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[特集]

歌声は山を越え、海を越え…ハノイで人気のカラオケ教室に通う人々

2023/05/07 10:36 JST更新

(C) vnexpress
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 4月はじめの午後3時、ハノイ市ハイバーチュン区キムグウ(Kim Nguu)通りのカラオケ教室の4つのスタジオは、歌を習う生徒で満員だった。

 マイクの前で、インストラクターの手振りに合わせて歌うのはキエンさん(男性・33歳)。男性歌手の有名な曲を温かい声で歌うが、どうしても外れてしまう。そのたびに先生が「1、2、3」と手を使い、足を使って修正する。

 キエンさんは、マーケティングの仕事をしている関係から、接待で飲んだ後にお客さんとカラオケに行くことが多い。コロナ禍を経ても、大規模火災でカラオケ店が全国的に休業しても廃れることのない娯楽カラオケ。最近は喫茶店や自宅で楽しむ人が多いが、マイクとスピーカー、簡単なカラオケルームを備えたレストランなどもある。「お客さんのためにバンドを呼ぶこともあります。私はそこそこ歌える方なんですが、きちんと習って、みんなを驚かせたいんです」とキエンさんは、歌を習う理由を説明した。

 北部紅河デルタ地方バクニン省農業農村開発局の職員であるチャウさん(女性・41歳)は、文芸活動が盛んな職場で、自身も歌うことが好きで何度もマイクを握ったが、どうしても高音が出せなかった。そこで最近はたびたび早退を申し出て、40kmの道のりを越えて歌の教室に通っている。「歌のレッスンが、ヨガよりこんなに大変だったなんて…」とチャウさん。

 ひとつのコースを終えて、それなりの進歩を感じたものの、もっと上手くなりたいというチャウさんは、「お金が少しかかってもいいから、もっと早く上手になるコースを」と注文をつけて、次のコースに申し込んだ。

 東北部地方ランソン省に住むクインさん(女性・28歳)は、数百kmを越えて、ハノイ市の教室で歌を学んでいる。吃音があるせいで子供の頃から自分に少し自信がなかった彼女は幼稚園で働くようになったのだが、パーティーなど定期的に催されるイベントのおかげで、自信のなさが余計に膨らんでしまった。

 「歌が下手なので、いつも断っていました。カラオケに行っても、フルーツ盛りを見て、拍手をするだけ」とクインさん。あるときの幼稚園の忘年会では、皆で二次会にカラオケに繰り出したのだが、「皆で大盛り上がりしている時に、『子供が小さくて、夫も厳しいから』と言って先に帰りました」と彼女は言う。

 そんな自分にやるせなさを感じていた彼女は、その後しばらくして「カラオケ教室」の広告を目にする。「これだ!」とひらめくや連絡先に問い合わせ、一気に3コース分を申し込んだ。料金は総額1200万VND(約6万7000円)、彼女の給料3か月分だった。

 地方住まいであるため、授業は主にオンラインで受けている。音痴の気持ちなどきっとわかってくれないだろうと、歌の勉強を始めたことは、夫には黙っている。夫は遠距離で仕事をしており、帰宅も週1度。練習中に夫が帰ってくると、すぐに練習を抜けて見つからないようにしている。

 ハノイ市で声楽・カラオケ教室を営むゴックさん(男性)によると、ベトナム人は社交的で歌うことも好きだが、自分の歌声に自信がある、という人はそう多くはない。

 教室に来る生徒は、年齢も職業も様々だが、最も多いのはオフィスワーカーとリタイア組。ゴックさんの教室には、全国各地から人が通い、中には外国で働いていたり、外国に移住した人もいる。

 過去には、韓国人と結婚したベトナム人女性を教えたこともあり、その人は今、ベトナム語の練習のためにと娘にオンラインで習わせている。76歳の生徒は、足が悪いもののバスで教室に通ってきている。

 「地方出身だったり、故郷から遠い場所で働いている人ほど、歌を練習したいというニーズがあるように感じます。淋しさを紛らわせたかったり、家族や故郷に想いを馳せたい気持ちが強かったりするからでしょうか」とゴックさん。

 ハノイ市には現在、このような歌の教室が数十か所ある。ゴックさんの教室も、コロナ禍のスタートだったものの、すでに2か所に教室を拡大し、平日を含めて教室のスケジュールにもほとんど空きがないという。2022年の申し込み数は4000人、うち70%が歌の生徒だ。

 ハノイ市バーディン区で7年にわたって声楽教室を営むフオンさん(女性)の教室では、多い時には1日35人を教え、年間の生徒は約1000人を数える。彼女の教室は主に、オフィスで働く人や企業の管理職、経営者、公務員をターゲットにしているが、このようなブームについて彼女は、生活水準が高まり、人々に様々な娯楽や、自己研鑽のニーズが出てきたためではないかと見ている。

 こういった歌の教室の学費は、グループレッスンかマンツーマンか、むろん教室によって異なるものの、おおむね1コース200万~500万VND(約1万1000~2万8000円)で、基礎コースで終わる人もいれば、もっと上達させたいと何年も通う人もいる。

 さて、最後に前段の女性クインさんに話を戻そう。2か月あまり息子1人を観客に最初のコースを終えた彼女は今、同僚、友人、そして夫の前で歌う日を夢見ている。「次の機会には、必ずマイクを握りますよ」とクインさんは笑った。 

[VnExpress 06:22 17/04/2023, F]
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