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[特集]

ホーチミンの新たな路上文化、プラ椅子でカクテルを楽しむ若者たち

2021/03/07 05:05 JST更新

(C) zingnews
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 バーといえば、多くの人はグラスやボトル、氷、火などを巧みに操る専門技術を持ったバーテンダーがいる高級なプライベート空間を想像するだろう。こうしたバーを訪れる客は、場の文化を理解し、適した服装をする必要がある。そして、メニューの価格も決して安くない。

 ホーチミン市では、店舗の空間にもメニューにもお金をかける店に加え、おしゃれなドリンクを手頃な価格で提供するストリートバーがあちこちの路上に出店しており、新しい風を巻き起こしている。

 夜、1区のマックディンチー(Mac Dinh Chi)通りを進むと、うっかり通り過ぎてしまいそうな目立たない場所に「シティビアステーション(City Beer Station)」がある。元々はカートとして使われていた小さなドリンクカウンターを置いただけのシンプルな店構えで、歩道にはプラスチックの椅子が並べられている。ここを訪れた客は、提供されるドリンクのクオリティの高さに驚くだろう。

 バーテンダーのジョーズ・ハウさんはいつも、初めて来店した客には「サイゴン1975(Saigon 1975)」というカクテルをすすめる。ラム酒とジャスミン茶、ライチシロップ、レモンジュースを陶器のティーポットでブレンドしたハウさんのオリジナルカクテルだ。

 メニューにあるドリンクのほか、ハウさんは客との会話から好みを探り、即興でオリジナルカクテルも作る。「お客さんの要望に応えて作るので、それぞれに名前や特定のレシピは存在せず、すべてオリジナルかつ唯一のカクテルです。これが私の店の魅力です」とハウさんは語る。

 週末によくこの店を訪れるというチュック・ファムさん(22歳)は、以前はホーチミン市内の大きなバーに通っていたが、今はこの店に落ち着いたという。「リラックスできる場所にはこだわるたちなので、店を選ぶときは慎重になります。ある時、友達とこのお店に来て、路上でもこんなにおしゃれで美味しいカクテルが飲めるんだと初めて知りました」とファムさんは教えてくれた。

 3区のハイバーチュン(Hai Ba Trung)通りにある「エックストリートカクテル(Eck - Street Cocktail)」は、オープンして6年が経つ。フルーツティーからカクテルまで、老若男女を満足させるドリンクを提供している。

 エックのマネージャーであるニューさんによると、店には毎晩100人以上もの客が訪れ、週末は特に混み合うため、予約をしていない場合やピーク時にはしばらく待つか、席が空かずに帰らなければならなくなる可能性も高いという。エックで有名なのは果物を使ったカクテルで、中でもリキュールと絶妙にブレンドされた甘酸っぱい味わいのグアバカクテルが人気だ。

 「2015年ごろはほとんどお客さんがいませんでした。当時人気だったピーチティーを注文する人がいたくらいで、カクテルに興味を示す人はほとんどいませんでした。当時は必死にメニューを改善し、来店したお客さんに新しいメニューを試飲してもらっていました。それから数年が経ち、今ではこうしてたくさんのお客さんが来てくれるようになりました」とニューさんは語る。

 現在、バーはベトナムの若者にとって欠かすことのできない都会のトレンドだ。ここ2~3年の間に「飲みに行く」ことが身近な娯楽となり、カフェやミルクティー屋と同様に、バーもまた人々が集まる場所となっている。こうした中で、多様な店舗スタイル、空間設計、ドリンクメニュー、ユニークな体験など、バーは変化を続けている。

 フーニュアン区ホアスー(Hoa Su)通りにある「ゴールデンランド(Golden Land)」は、プラスチックの椅子数脚とドリンクや材料を搭載した1台のカートを備えただけの店だが、このエリアでは有名なストリートバーだ。新しいドリンクを作ることに情熱を注ぐ、店主で姉弟のジュリーさん(29歳)とJJグエンさん(26歳)は、若者たちが何も考えずに遊びに来られるような空間作りを目指している。

 「朝、この場所では私たちの両親がザライ省の汁なしフォー(pho kho=フォーコー)のお店を出しています。夜になると、朝と同じ椅子とテーブルを並べ替えてストリートバーを開いています」とジュリーさんは教えてくれた。店の場所代がそれほど掛からないため、ドリンクの値段は1杯5万VND(約230円)前後と手頃だ。

 「バーを開店する計画は行き当たりばったりでした。道具やカート、グラスなどを用意しただけで、2週間でメニューを考えました。全てがあっという間に進みましたが、だからと言ってクオリティの問題を見過ごしたわけではありません。様々な趣向に応えるため、メニューも随時更新していく予定です」とジュリーさん。

 「汁なしフォー屋のバー」と同様に、ゴ・ビン・ヒエンさん(23歳)の「BAストリートカクテル(BA Street Cocktail)」も、実家を利用してバーを開いている。「もともと少しだけバーテンダーの知識があったのと、自分と同じくビジネスを志している友人がいたので、BAを始めることにしました」とヒエンさんは明るい笑顔で教えてくれた。

 数年経営した後、店は週末の3日間だけ開くことにした。「バーと別に安定した仕事にも就いているので、友人やお客さんと楽しむために週末だけバーを開くことにしました。そのため、バー経営のプレッシャーはそれほど大きくなく、自分が好きなことをやっているだけなんです」とヒエンさんは打ち明けた。

 「ホーチミン市の良いところは、オフィスワーカーとして働きながら、夜は熟練のバーテンダーになれることです。豪華なレストランやバーで飲むこともできますが、ストリートバーでは3分の1の価格で同じくらい美味しいドリンクを飲むことができます」。

 今や、路上の店はホーチミン市の名物となっている。大人が朝の路上カフェで人生について語るのと同じように、若者たちは夜の路上バーでカクテルを楽しみながら、自分の住んでいる街について理解を深めるのだ。

 ストリートバーを開く一番の面白さは、ホーチミンの若者が今何に関心を持っているのかを知れることだ、とヒエンさんは言う。「私はいつもお客さんと話をすることに多くの時間を費やします。それは、ドリンクの味の好みを知るためであり、またお客さんにとって居心地の良いオープンな空間を作り出すためでもあります。気持ちを共有しながら味わうことで、カクテルは何倍にも美味しくなりますから」。

 多くのストリートバーの常連客であるミン・フイさん(23歳)は、自分や友人たちがストリートバーを好む一番の理由は、若者たちが心で繋がることができる自由さだと語る。「親しい友人と飲みに行くときは、ストリートバーを選ぶことが多いですね。ドリンクは安いですし、ルールに縛られることもなく、知らない人であっても近くに座れば心を通わせやすい空間だからです。いかにも『サイゴン』らしく、こういった場所はそう多くありません」。 

[Zingnews 18:02 04/02/2021, A]
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