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[特集]

ベトナムの「パパ活」の実態に迫る【前編】シュガーベイビーとシュガーダディーの契約

2020/08/23 05:59 JST更新

(C) tuoitre
(C) tuoitre
 「僕のシュガーベイビーになって!良い関係が続けば、君は君が欲しいものを何でも手に入れられる。僕を満足させてくれればそれでいいから」。これは、地元紙の女性記者が「シュガーベイビー」を装って「シュガーダディー」に初めて会ったときに言われた言葉だ。

 シュガーダディーは、若くて美しい女性と「養子」の契約を結び、毎月お金を渡し、場合によっては家を賃貸し、スクーターも与える。その代わり、女性たちは契約に従わなければならず、時に性的関係にも応えなければならない。

 シュガーダディーとシュガーベイビーの関係は、海外でもよく知られる現象だ。ベトナムでは最近、オンラインの秘密のグループでやりとりが行われ、偽装売春のように「クリーンなもの」を装って存在している。

昔の恋人を忘れるために「娘」を探す男性

 このアンダーグラウンドな世界を探るため、地元紙「トゥオイチェー(Tuoi Tre)」の女性記者は、フェイスブック(Facebook)で2万8000人ものメンバーが参加するとある秘密のグループに潜入した。グループでは毎日、シュガーベイビーとシュガーダディーを募集するいくつもの投稿があり、秘密裏に活動している。

 記者は数日間グループの様子をうかがった後、偽のフェイスブックアカウントを作成し、インターネット上で拾ったセクシーな写真と自己紹介文を投稿した。ホーチミン市在住の大学3年生という設定で、美人で聞き分けが良く、週3回会うことができ、すべての秘密を守る、ということにした。

 1時間も経たないうちに何百もの反応があり、20人以上が「パパ」に立候補するメッセージを送ってきた。

 記者はオンラインでやりとりをし、候補者の中からホーチミン市ビンタン区の建設会社の社長と名乗る44歳のグエン・ドゥック・ビンさん(仮名)と会うことにした。ビンさんには妻子がいるという。

 ホーチミン市ビンタイン区ウンバンキエム(Ung Van Khiem)通りにあるカフェで初めて会ったとき、ビンさんは妻について優しくて有能な女性だと話した。しかし、妻に対して感情がわかなくなったため、プライベートな心の内を話せる若い女性を探しているのだという。

 ただ、話を聞くと、ビンさんに妻以外の女性が必要な一番の理由は、10年前に別れた昔の恋人を忘れるためだった。その元恋人は、ビンさんと妻を結婚させるために身を引いたのだった。

 女性記者が「もし奥さんが嫉妬したら?」とたずねると、ビンさんは「僕の妻は温和だから大丈夫。君はただ聞き分け良く、僕が妻を失うことのないようにしてくれれば何も問題ないよ!」と笑った。

愛とお金の交換

 ビンさんは自分を遊び人ではないと言ったが、毎月の支払いに加えて一晩一緒に過ごす場合のお金について言及すると、性的関係もあり得ると答え、自分の「強さ」を自慢した。そして「安心して。もちろん追加で支払うから。でも、すべて正直に話して」と言った。ビンさんは記者を売春婦だと疑っているらしい。

 会っている間、ビンさんは詐欺ではないかと疑い、記者が本当に学生かどうか何度も確認した。ビンさんは知的でそこそこの仕事に就いている人か、学生を探していた。困難な状況を助け、キャリアアップの方向性を示し、もし失業したら自分の会社で雇ってあげるつもりなのだ。

 そしてビンさんは記者に、送り迎えや世話をしてあげるから、会社の近くに引っ越してこないかと誘った。「君が学生なら、僕が何度か送り迎えをして、本当かどうか確認する。君の言うことがすべて本当だとわかったら、毎月1500万VND(約6万9000円)を支払うし、何か欲しいものがあれば僕に言って」。

 一方、ビンさんは記者を信用させるため、自分の会社に案内すると約束した。記者はビンさんの「密かな恋人」になることを受け入れたが、1か月後には高級マンションを借り、スクーターを買ってほしいとお願いしてみた。

 するとビンさんは「そんなふうにはっきりと要求してくる子は今までいなかったよ。でもそれは普通のことだ。もし僕たちの気が合うようだったら、君が要求しなくても君はすべてを手に入れることができるよ」と言った。

 そして、信頼関係を築くため、ビンさんは50万VND(約2300円)札4枚を記者に握らせた。さらに、記者が売春婦ではないことを確認するため、数日後に一緒にHIV検査を受けに行こうということだった。

 ビンさんは記者をシュガーベイビーとして見初めて、「パパ」になることに同意した。別れ際、ビンさんは「僕のシュガーベイビーになって!良い関係が続けば、君は君が欲しいものを何でも手に入れられる。僕を満足させてくれればそれでいいから」と言った。

