[特集]
女子団員が活躍する獅子舞団、ベトナムとアジアでギネス記録保持
2020/10/04 05:47 JST更新
(C) zingnews |
(C) zingnews |
(C) zingnews |
(C) zingnews |
日本の獅子舞に似た「ムアラン(mua lan)」と呼ばれるベトナムの獅子舞(ライオンダンス)を専門とするトゥーアインドゥオン(Tu Anh Duong)演舞団には、13~18歳の女子団員が所属している。ムアランの演舞団といえばほとんどが男性という中で、トゥーアインドゥオン演舞団は全国大会でも高成績を残し、いくつものギネス記録を保持している。
南部メコンデルタ地方チャビン省カンロン町(thi tran Cang Long)の片隅にある店舗で、音楽、麒麟とドラゴンが舞う音、太鼓の音が騒々しく鳴り響く。活気に満ちた空間は観衆を魅了し、数十人もの道行く人々が見入っている。
トゥーアインドゥオン演舞団が、拠点である南部メコンデルタ地方カントー市から遠路はるばる出張し、とある店舗のオープニングセレモニーで演舞を披露しているのだ。
35度を越える猛暑の中、15人の団員が太鼓や舞いに集中している。「あの女の子、太鼓を叩いている。舞いもうまいな」と、1人の観客が楽しげに叫んだ。他の観客たちも、演舞団に多くの女子がいることに気づくと、さらに熱烈な拍手を送った。
声援を受けて女子団員たちはますます勢いを増し、演舞を美しく完璧にこなした。カラフルな衣装もまた、パフォーマンスを引き立てていた。
午前5時、地方出張公演に向かうトラック
午前4時ごろの外もまだ暗い時間に、女子団員のズオン・ティ・チュック・アンさん(13歳)は家族に送ってもらい、カントー市オーモン区チャウバンリエム街区(phuong Chau Van Liem, quan O Mon)にあるトゥーアインドゥオン演舞団の練習場に向かった。この日、チュック・アンさんはチャビン省に出張し、演舞を行うことになっていた。
チュック・アンさんが到着したとき、すでに団員のほとんどが集まっていた。男子団員が道具をトラックに運び込んでいる間、女子団員は衣装から音響・照明設備まで、運搬しなければならない道具の最終チェックをした。
「毎回地方に出張するときは、テト(旧正月)みたいにバタバタです。疲れますが、楽しいですよ」とチュック・アンさんは話しながら、接着剤を使って麒麟の被り物の細部を補修していた。チュック・アンさんは最年少団員の1人で、入団してまだ半年にもかかわらず、ベテランのような仕事ぶりだ。
現在、トゥーアインドゥオン演舞団には13歳から20歳までの約50人の団員がいる。ほとんどは中高生のため、学業を最優先としている。毎回の公演やイベントに出演するメンバーの人数は、客の要望だけでなく、団員の学校のスケジュールにも左右される。
今回のチャビン省での公演には、道具も団員も一緒に1台のトラックで行く。道具が荷台のほとんどを占めてしまうため、10人以上の団員たちは空いたスペースにぎゅうぎゅうになって座らなければならない。狭い車内で、カントー市からチャビン省まで2時間の移動だ。
年上の男子団員たちは、女子団員やチュック・アンさんのような年少の団員たちが仮眠を取れるよう、間の場所を譲って座らせる。まだ薄暗い午前5時に出発したトラックが80km余りの道のりを経てチャビン省カンロン町に到着するころには、すでに外も明るくなっていた。
目的地に到着したときの団員たちはあくびをし、眠そうな様子だったが、誰からともなくてきぱきと動き出し、道具をトラックから降ろして、客の指示に従いすべての道具を所定の場所に配置していった。
そして、道具の準備に加え、麒麟ダンス、ドラゴンダンス、太鼓、財の神様、土地の神様の各役の団員たちも衣装に着替えて準備が整った。オープニングセレモニーなどの客のプログラムによっては1~2時間待ちということもある。しかし、その間も自分のポジションを離れてはいけないというのが演舞団のルールだ。
炎天下で2時間近く待っていると、皆汗だくになり、衣装も濡れてしまっていた。それでも、演舞に向けて気持ちは盛り上がっている。チュック・アンさんは年少のため、公演で遠方に行くことはめったにない。この日は久々の出張公演で、チュック・アンさんや他の年少メンバーたちは、緊張しておとなしく座っていることができないでいた。5~10分ごとに、演舞が何時に始まるのかとリーダーにたずねた。
女子演舞団のおかげでパンデミックを乗り越える
トゥーアインドゥオン演舞団は、女子団員が所属するベトナムでもめずらしいムアラン演舞団の1つで、2008年にルオン・アン・ドゥオンさんが設立した。女子団員は13~18歳の16人だ。
当初、ドゥオンさんが女子団員を養成しようとしたとき、同業者からでさえもなかなか支持を得ることができなかった。「皆、タフで健康な若い男性こそ、『伝説の動物』の演舞をし、コンテストや重要なイベントに参加する資格がある、と言いました」とドゥオンさん。
しかし、思い立ったら行動するドゥオンさんは、団員候補の女子生徒を集め始めた。当初は1~2人しかいなかったが、1人が別の人に、また1人が別の人に声をかけていき、女子生徒は徐々に増えていった。ドゥオンさんは「男性には男性の強みが、女性には女性の強みがあります。そして、絶対にムアランは男性だけのものではないんです」と語る。
