[特集]
片腕で理髪店の経営と2人の子育てに奮闘するシングルマザー
2021/01/10 05:58 JST更新
(C) vnexpress |
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事故で左腕を失い、夫に裏切られても、困難を乗り越えて家業の理髪店の仕事を続け、2人の子供を育てている女性がいる。
ホーチミン市に住むレ・ティ・キム・チャムさん(女性・42歳)は、女性客の髪をバリカンで短くした後、ハサミでカットして細部を調整した。片腕しかないチャムさんにとって、3本の指でハサミを握りながら残りの2本の指を櫛のように使うという難しい作業だが、その動きはまるでハサミが踊っているかのようにリズミカルだ。そして10分も経たないうちにカットは終了した。
「私にとって、左腕を失ってからも子供たちを養うために片腕だけで理髪店の仕事を続け、安定した収入を得るなんて、夢のまた夢でした」とチャムさん。
チャムさんは今から4年前に左腕を失った。2016年8月のある朝、バイクで東南部地方ドンナイ省に向かう途中で転倒し、後ろから来たトラックに左腕を押しつぶされた。病院で目覚めた時には顔が変形し、左腕はなくなっていた。チャムさんは自分の傷口を見ようともしなかったが、病室にいる家族や他の患者が自分を見て涙を流すのを見て、事態を理解した。
チャムさんは自分の人生が「終わった」と感じ、今までの理髪店の仕事は続けられないだろうからと、宝くじ売りや食べ物売りの仕事をして生計を立てようと考えた。それでも心の中には、父親から受け継いだ理髪店の仕事を続けたいという想いもあった。
1か月間の入院中、チャムさんはいつも頭の中で「このヘアスタイルならどのようにカットしようか」、「左腕がなくてもカールを固定したままカットするには何を代わりに使おうか」などと考えを巡らせていた。
病院では毎日自分と同じような境遇の人を目にしていたため、チャムさんはコンプレックスを感じることもなく過ごしていた。しかし、退院して自宅に戻ってからというもの、いつも通り店を開き、アシスタントが接客をしていても、チャムさんは台所の後ろに隠れて表に出ようとしなかった。そして、皿洗いや料理、洗濯、着替えなど、今まで当たり前にこなしてきた簡単な家事が、二児の母であるチャムさんにとって苦しみに変わった。
1か月後、馴染みの男性客が散髪に訪れた際、チャムさんはタオルで身体を覆って表に出た。男性客が理由を尋ねると、チャムさんは自分の身に起きたことを話した。客は話を聞いて立ち去ってしまうと思われたが、突然「以前は両腕でカットしてもらっていたけれど、片腕しかないなら片腕でカットしてみてよ。僕の頭を練習台にして」と言って椅子に座った。
チャムさんは心を打たれ、バリカンを手にして試行錯誤し、1時間近く格闘した末にようやくカットが仕上がった。以来、その男性客は友人たちにもチャムさんの店を紹介し、応援してくれている。
「その時は自分で納得のいくカットができず、お客さんにも申し訳ない気持ちになりました。でも、何よりも私に片腕でカットするという機会をくれたそのお客さんに心から感謝しています。実際に片腕でカットするのは、入院中に想像していたよりもずっと難しいことでした」とチャムさんは打ち明けた。
しかしながら、全ての客が片腕でのカットを受け入れられるほど「勇敢」ではなく、店まで来て帰ってしまう客もいた。また、片腕でのカットを試した後に、二度と来店しなかった客もいる。
事故に遭ってから半年が経ち、チャムさんの店を訪れる客は減り、1日に1人しか来店しない日もあった。チャムさんは自分が十分に仕事をこなせていないこともわかっていたため、カット代もあえて少なく受け取っていた。
チャムさんは理容師を辞めて自宅でベビーシッターの仕事を始めようとしたが、ある時、息子が自分の真似をして片腕だけで学校の準備やあらゆる作業をしていることに気づいた。「息子は歩く時、片腕だけ振って、もう片方の腕は身体に沿わせていたんです。家事を教えても片腕しか使いません。なぜかと聞くと、『お母さんと同じようにやっているだけだよ』と答えたんです」とチャムさん。ベビーシッターをしても、世話をする子供たちが息子のようになってしまうことを恐れ、チャムさんはベビーシッターに転職することを諦めた。
店では、ヘアカットの仕事は少なくなったものの洗髪の頻度が増え、右腕1本で以前の両腕の役割をこなした。毎回仕事が終わるとあまりの疲労で腕に力が入らなくなり、手は震えた。口と歯を使って水道の蛇口をひねるため、口元も痺れた。
それでも客が増えることはなく、チャムさんはアシスタントを解雇しなければならなくなった。店を辞める前にアシスタントたちは皆で集まって、髭剃り用のカミソリを小さく切り分けてチャムさんが少しずつ使えるようにした。片腕ではカミソリを切り分けられないことを知っていたからだ。チャムさんは、その小さなカミソリを使い切ったら髭剃りのサービスを辞めるつもりでいた。
しかし、収入を増やす方法を考える中で、チャムさんは「一生を人に頼って生きることはできない」と、自分の足を使ってカミソリを切り分ける練習を始めることに決めた。初めの頃は足にカミソリを挟むたびに出血し、自分を傷つけているように感じていたというチャムさんだが、1年以上かけて自分の足でカミソリを切り分けられるようになった。
そんな中、チャムさんは自分が新しい身体に適用しようと努力すればするほど、夫は自分から遠ざかっていることに気づいた。チャムさんは夫に髪を切らせて欲しいと申し出たことがあるが、すぐに拒絶された。何度かの口論の末に夫はしばらく家を出て行った。チャムさんは2度自殺を図ったが、2度とも子供たちに引き止められた。
「トラックの下敷きになって片腕を失ったことを思い出し、あの時死ななかったのだから、価値のない男のために死んでたまるものか」とチャムさんは離婚を決意した。チャムさんと子供たちは引っ越し、ホーチミン市2区タオディエン街区グエンクー(Nguyen Cu)通りに小さな土地を借りて店を開いた。
タオディエン街区に住むミー・ズエンさん(女性・27歳)は、チャムさんの店についてこう語る。「チャムさんが長いこと片腕でカットしているのは知っていましたが、技術がどれほどなのかわからなかったので、おかしな髪型になってしまうのではないかと心配でした。最近チャムさんのお店に行きましたが、彼女のバリカン裁きは今までに経験したことがないほど見事で、素早くきれいにカットしてもらえました」。
現在、シングルマザーのチャムさんはこの店の収入で家賃と2人の子供の養育費を賄っており、もはや過去を悲しむことはない。ただ、チャムさんが悲しいことといえば、もう何年も子供たちを連れて遊びに行けていないことだ。バイクタクシーの交通費を気にして、いつも家の近所で過ごしている。
9歳になるチャムさんの息子は、母親が片腕しかないことを学校でからかわれたことがある。息子は3か月間考えた末、「僕は母さんを誇りに思っている。母さんは片腕しかないけれど、僕と姉を学校に通わせ、育ててくれているんだから」と友達に言い返した。
「息子は友達に言い返してから、初めて私にこのことを話してくれました。何か月もの間、友達からからかわれてもじっと耐えて、私にも教えなかったんです」と、チャムさんは眼鏡の奥で目を滲ませた。
[VnExpress 05:05 11/30/2020, A]
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