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[特集]

慈善活動に尽力する片脚のYouTuber、幼少期の悲劇乗り越え

2021/08/08 10:15 JST更新

(C) tuoitre
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 幼い頃に左脚を失ったルオン・フィーさん(31歳、南中部沿岸地方クアンナム省ズイスエン郡ナムフオック町在住)の人生には、たくさんの浮き沈みや苦労があった。しかし、フィーさんは鉄の意志で努力を続け、今や有名ユーチューバー(YouTuber)となり、数多くの慈善活動を行っている。

 フィーさんのユーチューブ(YouTube)チャンネル「Phi Mot Chan(フィーモットチャン=「片脚のフィー」の意)」のチャンネル登録者数は2021年8月8日時点で22万人を超え、1000本余りの動画の視聴回数は合計5700万回超に達している。フィーさんの動画の内容は、不運な人々に生きる力や勇気を与え、困難な状況にある人々を助けるものだ。

 今から28年前のある夏の日の昼間、精神病質者の男がナタを手にフィーさん一家の自宅に押し入り、当時妊娠中だった母親、姉、そしてフィーさんに襲い掛かった。母親は頭を、姉とフィーさんは脚を切りつけられ、3人とも命は助かったものの、フィーさんは左脚を永遠に失うこととなってしまった。事件後、母親は身体が弱くなり、姉は幸いにも脚の接合手術に成功した。

 以来、事件当時に不在で難を逃れた父親が1人で一家を養うため、働き詰めとなった。片脚だけが残ったフィーさんは、生活の全てを親戚に頼らざるを得なくなった。

 10歳になると、周りの友人たちがふざけ合ったり、走り回ったりする様子を見て、自分の障がいを実感した。フィーさんに片脚がないことを理由に、友人たちにからかわれたり、笑いものにされたりすることも多々あった。

 「その時はとても悲しかったです。しょっちゅううつに陥り、自虐的になり、誰とも接したくなくなりました。教室に座って、自分の脚が無傷だったらいじめられることもなく、遊べたのにとばかり思っていました」とフィーさんは打ち明けた。

 フィーさんの母親のホー・ティ・トゥエットさん(59歳)は、幼少期のショックな出来事のせいでフィーさんが傷つき、うつ病になってしまい、家族もとても心配したのだと語る。部屋に座って物思いにふける息子を見ては心が痛み、自分の家族にこんな仕打ちをした犯人を憎んだ。「息子がからかわれないよう、学校や遊びに行かせたくありませんでした。息子に義足を作ってあげたかったのですが、お金もありませんでした」とトゥエットさんは涙を流した。

 しかし、家族の励ましとけなされることを許さない強い意志のもと、フィーさんは人生を変えることを決心し、木製の松葉杖を使って歩く練習を始め、脚の筋肉を鍛え、生活の全てを自分でこなすようになった。

 他人に見下されないよう、そして家族の重荷にならないよう、フィーさんは努力を続け、流血したり、入院したりを繰り返しながら、自分で歩いたり走ったりする練習を重ねた。何年にもわたる努力の末、今ではサッカーボールを蹴ったり、縄跳びをしたり、何でも好きなことができるようになった。

 「とにもかくにも人生は続き、その先には追い求めるべきことがまだまだたくさんあります。私は脚に障がいがあるだけで、生まれつき脳や心臓が悪いわけではありません。だから、決して失望することなく、逆境を乗り越えようと思ったんです」とフィーさんは語る。

 こうしてフィーさんは徐々に生活に馴染んでいき、高校を卒業したものの、家計が苦しかったため大学進学の夢を諦め、南中部沿岸地方ダナン市の専門学校に入学した。その後、フィーさんはダナン市にあるスタジオに就職した。

 2016年に結婚したフィーさんは、故郷に戻ることに決めた。フィーさんによると、ダナン市で暮らしている間にインターネットでユーチューバーの仕事について調べ、ユーチューバーのトレーニングコースに参加したり、ユーチューブの規定について学んだりしていたのだという。

