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[特集]

山の麓に住む99歳の「仙人」、漢方薬で人々を救う

2020/04/26 05:04 JST更新

(C) vnexpress
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 朝から晩までひっきりなしに続く診察、漢方薬の処方、患者への電話応答は、もうじき100歳を迎えるファム・ト・タンさんの1日のルーティンワークだ。

 家の裏で鶏が鳴くと、タンさんは寝床から起き、サンダルを履いてまっすぐ漢方薬の倉庫に向かい、調剤を始める。20包の薬を注意深く包み、患者の名前を書くと、コートをなびかせ、姿勢良く家の前の坂を登って行く。この春、タンさんは99歳になった。

 ハノイ市ソンタイ町のスアンカイン街区(phuong Xuan Khanh)を通る幹線道路には「貧困者、枯葉剤被害者、8歳未満の子供、戦死者の母は無料で治療」という看板が掲げられている。これはタンさんが30年間続けている東洋医学診療所の運営基準だ。

 「患者さんが、困難な状況にあると当局が認めた証明書を持参すれば無料で診療します。遠方で通院できない人は、この証明書を送ってもらえればこちらから薬を送ります」とタンさん。

 ある日の朝、1人の男性が車で胃腸薬2袋を買いに来た。タンさんは男性から120万VND(約5500円)を受け取った。お昼近くには、痛みで顔を歪めながら1人の女性がバスでタンさんの元を訪れた。タンさんは2錠の薬を渡し、すぐに飲ませた。痛みが和らぐと、女性は試しに1袋だけ購入したいとタンさんに伝えたが、治療には2袋の薬が必要となるため、タンさんは1袋を売り、もう1袋は無料で渡し、昼食も一緒に取らせた。

 「私の使命は、裕福な人からお金をもらい、貧しい人にそれを分け与えることです」とタンさんは言い、生活に困っていない人からは診療費を受け取り、そのお金で貧しい人を助けていることを説明した。

 タンさんはかつて、農業農村開発省傘下の看護研究所の所長だった。当時は医師としてポーランドやチェコスロバキアの科学者と協力して、薬用植物や、胃腸や関節を治療するための薬について研究していた。1989年に定年退職した後、治療するお金がない貧しい病人を目の当たりにし、そういった人々に奉仕する今の仕事を始めた。

 30年が経ち、無料で治療を受けた患者数は数十万人に上る。「10月22日に先生に手紙を送り、11月10日には薬を送ってもらえました。数日間薬を飲んで、腹痛は治り、熱やげっぷの症状も良くなりました」と、東南部地方ドンナイ省在住のフイン・ティ・キム・ホンさん(女性・65歳)は教えてくれた。ホンさんが送った手紙に当局の証明印はなかったが、それでもタンさんは薬を送ってくれた。「私が菜食主義者の仏教徒で、一人で生活しているからだと思います」とホンさんは語る。

 ソンタイ町赤十字協会会長のグエン・バン・クオンさんによると、これまでの20年間、ソンタイ町の人々はタンさんから薬に加えてお金、牛、テト(旧正月)の贈り物などを受け取ってきたという。人々は今や、タンさんのことを名前でも「先生」でもなく、「仙人」と呼んでいる。

 高齢になり、タンさんは健康のため毎食茶碗1杯のご飯を食べるだけだが、これまでに一度も薬やミルクを飲むような健康状態にはなっていないという。「90歳の時にバービー山(ハノイ市バービー郡)の山頂に桃の木を3本運び、植えました。それ以来、毎年1月の満月の日にはマウ寺とトゥオン寺まで1300段以上の階段を歩いて登っています。疲れたら休憩し、杖を使ったり、妻子の助けを借りたりすることはありません」とタンさんは語った。

 「以前、(東北部地方フート省にある)フン王の寺院前で200人以上の知識人が表彰されましたが、私はこの表彰のために初めてフン寺に登りました。お寺に到着すると、政府の指導者たちが声をかけてくれ、私の健康体を褒めてくれました」。これは2015年、タンさんが94歳の時の話だ。

 「騒ぐことなく、争うことなく、お金のことも気にしない。貧しい人々を見れば愛しく思い、豊かな人を見れば喜ばしく思う」。この考えこそ、タンさんが健康で長生きしている秘訣だという。

 タンさんの家には、これまでの献身的な行いに対する多くの賞状が飾られている。特に、全国各地の患者から送られてきた薬を求める手紙や感謝の手紙は、仕事机の引き出しの中に大事にしまわれている。

 夕暮れ時、ハノイ市フックト郡在住のグエン・ティエン・ベトさん(男性・38歳)が薬を買いに、5年ぶりにタンさんの元を訪れた。ベトさんは、「先生はまだバイクを運転していました。マツやヒノキの木のような先生の強靭さは、私たち若い世代が目指すべきものです」と言い、タンさんの以前と変わらぬ様子に驚いた。

 毎日新聞が読めるほど目も良く、耳も良く、骨のどこにも痛みはない。タンさんは5年後も健康を保っている自信があるという。「歯はほとんどありませんが、老化のせいではなく、かつてフランス軍に拷問を受けたせいですから」と、99歳になるタンさんは語った。 

[VnExpress11:22 31/12/2019, A]
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