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[特集]

見ず知らずの若者たちを支援する麺屋の主人、夢叶える一助に

2020/12/13 05:34 JST更新

(C) vnexpress
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 東南部地方ドンナイ省ビエンホア市でブンボー(bun bo=牛肉の米粉麺)屋を営むラム・キム・フンさん(男性・65歳)は、この20年近くの間、経済的に困難な大学生や若者たちを何十人も受け入れ、学費や生活費から独立に向けた資金までサポートしてきた。

 ある日のこと、賑やかな音楽の中でフンさんは、グエン・ミン・チーさん(男性)が足を使ってシャンパンボトルを開けるのを静かに見つめていた。チーさんには生まれつき両腕がないが、南部メコンデルタ地方アンザン省のアンザン大学情報技術学科を卒業した。この日はチーさんにとって喜ばしい結婚式の日だった。

 結婚式で新郎家の代表であるチーさんの父親が突然、ステージに上がるようフンさんの名前を呼んだ。フンさんは驚きながらも感動の涙を堪えきれず、見知らぬ300人の招待客の前で声に詰まりつつ、「私は新郎のただのスポンサーです。愛するチーの結婚式を心から楽しみにしていました」とスピーチした。

 チーさんはフンさんが面倒を見てきた数十人の学生のうちの1人だ。「チーは私が自分から探し出した最初の子です。それまでは五体満足の学生の支援をしていましたが、生まれつき両腕がないにもかかわらず努力して勉強している子がいることを知り、彼を探し出してサポートしようと決めたんです」とフンさんは話し始めた。

 今年の初めのある晩、フンさんがフェイスブック(Facebook)を眺めていると、チーさんを紹介する動画が偶然目に入った。「動画を見終わって、両腕のない子が努力の末に足を使って何でもできるようになったということに思いを寄せ、涙を流しました。そして頭の中に次から次へと疑問が浮かび、朝方まで眠れませんでした。彼はどうやって生活しているのだろう?どうすれば1年間に2つのクラスを修了し、さらに優秀な成績まで収めることができるのだろう?と」。

 翌朝、フンさんは店のスタッフたちにチーさんを探すよう頼んだ。ようやくチーさんを見つけることができたが、彼はすでに28歳で、大学を卒業して3年が経っており、東南部地方ビンズオン省で安定した仕事に就いていた。

 しかし、話をする中で、チーさんには6年間付き合っている恋人がいるものの、金銭面の問題と彼女の家族に両腕のない婿を受け入れてもらえないことから、2人が結婚式を挙げられずにいることをフンさんは知った。

 フンさんはいても立ってもいられず、両家の結婚式の全ての費用を負担すること、また2人の将来の子供たちの学費もサポートすることを約束し、両家の家族に会いに行った。そして今年の10月末、花嫁にはブライダルジュエリーをプレゼントし、新郎側30卓と新婦側11卓の宴会テーブルを準備して、結婚式を執り行った。総額1億VND(約45万5000円)以上の費用は全てフンさんが支払った。

 「結婚式から1週間以上経ちますが、毎朝目が覚めるたびに夢を見ているのではないかと思ってしまいます。もしフンさんがいなければ、いつ結婚できていたかわかりません」とチーさんは語る。

 フンさんのことを長年知る人であれば、この話は奇妙なことでも何でもない。以前、フンさんの店は工業大学のビエンホアキャンパスの近くにあったため、フンさんは多くの学生をアルバイトとして受け入れていた。東南部地方タイニン省出身のグエン・タン・フンさん(男性・40歳)は19年前、化学工学技術を学ぶ学生の時にフンさんの店で働き、フンさんの最初の「養子」となった。

 タン・フンさんの父親は早くに亡くなり、母親も出て行ってしまい、3人きょうだいは父方の祖母の家で暮らしていた。それを知ったフンさんは、タン・フンさんを自分の家に迎え入れた。フンさんはタン・フンさんの学費と生活費を支援し、大学が休みの日に店を手伝えば相応の賃金を支払った。

 「フンさんは私が必要なものを全て与えてくれました。ある時、フンさんは私に何が食べたいかたずねました。ドリアンを食べたことがないと答えると、フンさんは大きなドリアンを2つも買ってきてくれました」と、今年40歳になったタン・フンさんは懐かしんだ。

 フンさんの店の近くに住む常連客のホアン・タイさんは、当時について教えてくれた。「工業大学がまだここにキャンパスを置いていたころは、多くの学生がフンさんの店でアルバイトをしていました。客はいないのに、アルバイトの学生が10人以上も働いている、なんていうこともよくありました。学生がお金を稼げるように、フンさんが店で働かせてあげていたことを後で知りました」。

