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[特集]

元夫に火をつけられた女性が見つけた新たな幸せ

2022/07/10 10:22 JST更新

(C) vnexpress
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 元夫に火をつけられて全身に火傷を負った日から、2人の子供を自分で育てていくと決めていたガンさんだったが、同様に火傷を負い、困難な状況にいたミンさんからの愛情がガンさんを変えていった。

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 ある朝、ホーチミン市クチ郡にある小さな家でレ・ティ・キム・ガンさん(女性・35歳)が目を覚ますと、グエン・バン・ミンさん(男性・33歳)が汗だくで台所に立って朝食を作っているのが見えた。

 朝食の後、ガンさんがその日の販売計画を立てている間、ミンさんは今年小学4年生になるガンさんの下の息子を学校に連れて行き、上の息子は自転車で学校に向かった。「家事は全部、ミンさんと息子2人が分担してやってくれています。3人の男性が1人の女性を幸せにしてくれるのね、と私はよく冗談を言っているんです」とガンさん。

 ミンさんがガンさん親子と1つ屋根の下で暮らすようになってから、ガンさん親子の生活はまるで変わった。「以前は私1人が全てのことに責任を負っていたので、自分が男性であるかのように感じていましたが、ミンさんと暮らすようになってからは自分の弱さや子供っぽさも出せるようになりました」とガンさんは語る。

 今から数年前、重度の結核を患い、さらにサッカー賭博で負けて借金の取り立てに追われていたガンさんの元夫は、自宅にガソリンを撒いて火をつけ、妻子を巻き添えにして心中を図った。火の海の中、ガンさんは必死で2人の息子を家の外に連れ出した。子供たちは無事だったが、ガンさんは命こそ助かったものの、身体の92%に火傷を負った。

 病院のベッドで目覚めたガンさんは身体中の痛みと戦いながら、立ち上がって歩く練習を始めた。2人の息子のため、ガンさんは人々の視線など気にも留めず、火傷の跡が残る顔でフェイスブック(Facebook)のライブ配信による商品の宣伝と販売の仕事にも挑戦した。

 過去を振り払うため、ガンさんは故郷の南中部沿岸地方フーイエン省を出てホーチミン市に移り住み、火傷を負う前にも仕事にしていた仕立て屋を開いた。ガンさんは同じように火傷を負った人々のコミュニティでも有名で、火傷治療のアドバイスやサポートを行うなど、同じ境遇の人々に勇気を与えた。ミンさんはそうしてガンさんから勇気をもらった人たちの1人だった。

 2020年、クチ郡に住むミンさんは、バイクの燃料タンクの爆発により身体の52%に火傷を負った。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でミンさんの状況を知ったガンさんは、ミンさんが入院していたホーチミン市のチョーライ病院に見舞いに訪れたが、本人に会うことはなかった。

 テト(旧正月)が近づいた頃、ガンさんはミンさんを励ますためにミンさんの自宅を訪れた。当時、ミンさんはバイクに乗ることもできず、火傷で手の関節が硬くなり、自分で食べ物を口に運ぶことも難しい状態だった。

 来客があっても自分の部屋に閉じこもってしまうミンさんに、ミンさんより2つ年上のガンさんは「バイクに乗ってうちに遊びにおいでよ」とたびたび誘った。「自分と同じように重い火傷を負ったのに、ガンさんは自信に満ち溢れ、楽観的で冗談を言って笑わせてくれることにとても驚きました」とミンさんは当時を回想する。

 ミンさんはその後、時々バイクタクシーでガンさんの店まで遊びに行くようになり、ガンさんが旅行に行く時にはガンさんの子供たちの世話を手伝うようになった。

 ある時、同じように火傷を負った友人に手術を受けさせるため、2人で友人を病院に連れて行った。用が済むとガンさんは他の人としばらく会話をしていたが、その間、ミンさんはガンさんの隣にずっと座っていた。そしてふと、「え、もう用も済んだのに、どうして帰らないの?」とガンさんが驚いて尋ねた。

 ミンさんはそれを聞いてただ笑うしかなく、何も言わずにガンさんの隣に2時間座っていた。「その時、僕はガンさんのことが好きだと気づいていましたが、火傷のせいで自分1人では生活できない状態だったので、あえて自分の気持ちは伝えませんでした」とミンさん。

 一方、ガンさんにとってミンさんは良き弟のような存在だったため、ミンさんに別の女性を紹介したこともあった。ガンさんはミンさんが悲しい気持ちで閉じこもる日々を過ごす代わりに、前向きに生活が送れるよう、関節を動かすための運動をするよういつも励ましていた。

 2021年の半ば、ホーチミン市で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大した時期に、ガンさんと2人の息子は感染を避けるため故郷のフーイエン省に戻った。田舎でミンさんとビデオ通話で会話したときに、ミンさんがハンモックの上で横になっているのを見たガンさんは「またそこにいるの!」と叫び、ミンさんは慌てて起き上がった。

