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[特集]

ニャチャンの窯焼きバインミー職人、昔ながらの味そのままに

2022/10/16 10:29 JST更新

(C) thanhnien
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 南中部沿岸地方カインホア省ニャチャン市では、時が経つにつれて伝統的なバインミー窯が減り、代わりに短時間で焼けて便利で生産性の高い電気オーブンを使うようになっている。しかし、今でも伝統的な窯焼きバインミー作りに情熱を燃やし、この製法を守り続けている人がいる。

 午後遅く、他の皆が全員帰ったころ、グエン・バン・トーさん(男性・51歳)はまだ熱々のバインミー窯のそばにいた。痩せて浅黒い顔は汗だくだ。バインミーに火が通ると2本の長い木の棒を手に持ち、黄金色の香ばしいバインミーを素早く巧みに窯から取り出していく。1回焼き上がると次を焼き、これを繰り返す。

 トーさんのバインミー工房には看板がない。工房はニャチャン市ゴックヒエップ街区の小さな路地裏にあり、入口には薪が高く積み上げられている。これは、ニャチャン市に残る、伝統的な製法を維持している数少ないバインミー工房だ。

 トーさんの家族がバインミー作りを始めて60年が経つ。トーさんは幼いころから、火の絶えない窯のそばで父親が1日中汗水を流している様子を見てきた。当時は自宅の周りに同じようなバインミー窯がたくさんあった。

 父親が年老いて身体も弱ると、トーさんの兄が家業を継いだ。しかし、兄は重病にかかって亡くなってしまい、以来トーさんが後を継いでいる。「13歳でバインミーの作り方を覚えたので、もう37年になりますね。この仕事が好きだし、家業を継いでいきたいので、辞めるつもりはありません」とトーさん。

 かつてのニャチャン市にあったバインミー工房は、いずれもドーム型の1段式の窯を使っていた。焼く前に窯に直接薪を入れて火をつけ、十分に温度が上がったら薪を取り出して灰をきれいに払い、バインミーの生地を窯に入れる。温度がある程度下がったら今度はオイルランプで直接熱を加えるというやり方だ。その後、窯は2段式に改良された。2段式は薪の熱が天板の上下に伝わるため、焼き上がりが均一になる。

 トーさんによれば、かつての伝統的なバインミー工房の主人たちはもう仕事を辞めたか、省力化と高い生産性を求めて電気オーブンを使うようになっているという。

 焼きたてのバインミーを指さしながらトーさんは、生地をこねて酵母を加えて窯に入れるという基本的な作り方はどこも同じだと説明した。ただし、違いは焼き方にある。

 電気オーブンの場合、職人は生地をオーブンに入れてボタンでタイマーをセットするだけで、窯が時間通りに焼き上がりを知らせてくれる。そして職人は焼き上がったバインミーをオーブンから取り出せば、作業は完了する。

 一方、窯焼きの場合、職人は絶えず窯を見守り、中の温度を確認しながら薪を増やしたり減らしたりして調整しなければならない。「バインミー作りの仕事で一番難しいのは、焼く技術です。薪の量によって焼き上がりの時間も変わるので、自分の勘と経験に頼るしかありません。気を付けないと、焼け焦げて廃棄することになってしまいますから」とトーさんは語る。

 焼き上がりを待つ間に少し座ってお茶を飲み、タバコをふかしながらトーさんは遠くを見つめ、ニャチャン市の伝統的な窯焼きバインミー作りはいつか消えてしまうだろうな、と言った。今の若い世代はバインミー作りよりもむしろ他の仕事を好むからだ。「うちには息子が2人いますが、この仕事は大変で収入も多くないからと、2人とも父親の仕事を継ぐ気がないんです。上の息子なんて、窯焼きならやらないけれど、私が電気オーブンを買うなら継いでもいいと言っています」とトーさんは打ち明けた。

 ニャチャン市のバインミー工房はどんどん増えているが、昔ながらの窯焼きの工房はほとんどない。今から20年ほど前は、あちこちの窯でふっくらとした黄金色で香ばしいバインミーが次々と焼き上がっていたが、時が経つにつれて混ぜ物をするところが増えた。バインミーを大きくふくらますために添加物を加えて、見た目はふっくらしていても中が空洞ということもある。今や、伝統的な製法を続けている人はごくわずかだ。

 トーさんの工房では1日に1000本から2000本のバインミーを焼くだけで、利益はほとんどないが、客に商品を引き渡す時間に間に合うよう、朝の3時から作業をしている。トーさんは晴れの日も雨の日も、同じように時間通りに仕事をする。

 「他のバインミーと比べて、私が作るバインミーは炭の香りがして香ばしいんです。炊飯器で炊いたご飯と窯で炊いたご飯が違うのと同じです」とトーさん。

 電気オーブンに切り替えるつもりはないのかと聞かれると、トーさんは父親が残した昔ながらの製法を続けたいのだと答えた。それに、客も窯焼きバインミーが好きだからこそ、これからもこの製法を続けていくという。 

[Thanh Nien 13:42 09/10/2022, A]
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