[特集]
「HIV感染者」が家庭を持つということ
2023/02/05 10:13 JST更新
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HIVにかかっていると知り、何度自殺をしようと思っただろうか。
工場の仕事が終わると、ホーチミン市に暮らすミンさん(男性・42歳)は塾に娘を迎えに行き、家族みんなで妻が用意した夕食をとり、息子と戯れる。こんな毎日がHIV感染者の自分にやってくるなんて、ミンさんは思いもしなかった。
2012年、ミンさんは自分がHIVに感染していることを知った。ちょうど結婚を目前に控えた頃だった。
「目の前が真っ暗になりました。1~2年しか生きられないと聞くので、自殺しようかと思いました。結婚する彼女に迷惑をかけたくなかったし、家族を苦しめたくもなかったので」。
3年ほど薬物をやっていた。仲間と回し打ちしていた。不意に、身体が弱くなったと感じた。息苦しくなり、体重は落ち、身体中に発疹が現れた。支援団体にすがると、病院で検査を受けるようアドバイスされ、「陽性」という結果を受け取った。
医師からは無料の抗HIV薬(ARV)が出され、毎日1錠飲んで「ともに生きる」よう諭された。けれど未来への「視界」はゼロ、薬には手を付けなかった。じきに結婚しようという彼女には黙っていた。結婚したら、クスリをやめて人生をやり直すんだ、そんな決意をしていたからだ。後ろめたさを感じながら。
そんな気持ちを支援団体に打ち明けると、HIVにはいま治療薬があり、完治はしないが、毎日きちんと飲むことでウイルス量を抑えられ、元気な生活を送ることができるというアドバイスが返ってきた。「ウイルス量を一定以下に抑えられれば、性交渉で移すこともないですし、結婚して、子供をつくることもできますよ」という。
そんな励ましもあり、彼女にはすべてを打ち明けることにした。その日は支援団体のメンバーもそばにいてくれて、HIVの説明を、丁寧に、丁寧に、してくれた。
どんなにショックだっただろうか。それでも彼女は、同じ道を歩くと言ってくれた。ミンさんが完全にクスリを絶つことを条件に。
更正は、施設ではなく自宅ですることにした。母と妻から個室に閉じ込められ、手足をベッドに縛り付けられ、毎日食事を運んでもらった。しかし発作は襲ってきた。この紐を引きちぎって、あの壁を乗り越えれば楽になる。1週間しか持たなかった。妻の励ましの隙を見て、仲間のもとへ逃げ出した。
一度目は失敗。もう一度チャンスをくれないか。妻に頭を下げ、治療薬を変えてもらったこともあり、今度は少しずつ、発作を乗り越えることができた。誘惑を絶って半年、もう大丈夫、そんな確かな自信は、何かのパーティーで仲間に再会したことで、もろくも崩れ去った。
「3年かけて、4度の失敗を経て、やっとクスリを絶つことができました。昔たむろしていた場所を通りかかっても、もう欲しい気持ちは出てきません。これがもう最後、と妻に言われ、支援団体に毎日来てもらって、ようやく目が覚めました」。
それからは、健康を回復させるために治療法をしっかり守るようになり、子供をもつことを考えるようになった。近くの病院の医者からは、奥さんにも、子供にも移す可能性があるので子供はあきらめた方がいい、そう諭されたが、あきらめられず、ホーチミン市のHIV治療を専門にする大きな病院を訪ねた。
その病院で医師からは、ARV薬を毎日きちんと飲み、血液中のウイルス量を200コピー/mL未満、つまり検出限界値未満にすることができれば、性交渉によってHIVを移すことはない、という説明を受けた。
それから治療薬を飲み続け、夫婦で健康診断を受け、検査を受けることを繰り返し、父親になる条件は整った。そうして妻は妊娠し、娘が生まれた。
「子供も、妻も、HIVに感染していないという検査結果を受け取った時は、胸がいっぱいで言葉が出ませんでした」。それから数年後、夫婦には息子が生まれ、いま2人の子供は、元気に学校に通っている。
何よりも辛いのは、人々の眼差しだ。飲食店で、別のHIV感染者が使った食器を、店主が川に投げ捨てる光景を目にしたこともある。自分がHIVであることは、できるだけ周囲には話さないようにしている。子供が普通に学校に行けるように。
ミンさんは、自分は「あまりにも幸運だった」と言う。仲間たちはもう何人も死んでしまったし、そうでなくても結婚して、子供をつくった人などいない。理解者を見つけるどころか、人は近づこうとさえしない。
いまミンさんは、そんな「友」達に、「きっとできる。オレもできたんだ。毎日きちんと薬を飲めばいいだけなんだ」、そう励ましていく仕事をしたいと思っている。生き証人として。
最初は怖くてたまらなかった。だが元気に生きてもう12年、幸せな家族がいる。今も毎月病院に行き、無料の薬をひと月分もらう。
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[VnExpress 05:00 26/01/2023, F]
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