[特集]
医師を目指す弟に進路を譲った兄、貧しくても支え合う双子の絆
2020/11/29 05:31 JST更新
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双子のグエン・クオック・バオさんとグエン・クオック・ロックさんは、幼いころに両親を亡くし、母方の叔父の家の屋根裏部屋で生活している。2人は温和で成績優秀。お互いのために犠牲を払う2人の姿は、人々の心を動かしている。
バオさんとロックさんが住んでいるのは、南中部沿岸地方クアンナム省ディエンバン町ディエンゴック街区ガンハー通りの畑の真ん中に建つ民家だ。ここ数日間、兄のバオさんは毎日自転車で出かけては朝から晩まで結婚式場の設置やレストランでの調理などの仕事をし、給料はわずかながらも弟のロックさんを大学に通わせるための資金を必死に稼いでいる。
「小さいころからアルバイトをしていたので重労働には慣れています。来年か、良いタイミングがあればもう一度大学の入学試験を受けたいので、そのためにも節約しているんです」とバオさんは悲しげに語り、その隣に座るロックさんは手で涙を拭った。
家には母方の祖母と叔父家族、そしてバオ兄弟の8人が住んでいる。バオ兄弟は木の板で簡素に作られた小さな屋根裏部屋で生活している。2人はその部屋で勉強し、ともに大学入試に合格した。
試験で23点を獲得したバオさんは調理師を目指して観光関連の大学に、28.5点を獲得したロックさんは医師を目指して北中部地方トゥアティエン・フエ省のフエ医科薬科大学に進学することに決めた。
兄として、バオさんは早朝から自転車に乗って出かけ、知り合いの手伝いで結婚式場を設置し、夜は居酒屋でフロア係として働いた。ある日は10万VND(約450円)、またある日は20万VND(約900円)と稼いだ額を弟に渡していた。そんな中で、2人は進学についても話し合っていた。
75歳になる祖母のチャン・ティ・トゥアットさんは、喜びと悲しみが入り混じった思いで双子の孫を見ていた。「大学に進学する弟の本や服を一緒に片付けているバオの姿を見て、涙がこぼれました。ロックが医大に入学することは喜ばしいことですし、将来医者になることは家族全員の願いですが、入試に合格したにもかかわらず学費を弟に譲るために断腸の思いで進学を諦めたバオがかわいそうでもあります」。
双子のうちどちらか1人の進学をあきらめるという決断は、家族にとっても苦しいことだった。しかし、工業団地で工員として働く叔父夫婦には、家族がやっと食べていけるだけのわずかな収入しかなかったのだ。
「家族皆で話し合いの場を持ち、兄弟の希望をたずねました。どちらが進学するのか決めるのはとても難しいことでしたが、思いがけずバオが先に『弟を医者にするために自分は進学せず、働いてお金を稼いで弟を養う。もし良いタイミングがあれば、改めて進学する』と言いました。彼の苦しい気持ちがわかり、誰も何も言えませんでした」とトゥアットさんは教えてくれた。
バオさんとロックさんが学校に通い、大学入試に合格するまでの道のりは過酷なものだった。2人が3歳になる前に父親が亡くなり、若い母親が1人で家計を支えた。母親は工員として昼夜を問わず働いたが収入は少なく、双子に十分なミルクを買う余裕もなかった。
3歳のとき、バオさんは父方の祖父母と暮らすため、北部紅河デルタ地方ハイフォン市に連れて行かれた。しかし、祖父母も持ち家がなく、バオさんは祖父母と一緒に不安定な生活を送ることになった。日差しや雨が避けられる場所を求めて、数え切れないほど借家を転々とする生活だった。
一方、ロックさんは母方の祖母に預けられ、母親は工業団地で縫製の仕事をして養育費を稼いだ。
兄弟の両親はかつてクアンナム省ディエンバン町に小さな家を持っていたが、生活があまりにも苦しく、家を売るしかなくなった。そして、兄弟が中学2年生(日本の中学1年生)になった年に、母親も亡くなってしまった。
さらに、ハイフォン市でバオさんと一緒に暮らしていた父方の祖父母も苦労の末に亡くなり、バオさんは再びクアンナム省に戻ることとなった。2人の頼みの綱となったのが、母方の叔父の家の屋根裏部屋だったのだ。
父方の祖母であるトゥアットさんは、自分が高齢であるがゆえ、2人の孫が人生の重要な時期を迎えているにもかかわらず、何もしてあげられないのだと悔しそうに打ち明けた。
「まだ若く元気だったなら、私も家政婦の仕事をして孫を大学に行かせることもできたでしょうが、背中も曲がり、髪も真っ白になってしまった今はもう無力です。野菜があれば野菜を食べ、お粥があればお粥を食べて1日1日を凌ぐような生活でしたから、2人が同時に大学に進学するときのことなんて考える余裕もありませんでした。今、進学したくても、まとまったお金もありません。これからの長い道のりがどうなるのかは、あえて考えないようにしています」とトゥアットさんは言葉に詰まった。
この数日間、バオさんとロックさんはこれからの日々について夜な夜な話している。ロックさんはトゥアティエン・フエ省で医学を学び、バオさんはクアンナム省に残って販売の仕事をしながら、他の仕事も探す予定だ。
「そうすることでしか、ロックを医大に6年間通わせることはできません。僕が働いてお金を稼ぎ、ロックに仕送りします。そして、いつか調理師の道に進めるよう、自分のためにも貯金をします。安定した仕事に就ければ収入も増えて、自分の夢にも近付き、家族を支えることもできます。小さいころからアルバイトをしていたので慣れています。大学には行けなくても、調理師になるという夢は変わりませんし、この経験がいつかプロの現場で働くときの糧になるはずです」とバオさんは語った。
[Tuoi Tre 06:49 03/11/2020, A]
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