設立から10年余りが経った現在、トゥーアインドゥオン演舞団の中の女子演舞団は5つのベトナムギネス記録と2つのアジアギネス記録を保持している。
ベトナムギネスは、「高さ7mの柱の上でムアランをするベトナム唯一の女子演舞団員」や「マイホアトゥン(梅花椿)の上でムアランをする(木に見立てて多数並べた柱の上を舞う)ベトナム唯一の女子演舞団」、「ベトナム唯一の女子獅子舞演舞団」などの5つ。
アジアギネスは、「最も高い柱の上でムアランをするアジア唯一の女子演舞団」と「マイホアトゥンの上でムアランをするアジア唯一の女子」の2つだ。
今や、女子団員の存在がトゥーアインドゥオン演舞団の目玉となり、各地で引っ張りだこになっている。「他のほとんどの演舞団と同じように、新型コロナ禍で我々も多くの困難に直面しました。でも、女子演舞団という強みや様々な要因により、困難を乗り越え、今日まで活動を続けることができています」とドゥオンさん。
グエン・トゥイ・フオンさん(17歳)は、2019年末からトゥーアインドゥオン演舞団で演舞を学んでいる。入団から間もないにもかかわらず、フオンさんは今年行われた第7回全国麒麟・獅子・ドラゴンダンスコンテストのドラゴンダンスの部で優勝を果たした。
しかし、フオンさんも当初は家族の支持を得ることができなかった。多くの保護者にとって、ムアランは危険なものであり、マイナスイメージもあるためだ。そんな中でも、娘がムアランに夢中になる様子を目にして、フオンさんの両親は娘の選ぶ道を受け入れることにした。
最初のころ、フオンさんは必ず親戚に送り迎えをしてもらって練習に行き、さらに学業を怠らないこと、学校で良い成績を維持することという両親との約束を書き記した。フオンさんの両親は、娘が夢中になっているのも一時的なものだろうと考え、娘を完全には応援していなかった。
しかし、数週間、数か月が経過してもフオンさんの熱が冷めることはなかった。フオンさんは毎日、放課後の17時ごろから演舞団の団員たちと集まって練習をしている。「1つずつ新しい動きを学ぶたび、ますます気持ちが高まります。練習を1日休んだだけでも手足がむずがゆくなるくらいです」とフオンさんは語る。
そして、約束を守っている娘に対し、今はもう両親も反対していない。両親はむしろ、娘が日に日に健康になり、一生懸命に運動し、以前のように遅寝遅起きやスマートフォン中毒といった悪い習慣がなくなったことを喜んでいる。
演舞団が縁で結婚した夫婦
レ・イエン・クエンさん(26歳)は、ドゥオンさんの最初の女子生徒の1人であり、今でもトゥーアインドゥオン演舞団に関わっている。彼女こそ、ベトナムギネスの「高さ7mの柱の上でムアランをするベトナム唯一の女子演舞団員」という記録を保持している張本人だ。
イエン・クエンさんにとって、トゥーアインドゥオン演舞団は今でも第2の家族だ。演舞団は、14~15歳のときに志を同じくする仲間と過ごした場所というだけでなく、10年間も自分を導いてくれている先生がいる場所であり、さらに人生のパートナーに出会えた場所でもある。
2018年、イエン・クエンさんはフイン・バン・ドゥックさん(27歳)と結婚した。ドゥックさんもトゥーアインドゥオン演舞団の団員で、最初はペアでコンテストに向けた練習をする仲だった。2人ともコンテストでたくさんの賞を受賞し、高さ7mの柱の上でムアランをするベトナム唯一の男女ペアという記録も樹立した。
ドゥックさんは彼女の第一印象について、強くて血気盛んな子だった、と語る。高さ7mの柱の上で舞う技を習得するまでの3年間の練習中、イエン・クエンさんは何度も転んで頭や額に傷を作り、手足も傷だらけだった。それでも絶対にあきらめなかった。
今年の初め、夫婦の間にかわいい娘が生まれた。結婚して子供が生まれてからは、夫婦ともに公演やコンテストには参加せず、代わりにトゥーアインドゥオン演舞団の団員のトレーニングを担当するコーチとして活動している。
演舞団のほかに、クエンさん夫婦は地元の医療センターでも仕事をしている。2人は毎日、医療センターでの仕事が終わると娘を連れてトゥーアインドゥオン演舞団の練習場に行き、団員たちの練習を見ている。
娘はまだ生後8か月だが、人見知りも全くしない。片方の手からもう片方の手へ、彼女を抱っこする人が次々と変わっても、泣いたり両親を求めたりすることもない。さらに、太鼓やゴングの音を聴くたび、また団員たちが柱の上で舞う練習をしているのを見るたび、赤ちゃんは声をあげて笑い、手足を動かして踊りだす。
そんな赤ちゃんの様子を見て、団員の間にも笑いが起きる。団員の1人は、「赤ちゃんがムアランをしているんですよ。お母さんのお腹の中にいるときから太鼓の音を聴いて舞いを学んでいたからでしょう」と話した。
[Zingnews 09/2020, A]
© Viet-jo.com 2002-2024 All Rights Reserved.
このサイトにおける情報やその他のデータは、あくまでも利用者の私的利用のみのために提供されているものであって、取引など商用目的のために提供されているものではありません。弊サイトは、こうした情報やデータの誤謬や遅延、或いは、こうした情報やデータに依拠してなされた如何なる行為についても、何らの責任も負うものではありません。