[特集]
本を修復して40年、ホーチミン最後の「本のお医者さん」
2020/05/10 05:48 JST更新
(C) vnexpress |
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ホーチミン市3区リーチンタン(Ly Chinh Thang)通りの路地裏に暮らすボー・バン・ザンさん(男性・60歳)は、古本を修理・修復する仕事に就いて40年余りになる。ザンさんは、ホーチミン市でこの仕事をまだ続けている唯一の人物とされる。自宅が仕事場で、客たちからは「本のお医者さん」と呼ばれている。
15歳の時、製本の仕事に魅了され、友人の家族が営む印刷工場で作業の手伝いをさせてほしいと申し出た。1978年に高校を卒業したが、大学入学試験は受けなかった。それからザンさんは協同組合の印刷工場の従業員となり、新しい本の製本や古本の修復を担当した。
「2歳のときにポリオにかかり右脚に障害を負ったため、文学を教える先生になることができませんでした。製本の仕事であれば私の健康状態に適していると思い、この仕事を選びました」とザンさんは振り返る。
客が古本を持ってくると、損傷の程度に応じて様々な方法で修復する。しかし、ザンさんのもとにやってくる「病人」のほとんどは状態が非常に悪く、「大手術」が必要になる。こうした状態の悪い本は、注意深くページごとに分解し、きれいにして元通りに並べ直し、背の部分にのこぎりで2本の線を切り込み、穴を開けて針と糸で縫っていく。
ザンさんによると、1980~1990年ごろは古本修復の仕事が非常に流行していた。当時は多くの人が本に夢中で、古くなれば直してもらいに行っていた。インターネットが普及すると、読書の習慣が廃れていき、ザンさんのところにくる客も減っていった。
しかし、客が最も多かった時期でも大きな儲けを得ることはなかった。「全ての工程を手作業で行うので、たくさん仕事を受けたくても1日に数冊が精いっぱいです」とザンさんは語る。
古本の修復には、注意深さと忍耐強さが求められる。「1960年代に出版された多くの本は、紙が腐ってしまい、強く扱うとすぐに破れてしまいます」。ザンさんの仕事道具は、糊、針と糸、そして20年以上も前に印刷工場の工場長が売ってくれた裁断機だけだ。
ザンさんの客は、だいたいが高齢者か古本屋、もしくは本のコレクターだ。しかし、5年前のとある客のことを、ザンさんは今でも忘れられないという。その客は小学1年生で、ばらばらになった本を持って父親と一緒にザンさんのもとへやってきた。
ザンさんが「この本は今たくさん出版されているのに、どうして新しいのを買わないんだ?直すよりも買ったほうが安いよ」と言うと、その子は「この本は先生からの贈り物だから、取っておきたいんだ」と答えたのだった。
ザンさんは平均して1日に3~5冊の本を「治療」する。料金は損傷の程度に応じて1冊2万~5万VND(約92~230円)だ。「私には妻も子供もいませんから、生活を維持するにはこの収入で十分です。もし家族を養わなければならなかったら、とっくにこの仕事を辞めていますよ」とザンさんは笑う。
ザンさんの古本修復の秘訣は、タピオカ粉から作った糊を使うことだという。「タピオカ粉は乾くと普通の接着剤よりも強力です。いったん貼りつけてから乾くまでの間に微調整することもできます。普通の接着剤だと貼りつけてすぐに固まってしまうので、紙が破れやすいんです」。
ザンさんがこの仕事で最も楽しいと感じるのは、客から修復を依頼された本を、どうにかして「そっくり元通り」にすることだ。表紙がぼろぼろに破れていたとしてもそれを残し、新しい表紙に付け替えることはしない。「この仕事はおもしろいですよ。たくさんの本を試しに読んでみて、色々なことを知れますから」。
ザンさんの馴染み客は、市内の古本屋が多い。1区グエンカックニュー(Nguyen Khac Nhu)通りで古本屋を営むタンさんもその1人だ。「最初は糸がほつれて表紙も破れ、今にもばらばらになりそうだった2冊の古本が、ザンさんに直してもらうとしっかりと製本されました」とタンさんは語る。
ザンさんは、毎日16時には仕事を終える。本を製本するときにページをぎゅっとおさえるのに手指を酷使するため、手指の関節が痛む。関節を緩めて脳をリラックスさせるため、ザンさんはギターを弾く。ザンさんは「歌はうまくないので、いつもテレビで歌手が歌っているのを聴きながら、それに合わせて弾くんですよ」と言って笑った。
[VnExpress 06:00 05/05/2020, A]
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