 次の年にはタン・フンさんの弟のグエン・タン・タインさんも大学生になり、兄弟2人で10年近くフンさんの家に居候した。「フンさんはたくさんの学生を受け入れていました。合計すると50人以上になると思います。卒業後も時々、世代を超えて集まり、フンさんを訪ねています。フンさんは私たちにとって家族のような存在で、お互いに冠婚葬祭にも出席しているんです」とタン・フンさん。

 北中部地方ハティン省出身のチュオン・テー・リックさん(男性・28歳)は、半年前に大阪で正社員として働き始めた。リックさんは、4年前の自分と同じように苦しい環境にいる学生を支援するための資金として、毎月の給与の一部をフンさんに仕送りしている。貧しい学生だったリックさんは、フンさんのおかげで留学の夢を叶えることができたのだ。

 リックさんは4年前、ホーチミン市人文社会科学大学の教育心理学科を卒業したものの、日本に留学することを夢見ていた。しかし、家族の経済状況は厳しく、農業を営む両親には4年間の学費だけでも苦労をかけたため、リックさんは日本への留学費用を自分で貯めたいと考えていた。

 2016年のテト(旧正月)には故郷に帰らずホーチミン市でアルバイトをし、いつもよりも多く稼いで貯金に充てようと考えた。リックさんは節約をし、必要な額が貯まれば日本語学校に通い、その後にお金を借りて日本に渡航するつもりだった。

 当初はホーチミン市内の娯楽施設で働く予定だったが、知人からビエンホア市のフンさんの店を紹介してもらった。最初は普通のアルバイトの面接として賃金などについて話し合っていたが、リックさんが留学の夢を叶えるためにテトも故郷に帰らず働こうとしていることを知り、フンさんはリックさんを雇うことに決めた。1か月ほど働くと、テト休みに入った。

 「テトが明けて店を再開する日、フンさんは私に電話をかけてきて、まだ留学したいかとたずねました。そして、日本語学校の学費や渡航にかかる初期費用を支援すると言ってくれました」とリックさん。フンさんの家の住人たちから、フンさんがいかに親切か聞いてはいたものの、日本に行くには数億VND(1億VND=約45万5000円)という大金が必要で、知り合って1か月しか経っていない、いわば「見ず知らず」の自分を支援してくれるなどという話をすぐには信じることができなかった。

 結果的にリックさんはフンさんの支援を受けて、2016年4月から日本語学校に通い、同年10月に日本へ渡り、専門学校でコンピュータを学び始めた。フンさんが支払った合計額は2億VND(約90万9000円)余りに上った。

 「1人の学生が留学したいという夢を叶えるため、テトも故郷に帰らず働き、お金を稼ごうとしている。そんな学生をサポートしない理由はないでしょう。彼が店で働いて稼いでも、いつになったら十分な資金が貯まるかわかりませんから」とフンさんは笑った。

 「私は助けるために人を探しに行くのではなく、縁があって出会った人や、店にアルバイトに来る人たちを支援してきただけです。私には家族がいないので、1日500杯の麺の売上は全て、私がやりたいことに使えるんです」とフンさん。

 夢を持ちながらも苦しい状況にある数十人の学生や若者たちを支援してきた一方で、フンさんは何度か良くない人に手を貸してしまったこともある。約3年前にフンさんは、北中部地方ゲアン省出身で、勤勉でよく働くように見えた、ある若者を受け入れた。

 しかし、一緒に暮らす中でその若者はフンさんのバイクでサッカー賭博に行き、お金を失ったことがあった。若者はその後も賭博で負けるたびにフンさんに助けを求めたが、9度目についにフンさんはその若者を助けることを拒否した。

 「毎回助けるたびに『これが最後だ』と言われ、それが本当に最後だったら、ここで自分が助けなければ彼はやり直すこともできないだろうと彼を信じて助けていました。でも9度目の時、彼は変わらないだろうと思い、拒否しました。他にもっと支援すべき人たちにお金を残しておきたかったんです」とフンさんは打ち明けた。

 それでもフンさんは、間違った人を支援したことを後悔したり、支払ったお金を惜しんだりしたことはなく、それもまた教訓として受け取っている。

 「失ったお金のことを考えたり、間違った人を支援してしまわないかとあれこれ思い悩んだりしていては、他の人を助けることができなくなってしまいます。天の神様が少しのお金を持って行ったとしても、代わりに私の店は繁盛し、私は収入を得て、またお金を貯めることができますから、惜しくも何ともありませんよ」とフンさんは語った。 

[VnExpress 05:05 10/11/2020, A]
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