 2018年7月、フィーさんはユーチューブチャンネル「Phi Mot Chan」を立ち上げた。当初の動画は自身の日々の活動や食についてのものだった。

 「初めてユーチューブに動画を投稿した時は、動画を投稿すべきか否か、もう少し時間をかけてからにすべきか、とても迷いました。ユーチューバーになってからは、以前のような人見知りやコンプレックスはなくなりました」とフィーさんは振り返る。

 1年近く、たった1人でカメラ1つで動画を撮影しながら、動画をより生き生きと魅力的にするため、自分でカメラの位置や角度を変えたりもした。しかし、こうした努力もむなしく、フィーさんの動画はなかなか視聴回数が伸びず、ほぼ1年間は1VNDも稼げなかった。近所の人々からも色々と言われ、大きなプレッシャーを感じていた。

 「がっかりしてもう辞めようかと思うこともしょっちゅうでした。でも、何としても自分が敗者になるわけにはいかない。家族も妻子もいる。だからチャンネルの方向性を変えて、ゼロからやり直すことに決めました」とフィーさん。

 食の動画でうまくいかなかったフィーさんは、動画のテーマを病気の人や困難な状況にある人、不運な人を助け、生きる力や勇気を与える内容に変更した。以来4年間にわたり、1人であちこちに出向いては人々の困難な状況を撮影し、視聴者にシェアしている。

 チャンネルの方向性を変えてから、フィーさんの動画は海外の慈善家を含めて多くの人々の注目を集めるようになった。現在、ユーチューブチャンネルを通じたフィーさんの月収は2500万~3000万VND(約12万~14万4000円)に上っている。

 フィーさんはこれまでに慈善家との協力により、700人余りの貧しい人や病気の人を助け、22軒の民家の修繕や建設を支援してきた。フィーさんは今、ユーチューブチャンネルを通じて慈善家と困難な状況にある人々をつなぐ架け橋となっている。

 クアンナム省ズイスエン郡ズイソン村フーナムドン村落に住むディン・バン・レさん(54歳)は、自宅の建設費としてフィーさんから2億5000万VND(約120万円)を贈られた。「事故に遭って寝たきりになり、私たち父子4人は人の家に住まわせてもらうしかありませんでした。でも、幸いフィーさんのおかげで治療ができ、家も建てられて、本当に感謝しています」とレさんは言葉を詰まらせた。

 故郷のクアンナム省の貧しい人々を助けるだけでなく、フィーさんは視聴者の紹介により北中部地方クアンチ省、同クアンビン省、南中部沿岸地方ビンディン省、同カインホア省などにも足を運び、チャリティーのための動画を撮影している。暴風雨のような悪天候でもフィーさんは洪水や土砂崩れの被災地に行き、困っている人々を助ける。さらに、困難な状況にある地元の生徒や学生を支援するための募金も呼び掛けている。

 「私にとって、他の人を助けることは、自分自身を助けることでもあるんです。私も経験者なので、障がい者や貧しい人の気持ちがとてもよくわかります。それこそ、私がユーチューブチャンネルの方向性を変えることにした理由でもあります」とフィーさんは語る。

 フィーさんは今の仕事を通じて海外の慈善家やユーチューバー界隈をはじめ、多くの人々から愛され、尊敬され、「片脚の聖人(Thanh mot chan)」とも呼ばれている。

 2021年3月、フィーさんのもとにユーチューブからチャンネル登録者数10万人を記念して「銀の再生ボタン」が贈られた。これは、フィーさんが4年間にわたり懸命に働き、チャンネルを運営してきた成果だ。「銀の再生ボタンを受け取った時はとても嬉しかったです。これまでの努力が報われました」とフィーさん。

 フィーさんは近い将来、同じ情熱を持ったユーチューバー仲間を探し、より多くの人々を助けられるよう一緒に各地を回りたいと考えている。そして、チャンネル登録者数1000万人を超えると贈られる「ダイヤモンドの再生ボタン」を目指して引き続き多くの動画を投稿していくつもりだ。


フィーさんのユーチューブチャンネル「Phi Mot Chan(「片脚のフィー」の意)」:https://www.youtube.com/channel/UCBbAoiTNYD5f9ZRUUfwWR8A 

[Tuoi Tre 14:30 22/07/2021, A]
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