[特集]
店に置き去られた女の子を育てる、バインセオ屋の老夫妻
2023/05/14 10:15 JST更新
(C) vnexpress |
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毎日午前11時近くになると、グエン・バン・チュオンさん夫妻はバインセオの屋台を路地の前まで押して行く。そして、8歳になるビーちゃんは、野菜の包みを抱えて夫妻の後ろをついて行く。
「もう8歳になるんですよ。物事もよくわかっていて、私たち夫婦の細々した仕事も手伝ってくれるんです」と、70歳になるチュオンさんは5年前から夫婦が養子として育てているビーちゃんについて語る。
チュオンさんはかつて教師だった。チュオンさんの妻のファム・ティ・ルオンさんは、ホーチミン市ゴーバップ区16街区レドゥックト(Le Duc Tho)通り1075番地の路地でバインセオ屋を営み、チュオンさんも退職してから妻の店を手伝うようになった。毎日、妻のルオンさんはキッチンに立って生地を焼き、チュオンさんは野菜やライスペーパー、ヌクマムを運び、テーブルを整え、皿洗いなどをして妻をサポートしている。
2018年のクリスマスが近づいたある日の14時ごろ、花柄の服を着た女性が3歳くらいの娘と一緒に店を訪れ、バインセオを注文した。チュオンさんの記憶では、女の子は痩せて髪は長く、顔は汚れていた。
店が混んでいたため、その親子にバインセオを出した後、夫妻は2人を気に留めることなくバインセオを焼いていた。そういえば会計がまだだった、と気づいたチュオンさんが親子のほうに目をやると、母親の姿はなく、女の子だけがテーブルの上で眠っていた。店がまだ混んでいたこともあり、夫妻は「母親は用事でちょっとどこかに行っただけで、すぐに戻って来るだろう」と考え、仕事を続けた。
しかし、その日の仕事が終わって片付けをしていたルオンさんは、女の子がまだテーブルの上にいることに気づいた。「私を見ると『眠いよ』と言って、またテーブルの上に横になったんです。『お母さんはどこに行ったの?』と聞いても、ただ首を横に振るだけでした」とルオンさん。
ルオンさんは仕方なく女の子を抱っこして自宅に連れて帰り、風呂に入れてから休ませた。一方のチュオンさんは町内会長の家に行き、女の子のことを報告した。町内会は、チュオンさん夫妻が一時的に女の子を保護し、母親が迎えに来るまで世話をすることに同意した。しかし、5年が経った今も母親は戻っていない。
女の子の保護者になった日から、チュオンさん夫妻は女の子を「孫」と呼び、「グエン・ゴック・トゥオン・ビー」と名付けた。チュオンさんは、女の子が美しく聡明であるように、また平穏で良い人生を送れるように、という希望を込めてこの名前をつけたのだという。
しかし、ビーちゃんを育て始めた当初、夫妻は多くの困難に直面した。女の子は痩せていて、病気がちだった。「おかゆも食べないし、ミルクを飲んだら下痢をして熱を出すんです。私はパニックになってしまって、息子を呼んでビーを第2小児病院科に連れて行ってもらいました。病院で診てもらった結果、ウイルス性のものだとわかりました」とルオンさんは語る。
ビーちゃんが治療のために入院している間、ルオンさんは一晩中付き添って看病し、朝5時になると急いで家に帰り、市場に行って店の準備をし、店がすいている時は夫を病院に行かせた。「ビーを養うお金を得るために、何としても店に立たなければならなかったので、店を休むつもりはありませんでした」とルオンさん。
熱が下がっても、ビーちゃんは他にもいくつもの病気を患っていた。チュオンさんの年金とバインセオ屋の利益だけでは治療薬を十分に買えず、チュオンさんはやむを得ず何十年も手を出さなかった借金をした。「当時は損得も考えていませんでしたし、子どもたちもサポートしてくれていたので、妻と2人で何とかやっていました」とチュオンさんは話す。
ビーちゃんを育て始めてから2か月後、ビーちゃんはようやく元気になり、肉付きも良くなった。そんな中、チュオンさんの自宅には、養子縁組を申し出る人が殺到した。ルオンさんは、養子縁組のためにフーニュアン区から2回も訪ねてきた不妊の夫妻のことをよく覚えている。
「彼らは私にいくらかのお金と引き換えに女の子を譲ってほしいと嘆願したんです。でも、うちの家族は誰も同意しませんでした。そんなことをしたら人身売買になってしまいますから。だから、どんなに大変でも、自分たちの手でビーを育てることにしました」とルオンさんは語る。
2019年、4歳になったビーちゃんは幼稚園に行きたがったが、出生証明書がないため、公立の幼稚園には入れることができず、夫妻は月300万VND(約1万7000円)を支払って私立の幼稚園に通わせた。
ビーちゃんの状況を知った16街区の代表者は、その年の9月にチュオンさんがビーちゃんを一時的に養子として受け入れ、ビーちゃんが公立の幼稚園に通い、子どもの権利を享受できるよう、出生証明書を発行する手続きをサポートした。
こうしてビーちゃんは街区の公立幼稚園に通うようになったが、2か月後に再び体調を崩して幼稚園に行けなくなってしまった。元気になったころにはすでに小学校の入学申し込み期限を過ぎていたため、チュオンさんはひとまず、近所に住んでいる教師の家でビーちゃんに勉強させることにし、毎月50万VND(約2800円)を支払っている。「近々、ビーが正式に小学校に通えるよう、書類を出すつもりです」とチュオンさんは話す。
ビーちゃんは今、8歳になった。チュオンさん夫妻は1日中外でバインセオを売り、ビーちゃんは家事を手伝っている。ルオンさんによると、ビーちゃんは状況を理解しているらしく、とても良い子で何かを欲しがることもなく、自分のことは自分でやるのだという。
事情を知らない人が、何度かビーちゃんに母親についてたずねたことがあるが、ビーちゃんは「お母さんは死んじゃったの」とだけ答え、うつむいてそれ以上何も言わなかった。ビーちゃんの気持ちを悟ったルオンさんは、ビーちゃんが悲しい思いをしないよう、周りの人たちに「ビーに母親のことをたずねないように」と伝えた。
最近、ルオンさんは脳卒中を起こし、以来しょっちゅう風邪をひくようになってしまい、自宅で過ごすことが多くなった。バインセオの屋台は夫に任せている。息子は仕事が忙しくめったに帰省せず、娘も幼い2児の育児で忙しい。そんな中、老夫婦のことが大好きなビーちゃんは、あれこれと家事を手伝っている。
ビーちゃんの将来について聞かれたチュオンさん夫妻は、自分たちはもう年老いていて長くは生きられず、甘い考えは持っていないが、ただただビーちゃんがしっかりと教育を受け、その先により明るい未来が訪れることだけを願っている、と答えた。「私たちがいなくなったら、子供たちがビーの世話をすることになるんでしょうね」と、ルオンさんは涙を目に浮かべて語った。
[VnExpress 06:00 12/04/2023, A]
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