[特集]
「走って走ってお金を稼ぐ」、ホーチミンのユニークな仕事
2021/12/12 10:01 JST更新
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南部メコンデルタ地方アンザン省出身で、現在はホーチミン市ビンタン区に住むボー・バン・レーさん(男性・64歳)は、毎日10km以上走り、1日に15万VND(約710円)を稼いでいる。この21年間、低収入で苦労してきたが、それでも「走らなければ食べられない」と、レーさんは走り続ける。
朝5時、目覚まし時計の大きな音が鳴り響き、ロープの紐の束を作るために1日中走り続けるレー夫妻のハードな1日が始まる。
夫妻はまず、絹のように絡み合った細い紐を解くと、それらの紐を引っ張りながら走り、パターンに従って長く大きな束にまとめていく。簡単そうに聞こえるが、実際には「汗をかき、涙を流す」ほどの大変な工程をいくつも経なければならない。
「この紐を解くのは大変です。途中で切れたり複雑に絡まり合ったりしているので立ったまま1つ1つほどいていくのですが、とても時間がかかります。短気な人だったらこの仕事はできないでしょう。紐を解き終わったら、熊手のような櫛状の道具に30本ずつ引っかけます」。58歳になるレーさんの妻のクイン・ティ・マーさんは最初の工程について教えてくれた。
絡んだ髪の毛をとかすように細い紐を解いていく作業に苦労した後、妻のマーさんはいったん自分の作業を休憩し、続いて夫のレーさんがシャツの裾をまくり上げ、解いた紐を引っ張りながら走り出す。
「紐を引っ張りながら走るのは一番大変な工程です。暑い日差しの中で行ったり来たりするので、身体じゅう汗びっしょりで、頭痛やめまいも頻繁に起こります。暑い日もしんどいですが、雨の日は走ることができないのでお金が稼げません」とレーさん。
レーさんは紐を結びつけた木の棒を引き、庭に設置した台に紐を引っかけるため、勢いよく400m走る。今年64歳になるレーさんだが、1日で10km以上走ることもあるという。
走り終わると、電動機を始動させ、伸ばし終わったばかりのプラスチック紐を編み、そしてより強く耐久性のあるロープにする。最後に妻のマーさんが編み終わったロープを束にして、顧客に引き渡す。
レー夫妻のようなロープ作りの熟練者は、15分ほどで重さ3~4kgのロープを完成させる。夫妻と末の息子で一緒に作業をして、1日に約100kgのロープを作り、1人当たり15万VND(約710円)を稼ぐことができる。
「この仕事はかなり過酷ですが、必死でやれば慣れます。雨と日差しに耐えさえすればよいのですが、会社勤めの労働者の収入にはまるで届きません。それでも田舎で働いていたころと比べれば今のほうが安定しているので、私たち夫婦はこの仕事を続けています」と、夫のレーさんはため息をついた。
3~4日ごとに顧客がレーさんの自宅まで商品であるロープを受け取りに来る。レーさん一家や周辺の家庭で作られたロープはあちこちの省・市に届けられ、漁網や農業向けの資材として活用されている。
レーさんは田舎のアンザン省チョモイ郡にいた10歳の時から、この仕事に慣れ親しんできた。親戚からこのロープ作りの技術を教わったものの、全て手作業だったため生産量が少なく、家族を養うことができなかった。
21年前、田舎のロープ市場が日に日に小さくなっていくのを目の当たりにし、夫妻はホーチミン市で事業を始めることにした。しばらく働いた後、夫妻はその土地から追い出され、新しい土地に移動した。これまでに夫妻は土地所有者から3度も追い出されており、今の土地からも近いうちにまた追い出される恐れがあるという。
「ホーチミン市には1年を通して仕事がありますが、ロープ作りで走るのに十分な面積の、さらに賃料の安い土地を見つけるのはとても難しいんです。せっかく良い場所を見つけても、住み始めて間もなく土地の所有者から倉庫や貸し部屋、駐車場などを建てるために立ち退きを命じられます。その方が所有者にとって利益が大きいからです」とレーさん。
現在、夫妻はビンタン区リエンクー(Lien Khu)4-5通りに住まいとロープ作りのための土地を借りており、賃料は1か月200万VND(約9900円)だ。以前、この地域には夫妻と同郷で同じくロープ作りの仕事をしている家庭が11世帯住んでいたが、賃料が高すぎるという理由でほとんどが引っ越してしまい、現在は4世帯しか残っていない。
「4か月間続いた社会的隔離措置で、貯金を全て使い果たしてしまいました。4か月分の電気代も未払いのままです。最近、土地所有者がここに来て土地をずっと見ているので、恐らくこの土地もそろそろ売るんだと思います。いつまでここに居られるかもわかりません……」とレーさんはまたため息をついた。
早朝5時から夕方5時まで走り続ける生活のため、レーさん夫妻は毎晩頭痛がして眠りづらくなった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生する前は、2023年には故郷のアンザン省に戻り、孫たちの世話をして老後を過ごすことを考えていたというが、新型コロナの流行により、レーさんは考えを変えた。
「あと5~7年は走り続けないと、故郷に帰って暮らすお金もありません。ただ走り続けるだけです。この土地から追い出されたら、他の土地を借りるしかありません。自分自身が努力を続ければ、天はきっと見ていてくれるはずです」とレーさんは語る。
[Dan Tri 06:59 12/11/2021, A]
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