫の誕生を知らせた。しかし、心配していた通り、バオくんには生まれた時からいくつもの異常が見られた。

 首にある嚢胞で呼吸がしにくかったり、手術が成功したかと思えば脚が曲がっていて関節が異常に大きいことがわかったりと、問題は山積みだった。「うちの子は短い距離しか歩けないんです。長い距離を歩いたら、地面に座りこんで息を切らしてしまうでしょう」とトゥエットさんは語る。

 息子の薬代や治療費を稼ぐため、夫婦はホーチミン市ビンチャイン郡に生活の拠点を移した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行後、トゥエットさんは夫の稼ぎを補うべく宝くじ売りの仕事を始めた。トゥエットさんは毎日17時に家を出て、仕事が終わるのは深夜になる。多い日は10万VND(約590円)以上、少ない日は数万VND(1万VND=約59円)の稼ぎだ。

 毎晩、ハイさんは子どもを寝かしつけてから妻の帰宅を待ち、2人で一緒に食事をとる。トゥエットさんはよく、夫の隣に横たわって、大変な人生を選んで後悔しているかと尋ねる。そのたびにハイさんはトゥエットさんの身体に腕を回し、「来世があったら、またこの人生を選ぶよ」と答える。

 コロナ禍で何度か延期になった後、2022年末に2人はビンフオック省のトゥエットさんの実家で結婚式を挙げた。初めてドレスを着て口紅を塗ったトゥエットさんは、鏡の中の自分を見つめながら、時々手をつねってこれが現実だということを確認した。

 「私は車椅子に乗らないといけないので、幼いころに夢見たように新郎と一緒にダンスを踊ることはできませんが、ハイさんがバージンロードに導いてくれて、生涯を共にすると誓ってくれただけで十分です」とトゥエットさん。

 今のトゥエットさんの願いは、ランソン省にある夫の実家を訪ねることだ。しかし、健康状態が思わしくなく、まだ実現できていない。トゥエットさんはまた、その旅でバオくんがつまずいたり息切れしたりすることなく、自分のように1か所に座っているだけでもなく、2本の脚で走ったり飛び跳ねたりできたらと望んでいる。

 その夢を実現するためには、バオくんは手術を受けなければならないが、夫婦には十分なお金がなく、いつ実現するかはわからない。「それでも、私たち夫婦が協力し合って、努力を続ければ、きっとその日は近いうちに訪れると信じています」とトゥエットさんは語った。 

[VnExpress 06:00 23/04/2023, A]
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