[特集]
ホーチミンの貧しい人々に古着を無料で届ける、ボランティアに生きる81歳
2021/04/11 05:24 JST更新
(C) thanhnien |
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ホーチミン市ニャーベー郡在住のグエン・バン・トゥーさん(81歳)はこの4年間、毎日市内の工場労働者や貧しい人々に古着を無料で配っている。色々な人から「他人事の世話をするなんて、あの聴唖(ちょうあ)のじいさんは頭がおかしいんじゃないか」と嘲笑されてもこの活動を続けている。
トゥーさんは痩せこけて髪の毛もほとんど白髪で、両目も濁り、咽頭の病気のため話すことができず補声器を使っている。普段は後部に荷台を取り付けた三輪バイクを運転して古着を運んでいる。
トゥーさんの自宅の「倉庫」には、たくさんの古着がきちんと整理されて保管されている。トゥーさんによると、古着は多くの人にとってはあくまでも着古した服だが、トゥーさんにとっては大切な宝物なのだという。これらの古着は、彼の有意義な活動に賛同した全国各地の人々から集まってきたものだ。
トゥーさんは以前、長距離運転手として働いていた。高齢になって運転手の仕事を辞め、約10年前からはボランティア活動にすべての時間を捧げている。あちこちに行けば行くほど、恵まれない境遇の人々に対する思いが増していった。
「多くの子供たちがまともな服を着られず、また多くの労働者が新しい服を買えない状況を目の当たりにし、無料で古着を配る活動を始めました」とトゥーさん。
トゥーさんが高齢で、さらに話すこともできないことから、当初は家族すらもこの活動に反対した。それでもトゥーさんは決心し、実行に移した。その後、トゥーさんから古着をもらった人々の笑顔を見て、妻や子供たちも徐々に応援するようになり、今では古着の整理などもサポートしている。
「何より喜ばしいのは、メコンデルタや中部の人々まで、私宛てに古着を送ってくれることです。皆が手を取り合うことで、多くの貧しい人たちが古着を手にできる。それがとても嬉しいんです」とトゥーさんは笑って言う。
トゥーさんが今乗っている三輪バイクも、以前の車両があまりに古く、荷物も多く運べなかったのを見かねた人が贈ってくれたものだ。しかし、贈り主は氏名すらも明かさなかったという。
毎朝7時にトゥーさんはホーチミン市4区のトンタットトゥエット(Ton That Thuyet)通りの一角に姿を現し、人々が古着をもらいに来るのを待つ。9時を過ぎると市内の病院や市場などあちこちを回って古着を配る。
11~12時ごろに自宅へ帰って一休みし、午後になると今度はニャーベー郡の工業団地の周辺を回る。1日の移動距離は50km近くになる。
トゥーさんによると、4年間もこの活動を続けるのは簡単ではなかったという。各地から集まってくる古着以外の費用はすべて自費で、子供たちが渡してくれる老後のための資金から拠出している。
トゥーさんの妻のレ・ティ・ベーさん(67歳)は自宅近くの市場の一区画で商売をし、トゥーさんが安心して古着を無料で配れるようにすべてを工面している。
「最初は私も彼のことが心配でした。身体が弱くて、暑い中や風の強い中を出かけるのも大変ですから。でも、彼が決心したので、私も何でもしようと思いました。彼がたくさんの人に喜びを与えていて、私も嬉しいです」とベーさんは打ち明けた。
応援してくれる人々がいる一方で、トゥーさんの活動を奇妙な目で見る人々もいる。「子供や孫くらいの歳の人から、他人事の世話をするなんて頭がおかしいんじゃないかと嘲笑されることもあります。私もこの歳ですから気にしませんが、自分の理想と心に従ったことをすればそれでいいんです。この活動をすることで、私の人生はより有意義なものになっています」とトゥーさん。
トゥーさんの三輪バイクに気付いて、ニャーベー郡でスルメを売っているグエン・バン・コーさん(56歳)が駆け寄り、何枚かTシャツを選んだ。コーさんは近くで4年ほど商売をしているが、商売を始めたころにトゥーさんの古着カーを初めて見かけていた。
「トゥーさんから古着をもらうのは2回目です。主にTシャツを選びました。人の生活を助けるボランティアなんて、誰にでもできることではないですよ。本当に感心しますし、憧れます」と話してから、コーさんはトゥーさんと握手してお礼を言った。
古着を手にした人の明るい表情を見るとトゥーさんは、自分が好きなことをし、夜は家族と一緒に過ごす今の自分の人生が、完全に満たされていると感じられるのだという。
4区在住のトゥー・フオンさん(50歳)は、トゥーさんの古着カーを長いこと見知っている。トゥーさんの慈悲深い心を尊敬し、フオンさんもしばしばトゥーさんに古着を渡している。また、困難な状況にある人々に贈るための古着も何枚か選んでいく。
「高齢なのに彼は休むこともなくこっちの通りからあっちの通りへ移動し、貧しい人々を助けています。誰にでもできることではないので、とても素晴らしいと思います。だから私も、できることをしているだけです」とフオンさんは笑った。
4区在住のバン・フン・ブーさん(39歳)は、路上で宝くじを売っているときにトゥーさんの古着カーに気付いた。生地が擦り切れて伸び切ったTシャツを着て、躊躇しているような表情のブーさんを見かねた周囲の人々は、古着カーから好きなものを選ぶようブーさんに勧めた。しばらくしてブーさんは2枚の服を選び、トゥーさんに袋に入れてもらった。
「初めてここで服を選びましたが、どれもまだ新しかったです。毎日宝くじを売っても少しのお金にしかならないので買い物もできず、こうして着る服を持つことができてありがたいです。機会があればまた選びに立ち寄りたいです」とブーさんは話し、トゥーさんにお礼を言って仕事に戻っていった。
トゥーさんの車には「0VNDで自由に選んでください」と書かれている。トゥーさんはあえて「0VND」と書いている理由について、「無料」という字があまり好きではないからだと語る。「無料」というと「与えられる」という感覚だが、むしろ「自分で選んで購入する」という感覚を持ってほしいのだという。
「そうすることで、より多くの人が服をもらいにきてくれるでしょうし、お客さんも増えますから。私はただ単に、皆の笑顔を見られれば嬉しいんです」とトゥーさん。
トゥーさんの車には、古着だけでなく救急箱も常備してある。道中で事故に遭った人がいれば、軽傷なら応急処置を手伝い、重傷なら病院に連れていく。
こうして晴れの日も雨の日も、トゥーさんは「0VND」の古着を載せた三輪バイクを走らせて市内のあちこちを回り、幸せな笑顔を見つける旅を続けている。
[Thanh Nien 11:25 05/04/2021, A]
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