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[特集]

ベトナムの「パパ活」の実態に迫る【後編】シュガーベイビーの素顔

2020/08/30 05:05 JST更新

(C) tuoitre
(C) tuoitre
strong>前編はこちら:ベトナムの「パパ活」の実態に迫る【前編】シュガーベイビーとシュガーダディーの契約


 地元紙「トゥオイチェー(Tuoi Tre)」の男性記者は、「シュガーダディー」を装って「シュガーベイビー」と連絡を取り、男性の視点でベトナムの「パパ活」の実態に迫った。

 記者がオンラインのシュガーダディーとシュガーベイビーの秘密のグループに潜入し、「孤独な男性。サイゴン(ホーチミン市)に持ち家あり。良い子を探しています」という自己紹介文を投稿すると、10分も経たないうちに「娘」たちから数十件ものメッセージが届いた。

道端で購入したHIV検査結果

 記者はインターネット上で調べたシュガーダディーの「狩り」の経験に関する情報を参考にして、すぐにはターゲットを釣り上げないことにした。不健全で変態な「パパ」も多いが、娘になることを受け入れる女性たちもたいがい「化け狐(妖狐)」なのだ。

 多くのシュガーダディーが若い学生の女の子を求めているため、秘密のグループにも「貧しい学生。良い子。援助してくれるパパが必要です」という女性の書き込みがあふれている。しかし実際には、本物の学生のシュガーベイビーは多くない。学生を偽ってパパを探している女性の多くは売春婦や別の職業で、中には工場労働者もいる。

 男性記者は、8月初旬のある晩にシュガーベイビーのグエン・タイン・ガンさんと会うことになった。記者が主導したのではなく、ガンさんのほうがあれよあれよという間に初対面の場を設定してくれた。

 ガンさんは1999年生まれで、医学部の3年生だと自己紹介した。会う前のメッセージで、「健康診断書があったら持ってきてね。医学を勉強しているから慎重なの」と話し、彼女は陰性のHIV検査結果に加え、梅毒や淋病など他の性感染症も陰性ということを証明する書類まで用意しているとのことだった。

 記者は返信しなかったが、業界の女の子たちは偽造した「クリーン証明書」を道端で100万~200万VND(約4650~9300円)で買っているということを後から知った。一方、一緒に病院へ行って検査を受け、目の前で陰性であることを確かめるという場合もある。

 「君は学生なのにずいぶん大人っぽいね?よくこの店にくるの?」ホーチミン市3区グエンディンチエウ(Nguyen Dinh Chieu)通りにある豪華なパブでガンさんと初めて会い、記者は驚いたふりをしてたずねた。「まさか。友達の誕生日で1~2回きたことがあるだけよ」とガンさんは答えた。

 ガンさんは記者の正面に座り、娘にしてほしいと頼んだ。背が高くて色白で、露出度の高すぎない服を着ていたが、時々わざとかがんで深い襟ぐりから胸元をのぞかせた。

 記者が「どうして有名な大学で勉強しているのに、パパを探しているんだ?」と優しい声で単刀直入にたずねると、ガンさんは「こんな状況だから大変なのよ。今年はティエンザン省(南部メコンデルタ地方)にいる両親の畑は干上がってしまって、学費に充てるお金なんてないの」と苦しそうに答えた。

 娘になったらいくら必要なのかと記者が聞くと、ガンさんは「ほんの少しよ、1か月2000万VND(約9万3000円)だけでいいの。他に何人娘を養ってもかまわないから」と猫なで声で答えた。そして、月末には引っ越さなければならず、引っ越しも援助してほしいということだった。

 「新卒の月給の4~5倍じゃないか。でも、もし僕が払えるとして、代わりに君は何をしてくれるの?」と記者が聞くと、「週2~3回会いにきてくれてもいいわ。あなたがしてほしいことをしてあげる。でも、その年じゃ奥さんがいるでしょう?私に使う力は残っているの?」と聞き返してきた。

機知に富んだ学生

 売春婦を疑い、記者は秘密のグループでシュガーダディーたちから学んだ質問を投げかけてみた。「わかった、でも僕の娘になるんだったら…」。「大丈夫よパパ。私は大変な状況だからこそここに来たんだし、隠すようなこともないわ。信用のために500万VND(約2万3000円)ちょうだい。そうしたらすぐに私の『若い生果実』の写真を送るから」。

 記者は、ガンさんが「若い生果実」という言葉を使い、さらにすぐに写真を送ると言った時点で、たしかに機知に富んでいると思いつつ、99%学生ではない、と察した。そして、最後の一言で「締めくくる」ことにした。

 「このところ、新型コロナウイルスのせいで僕の仕事も大変だよ。皆、ワクチンを待ち望んでいる。そういえば、ワクチンの研究はどこまで進んだんだっけ、医学部の学生さん?」記者の質問を聞いて、自称医学部3年生のガンさんは口ごもり、話をそらした。医者になるための勉強をしているにもかかわらず、新型コロナウイルスのワクチンに関心がないわけがない。

