[特集]
ハノイの交通事故救助隊ボランティア、二足のわらじで市民を救う
2021/04/25 10:21 JST更新
(C) zingnews |
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ハノイ市で2年近く前から活動しているボランティアの交通事故救助隊「FASエンジェル(FAS Angel)」は、これまでに3000件以上の交通事故現場に出動し、けが人を救ってきた。チームは市民にも知られた存在となっている。
時計の針が午後9時30分を指すと、メンバーたちは救急医療キットを入念にチェックし、配置の割り当てを受け取る。そして、「誰のことも見捨てない(KHONG BO ROI AI CA)」とプリントされた緑色のジャンパーに反射ベストを着て出発し、市内各地の通りに散っていく。
FASエンジェルのメンバーは祝日やテト(旧正月)も毎日活動している。リーダーのファム・クオック・ベトさんはこう語る。「我々のことを英雄と呼んで称賛してくれる人もいれば、『得もないのに他人を助けている』と言って批判する人もいます。でも我々はただ単純に、仕事は仕事と考えています。シフトを終えて、誰もけが人がいなければ、それで十分嬉しいんです」。
救助隊は2019年に結成された。メンバーは主にバイクタクシーの運転手やシッパーだ。日中は忙しく働いて生計を立て、夜はボランティアの救助隊として活動している。「日中の仕事柄、メンバーはハノイ市内の通りに精通しています。もしどこかで事故が発生すれば、皆すぐに現場に駆け付け、けが人を助けることができます」とベトさんは語る。
結成当初はメンバーが2人しかいなかったが、現在は70人余りにまで増えた。救助隊の活動に参加する前には、基本的な応急処置などの訓練を受ける。毎月メンバー1人1人が少額のお金を出し合い、包帯や薬、道具などを購入している。
メンバーは普段、夜間に衝突事故が発生しやすい環状3号線やキムリエントンネル、ザイフォン通り、グエンチャイ通り、グエンシエン通り、チュオンチン通り、ディンコン通りなどを見回る。
パトロールに加えて、FASエンジェルには24時間対応のオンライングループもあり、彼らはインターネットの掲示板で交通情報をチェックし、警察の「113番」、消防の「115番」の情報も受けている。
事故の情報が入ると、リーダーの指示で現場付近にいるメンバーが急行し、救急車が間に合わなかった場合に応急処置を行う。任務にあたるメンバーにとって、道路をすいすいと走れた日は事故もなく、皆が安全に移動できたということでもあるため、ラッキーと感じるのだという。
ある夜の任務は、グエンシエン通りで軽傷者に応急処置を施しただけだった。若い男性は酒に酔っていて、速度を制御できず赤信号で停止していた前方の自動車に衝突してしまったのだった。
一方、1時間で4件の事故現場に出動しなければならない日もあった。メンバー皆が一睡もせずにけが人を助け、持ち物を守り、交通整理を行い、翌朝6~7時になってようやく帰宅して休むことができた。
活動中、救助隊は定期的に訓練を行い、メンバー全員の応急処置のスキルアップを図っている。訓練では、古参のメンバーが新人に経験を伝えている。
リーダーのベトさんは「見捨てない(Khong bo roi)、お金を受け取らない(Khong thu phi)、争わない(Khong tranh cai)、差別をしない(Khong phan biet)、罪を犯さない(Khong ket an)」という、FASエンジェルの「5つのノー(Khong)」を教えてくれた。「誰かが事故に遭ったら見捨てない。そうすれば、いつか自分が事故に遭ったときに誰かが助けてくれるから」。これは、メンバーの合言葉でもある。
この活動はメンバー個々のボランティア精神から始まったものであるため、「余計なお世話」や「暇人」などの批判の言葉を浴びせられることも少なくない。
「仕事で1日中出ずっぱりです。子供もまだ寝ている早朝に家を出て仕事をし、夜は救助隊のシフトを終えてからようやく帰宅します。色々な人から、妻と子供の世話もしないで他人のことばかりと責められますが、ありがたいことに妻は理解してくれています。家のことや子供の世話は、妻が引き受けてくれているんです」とメンバーのフンさんは語る。
メンバーは事故に遭った人の救助だけでなく、現場で起こるもめごとにも任務の一環として対処する。メンバーのダン・トゥンさんは過去に、仲間と現場に出動したものの、事故に遭った本人があまりに泥酔しており、挙句の果てにナイフで脅され、暴言を吐かれ、応急処置もさせてもらえなかったことがあるという。
別のときには、現場でけが人の傷口に包帯を巻くのに集中している間に、野次馬に紛れた盗っ人に救助隊の財布や携帯電話を盗まれてしまったこともある。
「けがをした人の家族がすぐに来られないときは、我々がけが人を病院に連れていくことも多いです。けが人が経済的に困窮している人であれば、メンバーでお金を出し合って病院の費用を渡します」とベトさんは話す。
過去2年間に多くの事故を目の当たりにしてきた中で、ベトさんやメンバーが最も誇りに思っているのは、自分たちの活動によって多くの重傷者が手遅れにならずに危険な状態から回復したことだ。しかし一方で、メンバー皆が最善を尽くしたものの、犠牲者の命を救うことができなかったときには自責の念と後悔に苛まれる。
「半年前にホートゥンマウ通りで起きた事故が忘れられません。若い男性がコンテナトラックの後輪にひかれてしまったんです。現場に駆け付けたときには既に彼の呼吸は弱く、自分は何もできませんでした。ただ謝罪し、すぐに家族が来るから安心してと声をかけるしかありませんでした」とベトさん。
ベトさんは結成当初を振り返り、こう語る。「交通事故の救助隊を結成しようと思い付き、FASエンジェルという名前と自分の携帯電話番号を印刷したシールを作って、友人や親戚に配りました。道端では、救助隊の存在が少しでも広まればと願いつつ、知らない人にも配って回りました」。
メンバーが外を移動するときには、FASエンジェルのロゴとスローガンがプリントされたジャンパーを着て、道行く人々にも救助隊だとすぐにわかるようにしている。おかげで、けが人や事故現場の近くにいる人から救助隊に直接連絡してくれるようになった。
しかしながら、FASエンジェルにとって最大の問題は活動を維持していくための資金だ。メンバーの多くが家族の大黒柱で、他の省からハノイ市に出稼ぎに来ているため、家賃やその他諸々の費用を支払わなければならず、経済的な余裕がないのだという。
「メンバーの金銭的な負担を減らすため、包帯やアルコール消毒液、医療用品などを支援してくれるスポンサーがついてほしいと願っています。そうすれば、我々もより安心して活動に励むことができますから」とリーダーのベトさんは語った。
[Zing 08:15 24/03/2021, A]
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