[特集]
難民船で生まれたベトナム系女性、命の恩人の英空軍兵とZoomで45年ぶり再会
2020/05/17 05:41 JST更新
(C) VnExpress |
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米国カリフォルニア州オレンジ郡に住むチエウ・アイン・ブー・リーバーマンさんは、45年前にエンジンが故障し海に漂流していた船の上で生まれた。そして生後わずか1日で、英国空軍のヘリコプター2機に救助された。
1975年5月2日午前7時18分、デンマークの貨物船クララ・マースク号のアントン・マルティン・オルセン船長は、エンジンが故障し南シナ海の海上で漂流していたベトナムの商船「チュオンスアン号」からの救難信号を受けた。
この船には旧サイゴン(現在のホーチミン市)を脱出した難民およそ3600人が乗っており、飢えと喉の渇きに耐えていた。
救難信号を受けたオルセン船長は即座に航路をチュオンスアン号に向けて変更した。同日昼ごろに現場へ到着し、乗客の救助を開始。チュオンスアン号の乗客をクララ・マースク号へ移動させると、香港に向かった。
2日後、オルセン船長は、衰弱している新生児とその兄である2歳の男児、2人の母親の女性、さらに盲腸が破裂した女性の難民4人の救助を要請する緊急電報を発した。この新生児こそがリーバーマンさんだ。緊急電報を受けて英国空軍がヘリコプター2機で救助に向かい、4人は香港にある英国軍病院へ搬送された。
リーバーマンさんはけがを負い、目は感染症のため開かない状態だった。このとき、リーバーマンさんらの救助にあたったのが、当時香港の啓徳(カイタック)空港に駐留していた英国空軍第28飛行隊の軍曹だったジョーンズさんだ。
「緊急電報を受けましたが、その時点で何人が船に乗っているのかは知りませんでした」とジョーンズさんは振り返る。ジョーンズさんは、今でもこの4人を救助したときの危険さ、困難さをはっきりと覚えている。
ジョーンズさんの乗ったヘリコプターは、クララ・マースク号の上空に到着するとロープを下ろし、盲腸が破裂した女性を救助した。もう1機のヘリコプターが生まれたばかりのリーバーマンさんと家族を引き上げることになっていたが、ヘリコプターには新生児を救助するための装備がなかった。そのため、ジョーンズさんの同僚のベイリーさんが下に降りてリーバーマンさんを腕に抱えなければならなかった。
ジョーンズさんの日記には、啓徳空港とクララ・マースク号の間の往復に2時間50分かかったと記されている。通常はヘリコプターで海上へ出ることはほとんどなく、2時間半の飛行に足りる燃料を積んでいたものの、救助時はこれを20分上回る飛行時間だった。
そして、救助が終わり香港に戻るとヘリコプター2機はきれいに清掃され、そのままその日に予定されていたエリザベス女王の護衛任務に備えた。「その後、我々の第28飛行隊はいつも時間通りということで『28 nick of time』と呼ばれるようになりました」とジョーンズさんは語る。
先頃、米国カリフォルニア州在住のベトナム系米国人で、資料映像を制作しているドゥック・グエンさんが難民船に関連する展覧会を開催した。そこで当時の写真を目にしたジョーンズさんは、グエンさんを介してリーバーマンさんに連絡を取った。
そして今年の5月2日、リーバーマンさんの45歳の誕生日に、ウェブ会議サービス「ズーム(Zoom)」を介して2人は再会し、初めて言葉を交わした。2人は人生の空白の時間を埋め合わせるように、お互いに写真や情報を共有した。
「ジョーンズさんとの再会は最高の誕生日プレゼントになりました」とリーバーマンさん。68歳になるジョーンズさんもまた「最高の気持ちです。あのとき、1人の人生を変えることができたのですから」と当時を振り返り、リーバーマンさんとの再会を喜んだ。
リーバーマンさんの母親は、当時の記憶についてあまり話さなかった。母親は5月2日午前2時ごろに船の上でリーバーマンさんを生んだが、ミルクも水もごはんもおかゆもなかった。そこで船に乗っていた人が母親の手にリコリスを渡し、母親はそれを噛んで唾液を出して、リーバーマンさんの口に入れたのだという。
その後、リーバーマンさんは奨学金を得てニューヨークでトップの大学に進学し、ファッションクリエイティブの分野を学んだ。現在はファッションデザイナー兼エグゼクティブとして成功している。その傍らで、自身の生い立ちを忘れまいと「チュオンスアンベイビー(Truong Xuan baby)」というブログも書いている。
[VnExpress 11/5/2020, T]
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