 記者はガンさんと別れ、帰路についた。若い女性にだまされたが、悪い気分ではなかった。実のところ、相手がこの道に足を踏み入れざるを得なかった本当の苦学生でないことを願っていたのだった。

「業界の女の子」と貧しい少女たち

 シュガーダディーを装って数日、記者は愛とお金を交換するこのアンダーワールドで、多くの事実を知った。何らかの状況に直面した若い女性が、精神的・物質的な助けを必要とし、不健全なパパの手中に落ちてしまう、というのが1つだ。一方、実際には女性のほうが「ハンター」というケースも多い。

 ハンターの女性のほとんどが「業界の女の子」すなわち売春婦か、飲食店の店員で、物質的な部分をカバーしてくれる人を探している。

 こうしたシュガーベイビーは、シュガーダディーに月2000万~3000万VND(約9万3000~14万円)を要求する。人によっては月5000万~1億VND(約23万3000~46万5000円)ということもあるが、卓越した美しさがあり、お金持ちと出会わなければならない。さらに、家賃やスクーターも求める。

 別の類のシュガーベイビーは、工場労働者や普通の飲食店・ショップの店員で、ほとんどが地方から出てきた人だ。彼女たちはただ単に、家賃と月500万~700万VND(約2万3000~3万3000円)の生活費がほしいがためにシュガーダディーを必要としている。中にはローンや借金の支払いや、まだ持っていないバイクを求めるだけの人もいる。

 そして、こうしたクリーンで正直で「安い」女性たちこそ、シュガーダディーたちが最も求めているシュガーベイビーなのだ。

3日900万VNDのパッケージ

 前編でシュガーベイビーを装ってこのアンダーワールドに潜入したトゥオイチェー紙の女性記者は、シュガーダディーだけでなく、女性からも多くのメッセージを受け取った。

 内容は、「ダラット(南中部高原地方ラムドン省)に、ベイビーを探しているお金持ちのお客さんがいます。報酬も高く、食事も宿もお客さん持ちです。もしよければ返信をください」というものだった。

 メッセージを送ってきた女性の1人は、ホーチミン市タンフー区在住のグエン・ティ・トゥイさん(仮名)だ。プロの売春婦ではない若い女性を探して、お金持ちの男性客にシュガーベイビーを仲介し、時には長期で客に同伴する「ツアー」にも行かせる。

 トゥイさんは「私と一緒にダラットへ行ってその男性に会うの。報酬はすべてあなたの懐に入る。仲介料はすでにお客さんから受け取ったから、あなたから仲介料を取ることはないわ。それでよければ、一度カフェで会いましょう」とメッセージを送ってきた。

 記者が疑っていると、トゥイさんは「安心して。私は会社に勤めていて、あなたに紹介するお客さんは全員がお金持ちで地位のある人たちだから。お金は問題じゃないの」と付け足した。

 記者は翌朝にトゥイさんと会う約束をし、彼女が働いているというカフェの住所に行くと、そこはただのエアコン付きのビリヤード場だった。間もなくして、きちんとした身なりのトゥアン(仮名)という男性が近づいてきて、ダラットの客のいとこだと名乗った。記者に会った目的は、外見を確認して客に報告するためだった。

 トゥアンさんは「話し合う」ためにカフェへ行こうと記者を車に乗せた。メッセージを送ってきたトゥイさんは後から合流するという。そして、2人はビリヤード場から約3km離れたカフェに到着した。

 トゥアンさんは記者に、身長体重、学歴など社交辞令的な質問をいくつか投げかけただけで、こういった仲介をするのは初めてでよくわからないのだと漏らし、トゥイさんを待つように言った。

 トゥイさんは30分遅れて到着した。外見からは、彼女がシュガーベイビーの仲介人とは誰も思わないだろう。自称28歳のトゥイさんは小柄で、崩れたようにも見える美容整形顔。売春婦の仲介人のようなごてごてした装飾品は身に着けていない。

 挨拶の後、トゥイさんは記者が本当に学生なのか、売春婦でないのか何度も確認してから、本題に入った。

 「お客さんは40歳近いけれど若くてイケメンよ。ダラットにあるホテルのオーナーで、家族もいる。新型コロナウイルスの影響でホーチミン市にも来られなくて暇だから、ダラットまで来てくれる女の子を探しているの。報酬はすべて込みで、3日で900万VND(約4万2000円)。でも、まずあなたの写真を送って、お客さんが同意したらね」。

 報酬の先払いはできるのかと記者がたずねると、「お客さんはもうデポジットを払っているから、あなたがダラットに行って相手をすれば、彼から直接あなたに残りを支払うわ。誰も横取りしないわよ。私のお客さんは全員がVIP客で、仕事のつながりもあるし、いいかげんな人はいないから大丈夫」と言い、記者がお金の心配をしていることにいら立ちを見せた。

