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[特集]

手縫いマスクで人々を助ける、95歳の「ベトナム英雄の母」

2020/04/05 05:56 JST更新

(C) vnexpress
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 このところ、「ベトナム英雄の母」であるゴ・ティ・クイットさん(女性・95歳)が暮らすホーチミン市の自宅では、はさみで布を切る音、ミシンのペダルを踏む音が絶えず聞こえている。クイットさんが、人々に配布するための布製マスクを手作りしているのだ。

 「毎日テレビを見ているので、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況についてはよく知っています。マスクを縫って皆に配ることなら無理なくできますし、国全体で感染症予防に貢献しているようなものです」と、クイットさんはミシンのほうを向いたまま語る。

 95歳の高齢ながらも目はまだとても良く、自分で針に糸を通してミシンを踏む。マスクを縫う仕事を引き受けてからというもの、クイットさんは自分が若返ったような感じがし、精神的にも喜びに満ち、熱心に仕事に取り組んでいる。

 ゴーバップ区5街区6地区の女性の会では、2か月前から感染症予防のためにマスクを手作りして住民に無料で配布する運動を行っている。数日前、マスク用の布を切るはさみが足りなかったため、女性の会のメンバーがクイットさんの自宅へはさみを借りに行ったところ、この運動を知ったクイットさんから「手を貸しましょう」と申し出た。

 クイットさんは21年もの間、シーツを縫って貧しい人々に配っているため、針もミシンもはさみも揃っている。マスクを縫う仕事は、クイットさんのように熟練した人にとって難しいものではない。「この国が感染症の流行に直面する中、私には縫製の技術があり、人々に配るマスクを作れるというのは嬉しいこと。疲れなんてありません」とクイットさん。

 クイットさんは北中部地方トゥアティエン・フエ省の出身で、かつてはベトナム戦争にも参加し、戦争で夫と息子を失った。少女時代には、兵士が着る服を縫っていたこともある。ベトナムが平和になり、子供たちも成長して生活が安定すると、クイットさんは慈善活動としてシーツを縫い、貧しい人々を助けるようになった。

 3年前、まだ健康状態も良かった頃、余った布があるとわかればバイクタクシーに乗って布をもらいに行き、シーツを縫った。縫い終わると、困難な状況にある人がいればその人のもとへ行き、シーツを贈った。ここ数年は身体も弱り、遠くへ行くことはなくなったが、それでもシーツを縫う仕事は今でも毎日続けている。

 クイットさんの息子であるボー・クアン・トゥイさんによると、クイットさんはマスクを縫い始めてからいつも夜遅くまで座って仕事をしている。外が明るくならないうちからミシンの音が聞こえる日もあるという。

 クイットさんは、これまでに一体何枚のマスクを縫ったのか、もはやわからないという。布を切っては縫い、完成したらまとめて束にする。そして女性の会のメンバーが持ち帰り、洗濯してアイロンをかける。こうしてクイットさんお手製のマスクが人々の手に渡る。

 布を使い切ってしまい次の布が届いていないと、クイットさんは女性の会に催促する。しかし、女性の会のメンバーはクイットさんが仕事に貪欲なあまり健康に影響を及ぼすのではと心配し、時に冗談めかして「もう布はありませんよ」と言ったりもするのだという。シーツと違って、マスクを縫うのは細かさと器用さが求められる。そのため、集中して縫い目に気を付けていると、すぐに目が疲れてしまうのだ。

 ここ数日は、女性の会のメンバーが布の裁断を手伝っている。「手の力が強い人たちは1度に3~4枚まとめて裁断できますが、私は弱っているので1枚しか切れません。感染症が流行するこんな状況の中、たくさん助けられる人はたくさん助け、私のような高齢者は少しでも助けられるだけ助ける、それも同じことです」とクイットさんは語った。 

[VnExpress 16:55 24/03/2020, A]
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