[特集]
再婚で新郎から「新婦」に、少数民族の同性愛カップル
2023/05/21 10:16 JST更新
(C) vnexpress |
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イー・シウ・ニーさん(26歳)は、メイクをして、少数民族のエデ族の伝統衣装を着て、結婚式に臨んだ。1回目の結婚式とは違い、再婚となる今回は「新郎」ではなくニーさん自身が「新婦」だ。
南中部高原地方ダクラク省クムガル郡エアフジン村ジョク地区に暮らすエデ族のニーさんと、南部メコンデルタ地方バクリエウ省出身でクメール族のザイン・トムさん(30歳)の結婚式には400人以上のゲストが出席した。2人がこの幸せな日を迎えるまでには、数えきれないほどたくさんの社会からの非難を乗り越えなければならなかった。
ニーさんは小学3年生のころから、自分は他の男の子たちとは違うということに気づいていた。ニーさんは女の子たちと人形で遊ぶのが好きだったし、男の子に対してしか恋愛感情を抱かなかった。
しかし、生まれ持った身体は男で、ニーさん自身も他の人と違う自分でいたくなかった。「エデ族のコミュニティには、男の子が好きな男の子なんていませんでしたから」とニーさん。ニーさんは自分の中にある女性性を抑えて、外見のままに生きることにした。
そして19歳のとき、同じエデ族の女性と結婚した。「夫としての役割を全うしようと必死でした。でも、1度たりとも、楽しいとも幸せだとも感じられませんでした。何をするにも強制されているような感じでした」とニーさんは語る。娘も生まれたが、ニーさんが24歳のときにこの結婚生活は破綻した。ニーさんが、自分自身に嘘をつき続けていては幸せになれないと気付いたのもこのころだった。
ニーさんは村を出て東南部地方ドンナイ省に移り住み、工場労働者として働いた。そして、自分が同性愛者であることもカミングアウトした。2022年、LGBTコミュニティのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に参加したニーさんは、後に夫となるトムさんと出会った。
話の中で、2人は同じ会社に勤め、さらに同じ下宿に住んでいることがわかった。ただし、シフトが同じでも部門が違ったため、実生活では1度も顔を合わせたことがなかった。
SNSでつながった3日後、ニーさんは仲良くなろうと自分からトムさんの部屋を訪ねた。「彼に会った瞬間、ずっと前から知り合いだったかのように感じました」とニーさん。トムさんが病気になれば、ニーさんは翌朝薬とお粥を買いに行き、トムさんの部屋に届けた。
ニーさんの積極的な様子とは裏腹に、ニーさんと同じくかつては女性と結婚していたトムさんは、ニーさんとの距離を保っていた。
「1年と少し前から、自分は同性愛者なんじゃないかと思っていたんです。女性じゃなくて男性が好きだったんですが、確信がありませんでした。だから、(ニーさんへの感情も)一時的なものだと思ったんです」とトムさんは話す。
そんなトムさんに対してニーさんは、トムさんの部屋を訪ねては質問をしたり愛を伝えたりし、頼まれずともごはんを作ったり洗濯をしたりしてアピールした。そして2人は、自分が自分でなかったころに同じように別れを経験したことを知り、より共感するようになった。
ニーさんのアタックで、トムさんもニーさんのことが気になるようになった。トムさんは、よくしゃべりよく笑うニーさんのおかげで、静かだった自分の人生が突然生き生きと生まれ変わったように感じた。
さらにトムさんは、会社でのニーさんは自分の仕事をこなすだけでなく、他の従業員がスケジュールに間に合うように手伝っていることを知った。「毎日、彼は僕の部屋に来ては恋人のようにあれこれ世話を焼いてくれたんです」と、トムさんはニーさんにひかれた理由、そして自分の本当の性別に確信を持った理由を語る。
知り合ってから2週間後、トムさんは、自分はニーさんのことが好きなのだと認めた。お互いの唇が触れた瞬間、2人とも「身体に電流が走った」ような感覚だったという。
2か月後、2人は同棲を始めた。朝はニーさんが料理を、トムさんが皿洗いと掃除を担当し、夜は他のカップルと同じように手をつないで散歩したりごはんを食べたりしに出かけた。
それから間もなくして、ニーさんは家族に、男性と結婚すると告げた。両親は冗談だと思い、ただ笑って「おまえが幸せなら、誰と結婚したっていい」と言った。ニーさんがトムさんを実家に連れてきたときもまだ、ニーさんの両親はトムさんのことを息子の友達だと思っていた。
そして、2人が結婚を決めたとき、両親は大きなショックを受け、落ち着かない様子だった。「男が男と結婚するなんて聞いたことがない。まさか自分の息子がそんなことをするなんて信じられるわけがない。親戚や村の人たちにも笑われるぞ」と父親は言い放った。
ニーさんの兄姉たちも、末っ子が男性と結婚することに反対した。それでも、ニーさんは両親と兄姉たちに、幸せになるから自分の選択を信じてほしい、と伝えた。「お父さんもお母さんも、『僕が幸せなら、誰と結婚したっていい』と言ったじゃないか」とも。
息子の言葉を聞いて、母親は何も言えなくなってしまった。そして「わかった。もう1人息子が増えるのも嬉しいわ」と言った。
こうして家族の理解を得ることができ、家族も結婚式の準備を手伝ってくれた。準備をしている間、両親は周りから息子たちカップルに対する心ない言葉をたくさん耳にしたが、ニーさんが悲しむことのないよう、本人に伝えることはしなかった。
2人はうきうきしながら結婚式の会場セットを借り、指輪を買い、衣装を選び、招待状を配った。2人の結婚を祝福してくれる人もいたが、中には2人の目の前で招待状を破り捨てる人もいた。「ちょっと悲しかったですが、幸せは自分たちが決めることですから。自分の代わりは誰もいないので、気にしません」とニーさんは語る。
ニーさんの故郷であるエアフジン村で行われた結婚式で、2人は終始笑顔だった。「愛する人と結婚できて幸せです」とトムさん。両家の家族も勢ぞろいし、2人はさらに幸せな気持ちになった。
ニーさんは、19歳のときの最初の結婚式は、本当の自分と決別するためのものだった、と打ち明けた。当時は義務を果たすかのように、ぎこちなく準備するだけだった。「あのときは、ステージに立っても自分がただのゲストのように感じたんです。でも今回は、本当の自分として、幸せな気持ちで祝福を受けることができました」とニーさんは話す。
ニーさんの両親は、自宅に2人のための部屋を作った。2人は今、ドンナイ省で工場労働者として働く代わりに、両親と実家に暮らしながら草を刈ったり、コーヒーやコショウを栽培したり、村の人々の手伝いをしたりしている。ニーさんは、自分たちの家を建てるために、かつてしていた複数の仕事も掛け持ちしている。真実の愛があれば、どんなことでも負担やプレッシャーに感じることはない。
ニーさんの両親は、当初は悲しさと不安もあったというが、息子たちが周りの理解を得て幸せそうにしている様子を目にして、今は息子たちカップルをサポートすることが正しいのだと思うようになった。
ニーさんとトムさんは2人揃って「今、人生で最も美しい、夢のような日々を過ごしています」と話す。「僕たちは、LGBTコミュニティ、特に少数民族の人たちに、困難があっても勇敢に自分らしくいてほしいと願っています。だって、人生は一度きりだから」とニーさんは語った。
[VnExpress 06:31 13/05/2023, A]
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