 こうした「ツアー」は単なる同伴でなく、いわゆる「セックスツアー」でもある。ただし、トゥイさんが仕事の顧客でもあるという男性たちにシュガーベイビーを仲介するのは、ビジネスの関係を維持するためであり、自分が受け取る仲介料もわずかで、一般的な売春婦の仲介人とは違うのだと説明した。

 また、こうした客は27~28歳より上の経験豊富な女性たちには興味がなく、19~20歳の若い子や学生を好む傾向にある。外見にはそこまでこだわらず、ナチュラルさやあか抜けない感じのシュガーベイビーには、いくらでも報酬を支払うのだという。

 なかなかイエスと言わない記者にトゥイさんは、ホーチミン市内の別の客も紹介できると言った。記者があれこれと情報をたずねていると、トゥイさんは突然記者のスマートフォンをつかみ、動画や写真を撮影したり音声を録音したりしていないか確認しようとした。

 トゥイさんが写真のフォルダをクリックし、何もないことを確認すると、記者はスマートフォンを奪い返し、「私は学生で、もし情報が漏れてしまったら大学に通えなくなってしまいます」と言い訳をした。

 「あなた、私服警察官でしょう?でも、私は男性と女性をつなぐ手伝いをしているだけでお金ももらっていないから。もし私を逮捕すれば、それは不当よ」と言いながら、記者を不審な目で見つめた。

 別れ際、トゥイさんは記者に、また客がいれば連絡すると告げた。「あなたはまだ若いんだから、勉強の心配をしなさい。お客さんがいればまた連絡する。まだこの仕事をしたいのであれば、頑張ってお金を稼ぎなさい。数年後にはもうこの仕事はできないわよ。そうしたら大学の卒業証明書を持って別の仕事を探せばいいわ」とアドバイスした。

偽装された売春

 こうしたシュガーベイビーとシュガーダディーの関係について、専門家は「偽装された売春」だと指摘する。

 国家行政学院ホーチミン校の講師である社会学博士・心理療法学修士のファム・ティ・トゥイ氏は、「養父(ba nuoi)」や「養子(con nuoi)」という言葉を利用して「クリーンさ」で覆い隠しているものの、これは紛れもなく売春だと指摘する。

 以前は小規模だったが、今ではオンライン広告などで目にすることも多く、夫が「シュガーダディー」をしていると知った妻や、娘が「シュガーベイビー」をしていると知った親などから相談を受けることも増えたという。

 中には、嫉妬で暴力を受けたり罵倒されたり、学業を諦めざるを得なくなったり、望まない妊娠をしたり、生んだ子供を他人に引き渡したりするシュガーベイビーもいる。

 シュガーベイビーとシュガーダディーの現象が生まれる原因として、道徳の問題に加えて、シュガーベイビーの道を選択する女性たちに、お金や学業の悩み、家族との関係、不安定な精神状態、失恋など様々な問題を抱える人が多いこともある。

 一方、男性がシュガーベイビーを求めるのは、性的欲求を満たすために喜んでお金を使うということがある。シュガーベイビーとシュガーダディーの問題は、単なる道徳や腐敗、違法ビジネスというよりも、より広範な社会現象に起因しているといえる。

 また、弁護士のドー・チュック・ラム氏もまた、お金と物質的な利益と引き換えに性的な行為を行うことは、法律的にも売春にあたると指摘する。

 売春防止法では、売春・買春・仲介を行った違反者は刑事罰の対象となり、少なくとも6か月から3年の禁固刑を受けることになる。また、相手が18歳未満だった場合は少なくとも1年から5年の禁固刑、さらに複数回または複数人と関係を持った場合は最長で15年の禁固刑となる。

 このほかにも、シュガーダディーがシュガーベイビーの性的な動画を撮影し、これを利用して脅したり、性奴隷にしたり、家族の幸せを壊したりする危険性もある。

 一方、シュガーベイビーがシュガーダディーの秘密をばらすと脅して財産を奪ったりするケースもあるのが現実だという。

 実際に5年以上シュガーベイビーとしてホーチミン市や東南部地方ビンズオン省のお金持ちを相手にしてきたHさん(27歳)は、今やアルコールに依存し、男性に拷問され、性感染症に苦しみ、10歳も上に見えるほど老け込んでいる。

 Hさんによると、5年間で会った男性の中にはきちんとした身なりをしながらも、ベッドの上では不健全という人もたくさんいた。友人たちもシュガーベイビーの道を選んだが、いずれも後に性感染症やアルコール依存症、薬物依存症、うつ病に苦しんだ。そして多くが貧しい売春婦となり、逃げるために借金を負い、法律を犯した。

 そしてHさんは、「わずかなお金を手軽に得るためにシュガーベイビーになる子たちは、後々使い古されてぼろぼろになり、貧しくなり、借金を負って不安定な生活を送るだけで、自分の身体を売ってお金を得て、『人生を変えた』子なんて見たことがありません」と語った。 

[Tuoi Tre 10:42 18/08/2020, 10:54 17/08/2020, 11:39 16/08/2020, A]
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