 ガンさんの子供たちがそのビデオ通話の様子を見ながら「ミンおじさんはお母さんのことが本当に好きなんだと思う。お母さんが言うことは何でも聞いているもん」とガンさんに伝えた。ガンさんはすかさず、「お母さんは今、あなたたちのことだけでも大変なのに、ミンおじさんのことまで気にかけられないわよ。おじさんはバイクの運転もできないでしょ。お母さんはどこに行くにも3人の男性をバイクに乗せないといけなくなるのよ」と返した。ミンさんはただ笑って、ガンさんに「早くホーチミン市に戻っておいで」と言った。

 新型コロナの感染状況が一旦落ち着いた2022年のテトの頃に、ガンさんと2人の息子はホーチミン市に戻ることにした。同様に市外からたくさんの人が戻り始めると予想したガンさんは、混雑を避けるためにテト前にホーチミン市に戻った。

 さらに半年以上クローズしている自身の仕立て屋も気がかりだった。「その時にホーチミン市に戻ったのはミンさんのためでは全くありませんでしたが、彼が私に好意を持っていることには気づいていました」とガンさん。

 ガンさんが到着するとすぐにミンさんが現れ、ガンさんと子どもたちと一緒に店の床掃除や修繕を手伝った。市場に行こうとガンさんがバイクに乗ると、ミンさんが「乗せて行ってあげるよ」とやってきた。「あんた、どこに行くか知っていて乗せて行ってあげるなんて言っているの?」とガンさんが驚いて尋ねると、ミンさんは「もちろん」と答え、自らバイクを運転してガンさんを市場に連れて行った。

 ガンさん親子がホーチミン市を離れていた2か月近くの間、ミンさんがガンさんと生きていきたい一心で料理とバイクの運転の練習をしていたことなど、ガンさんは知る由もなかった。火傷はガンさんより軽いものの、ミンさんの右手には動かせる指が2本しかなく、さらに手足の関節もすぐにリハビリを始めなかったせいで硬くなってしまっていた。手の皮膚は焼けて、ハンドルを握るときの感覚がなくなっていた。

 友人に頼んでバイクの運転の練習を始めた当初、友人がバイクの後ろに座り、ミンさんが倒れそうになると助けてくれた。しかし数日後、1人で練習をしていたミンさんは、バランスを崩して地面に倒れた。皮膚は火傷のために硬くなっており、転倒するたびにしびれるような痛みが走った。身体には火傷の跡はなかったが、バイクの練習で身体中に出血やかすり傷が増えた。

 ミンさんは台所に立って簡単な料理の練習も始めた。右手は力が入らないため、利き手ではない左手を使って米をよそったり、食材を調理したりした。重い火傷を負った人々にとって、長時間立ち続けることは大変だ。それでも、愛する人をサポートするために主体的に行動したいという強い思いで、ミンさんは毎日練習を続けていたのだった。

 「ミンさんのバイクの後ろに座った瞬間、彼は私のために変わったのだとわかり、心から感動しました」とガンさん。その日の食事は2人で市場に行って食材を買い、ガンさんの好きなカインチュア(canh chua=酸っぱいスープ)を作った。ミンさんが台所に立つと、ガンさんは驚きの連続だった。その食事の後、どちらからともなく自然に2人はカップルになった。

 しかし、独身のミンさんと2人の子持ちのガンさんの関係は、ミンさんの家族からは今もまだ認めてもらえていない。それでもミンさんは、自分の愛する人に子どもが2人いようと10人いようと、愛する気持ちは変わらないのだと断言した。

 5月初め、2人は一緒に暮らし始めた。ミンさんは今では近隣の人に会うのを避けることなく、周囲の視線を受けながらも市場に行ってガンさん親子のために買い物をしている。最近ではガンさんのライブ配信ショッピングにミンさんも加わるようになった。

 そして毎日、ミンさんはガンさんの代わりに2人の息子の送迎をし、愛する人の大変な仕事を一緒に担っている。「彼もまた13歳で母親を亡くして孤児になり、伯母と一緒に暮らしていたので、息子たちの気持ちがわかるのだと思います。困難を経て、私もようやく自分を補ってくれる相手を見つけることができました」とガンさんは胸の内を明かした。

 ミンさんの願いは、自分の愛する人たちとより良い生活を送ることだ。ミンさんは来年、小さな結婚式を挙げようと計画している。「愛のおかげで、私とガンさんは共に新しい人生を歩んでいます。僕たちは外見は完璧ではないけれど、ガンさんと完璧な家族になりたいと思っています」とミンさんは打ち明けた。 

[VnExpress 06:00 12/06/2022, A]
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