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[特集]

ホーチミンの路上でおもちゃを売る老人とその事情

2022/10/30 10:18 JST更新

(C) thanhnien
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 ホーチミン市1区グエンフエ(Nguyen Hue)通りの歩行者天国でおもちゃを売っている白髪の老人が、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で話題となった。

 老人は、暗くなった通りの路上にシートを広げておもちゃを並べる。白髪にしわの寄った白い肌の顔、シミだらけの手。頭に青い帽子を被った4区在住のゴ・クアン・チーさんは、行き交う人々の流れを見つめながらタバコに火をつけた。チーさんの歩行者天国での夜はこうして始まる。

 チーさんのおもちゃは売れても一晩に1~2個だけ。全く売れないこともある。それでも病気の時以外は毎晩この路上に現れる。

 チーさんは現在、4区の路地裏にある広さ52m2の家に暮らしている。チーさんによると、その土地はかつて親戚たちの助けを借りてゴールド20テール(1テール=37.5g、計750g)で購入したもので、家族が少しずつ資材を購入して頑丈な家を建て、階を増築していったという。

 チーさん夫妻には子供が5人いるが、今は娘1人と息子1人、そして数人の孫と一緒に暮らしている。今年50歳で肉体労働者として働いている娘に負担をかけないよう、チーさんはおもちゃを売りに出かけているのだという。

 リウマチを患い、足を引きずって歩くチーさんの姿を見て、子供たちは家にいるよう何度も勧めたが、チーさんは聞き入れなかった。「家にいてもつまらないですから。妻は身体が不自由で1か所に座っているだけですし、私はテレビを見たいわけでもないですし、手足のこわばりをとるために家でうろうろしていても退屈なんです。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で数か月間家にいましたが、こうして外に出て笑いたかったんです」とチーさん。

 路上で生計を立てている高齢者の多くは生活に苦労している一方、チーさんはというと、好きで路上に出ていて、それが老後の喜びなのだという。

 チーさん夫妻は若い時から路上で様々な雑貨を販売してきた。チーさんの妻が足の痛みで歩けなくなった当初は、チーさんも妻と一緒に家で過ごして子供たちに頼る生活だった。しかしわずか数日後、チーさんは同市のチョロン(Cho Lon)に向かい、歩行者天国で売るおもちゃを仕入れてきた。

 3年近く前までは、チーさんは商品を手に持って移動しながら売り歩いていたが、チーさんも足を悪くしたことで1か所に座って販売するようになった。そばに停めてある新しいカブについてチーさんは「仕事に出かける用に娘が買ってくれたんだ」と自慢げに話した。

 「今はたくさんの人が路上でものを売っているので、自分がまだ売れているのは幸運です。日々の売り上げは朝食を食べてタバコを買うのには十分。売り上げが良かった日は子供たちに食費として数十万VND(10万VND=約580円)を渡しています。子供たちに頼らずに自分で働きに出るほうがいいですし、病気の時も自分で薬を買うし、誰にも迷惑はかけません」とチーさんは語る。

 チーさんが暮らす小さな路地裏では、新型コロナで3人が亡くなったが、チーさんの家族は皆無事だった。「この時代を生きていられるのは、本当に幸運ですね」とチーさん。

 毎日18時半になると、シートと商品のおもちゃを持ってグエンフエ通りの歩行者天国に行くのがチーさんの日課だ。チーさんいわく、おもちゃは買わずにパック牛乳をくれたりアイスを食べないかと誘ってくれたりする人もいるという。そういったことも含めてチーさんは、人生は愛に溢れていると感じ、もっと喜びを感じるためにこの仕事を続けたいのだと教えてくれた。 

[Thanh Nien 12:12 19/09/2022, A]
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