「君に損はさせない」

 記者はシュガーベイビーとして、また別の「パパ」と会うことにした。お相手は、ホーチミン市ビンタイン区在住の47歳のチャン・コン・ハイさん(仮名)だ。ハイさんは化粧品事業を手掛けており、市内で貸し部屋のオーナーもしていると自己紹介した。当初は、シュガーダディーたちが自分の貸し部屋をシュガーベイビー用に借りてくれればという広告のつもりでグループに参加した。

 ハイさんは記者と会う前にも2人のシュガーベイビー候補と会ったが、契約には至らなかったという。1人はすぐにホテルに誘ってきたため売春婦だろうと思い、もう1人は月2000万VND(約9万2000円)を要求してきたため、断ったのだった。

 記者が「毎月1500万VND(約6万9000円)ね、パパ?」と提案すると、ハイさんは「どうしてそんなに高いんだ?」と言って記者を見つめた。記者は「だって、夜は奥さんといて私を一人ぼっちにするでしょう。寂しくさせる分の『補償金』を支払ってもらわないと」と口にしてみた。

 するとハイさんは、支払うことはできるが、まだ知り合ったばかりであれこれ要求できないし、親しくなるプロセスを経てから、と答えた。そして、自分は男性としての機能が弱っているため多くを求めないと話し、ただホテルに行って寝転んでじゃれ合い、話をするのが好きで、それも昼間しか会うことができないと打ち明けた。

 「特に、君から僕に電話をかけたりメッセージを送ったりしないように。パパが電話をいじっていて、2人の娘にばれようものなら大変だから」。娘たちはハイさんを慕っており、一方で妻はハイさんの性格をわかっていて、かつて浮気がばれたときに大げんかになって「もう2度としない」と約束したのだった。

 記者が「もし奥さんにばれたら私を守ってくれるの?」とたずねると、ハイさんは「君がちょっと気を付ければ大丈夫。今までにもたくさんの『娘』を養ってきたから。心配しないで!」と言った。

 パパと娘の関係を続ける間に娘に彼氏ができてもよい、一方がこの関係を終わらせたくなったら終わり、という契約だ。別れ際、ハイさんは「あまり約束はしないけれど、会うたびに君に損はさせないよ」と手を取った。記者が断ると、ハイさんは「よく考えて。待っているから」と言った。

不健全なパパ

 「君は痛みに耐えられる?」30歳そこらの男性が、ハノイ市タイホー区にあるバーでお酒のグラスを手に記者にたずねた。シュガーベイビーを探しているというチャン・ミン・タインさん(仮名)と記者は、米国発の出会い系アプリ「ティンダー(Tinder)」で知り合った。タインさんはゲーム開発会社の最高経営責任者(CEO)と名乗った。

 タインさんがティンダーに投稿したシュガーベイビーの条件は22歳未満であることと「経験」があることで、月2500万VND(約11万5000円)を支払うと提示した。シュガーベイビーを装った記者と初めて会ったとき、タインさんが真っ先にたずねたことが、痛みに耐えられるか、だった。

 記者がびっくりして聞き返すと、タインさんはこう答えた。「BDSM(嗜虐的性向)ってわかる?自分の恋人を痛めつけたくないから、代わりの子が必要なんだ。君の秘密は守るし、毎月2500万VND(約11万5000円)を払うから、週に1回会おう。いい?」。

 タインさんには付き合って5年になる恋人がいて結婚もする予定だが、自分の性的嗜好のために彼女を傷つけたくなく、だからといって売春婦も好きでないため、シュガーベイビーを探しているのだと語った。

 「強要はしないけれど、考えてみて。君はお金をもらえて、僕は欲を満たせる。この関係はウィンウィン(win-win)だよ。君に痛い思いをさせるけれど、お金は払うし、もし君がうまくできたらチップも払うよ」。

契約

 ほかにも、妻との関係に満足していないためにシュガーベイビーを探している、という男性もいた。ホー・ミン・バンさん(仮名)は妻子持ちの49歳で、1回のデートで400万VND(約1万8300円)を支払うと提示した上、1人のシュガーベイビーが週7日間ずっと自分の相手をするのは大変だからと、3~4人のシュガーベイビーを必要としているのだという。

 バンさんが用意したA4サイズの契約書には、「(パパからの連絡がないときに)娘からパパに電話をかけたりメッセージを送ったりしないこと」「他の人と関係を持たないこと」「コンドームを使わないときは、娘が自分で他の避妊策を講じること」「万が一妊娠した場合、娘が自分で解決すること」などのルールが書き連ねてあった。

 その代わりに報酬は高く、ばれないように守ってくれ、うまくいけば卒業後に就職先まで見繕ってくれるというのだ。


 シュガーダディーの中には、単に寂しさを埋めたり、心の内を共有したりという関係だけを求める人ももちろんいるが、身体の関係を求める「パパ」も決して少なくない。また、チャットの中で下品な言葉を並べ、あれこれと要求してくる「パパ」もいるのが現実だ。


−後編に続く− 

[Tuoi Tre 10:51 15/08/2020, 08:18 14/08/2020, A]
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