[特集]
山林に1人で暮らす10歳の少年、父の死を乗り越え強く生きる
2020/02/02 05:05 JST更新
(C) vnexpress |
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父親の遺影を手にした日、少年は「お父さんはこんな見た目だったんだ」と震えながらつぶやいた。父親とは長いこと会えていなかった。
ある日の午前10時のことだった。東北部地方トゥエンクアン省ハムイエン郡タインロン村(xa Thanh Long, huyen Ham Yen)のタインロン小学校に通う5年生で、少数民族サンチャイ(San Chay)族のダン・バン・クエンくん(10歳)が教室にいると、父方の伯父の妻が慌てて走ってきて、クエンくんの父親が交通事故で亡くなったという悪い知らせを告げた。クエンくんは震えながら拳を握り締め、泣くのを堪えた。そして、うつむいたまま先生に3日間休ませてほしいとお願いした。
それから古い自転車に乗って4つの坂を越え、自宅に向かって3kmの道のりを走った。雨がやんだばかりの砂利道で、自転車のタイヤが何度も滑った。自宅では、伯父と近所の人たちが父親の遺影を印刷するのを手伝ってくれた。クエンくんは父親と長いこと会っていなかったため、父親の姿がどんなだったのか、もはや覚えていなかった。
5年前に母親は家を出て行き、父親も遠く離れた地へ出稼ぎに行っていた。そのため、クエンくんは父方の祖母と一緒に暮らしていた。しかし、2018年に祖母が60km離れたところへ嫁に行ったため、以来クエンくんは1人暮らしだ。
クエンくんの自宅は山林の端にあり、最も近いご近所さんでも200mの距離がある。1人暮らしを始めて1年が経ち、すっかり慣れたクエンくんは、他の人と一緒に暮らしたいとは思わないのだという。
学校の先生たちはクエンくんを哀れみ、寄付を募った。そして、ほぼ半日で1000万VND(約4万8000円)が集まり、父親の遺体を運ぶための車も手配できた。父親の遺体が自宅に運ばれた後、クエンくんはじっと座って、父親の遺影をしっかりと抱きしめた。
「周りの人たちは『頑張って乗り越えて』と励ましてくれましたが、僕はずっと前から頑張っていました」とクエンくんは話す。
葬儀のとき、クエンくんは黒い喪服を着て12時間近くもじっと立っていた。埋葬が終わると自宅に帰って、お粥を自分で作って食べた。
父方の伯父の妻は「おばあちゃんが帰ってくると、クエンくんはおばあちゃんに駆け寄って抱きしめるんです。そのときの顔は生き生きとしていますよ」と語る。
ある日曜日の午前5時、学校が休みの日にもかかわらず、クエンくんはいつもの習慣で早く起きた。線香立ての後ろに置かれた父親の遺影を静かに見つめてから、毛布とござを畳んで部屋の隅に寄せた。
屋根にも床にも穴が空いた自宅には、皆からもらったいくつかの鍋と籠、お椀と箸があるだけだ。クエンくんは台所に行き、冷えたご飯をよそって食べた。 食べ終わると、今にも地面に落ちそうになりながら掘っ立て小屋に入ってシャベルを取った。それからシャベルを丘へ運んでキャッサバを掘り、売りに出かけた。
あるときは、自宅から5km離れたところでキャッサバを1袋分掘り、持ち帰ろうとした。しかし、下り坂にさしかかると大きな袋に圧迫されて転げてしまった。誰かが助けてくれたが、やっと立ち上がってもまだ笑いが止まらなかった。この仕事はクエンくんにとって唯一の楽しみでもあり、大きなキャッサバが掘れると嬉しく、1kgあたり1000VND(約4.8円)で売れる。
夏には、地元の人たちについてタケノコを採りに行く。1回に3~4kgを採り、2万VND(約96円)を得られるが、タケノコは夏しか採れないため、一年中収穫できるキャッサバがクエンくんの主な「収入」になる。暇なときは村の人の手伝いで米袋を運び、その代わりに米をもらう。さらにテト(旧正月)や祝日には、村の当局から5~7kgの米を支給してもらっている。
2018年に父方の祖母が結婚したとき、クエンくんは毎晩泣いていた。そのため、3か月続けて伯父が面倒を見にいかなければならなかった。伯父はクエンくんに一緒に住むよう声をかけたが、クエンくんは同意しなかった。「伯父の家は貧しいですし、人も大勢いて、僕が同居すれば重荷になるだけだから」とクエンくんは静かに話した。
そばに大人がいなくなり、まだ料理もできなかった頃、クエンくんはインスタントラーメンを食べていた。インスタントラーメンに飽きると、鍋を持って森に入り、果物や山菜を採ってはその場で茹でて食べた。今は炊飯器があり、炒め物やスープ、漬け焼きも作れるが、普段の食事はごま塩をかけた白ご飯だけだ。かまどを見ては、鶏肉や牛肉などを想像している。
「おばあちゃんがお嫁に行ったばかりのある夜、お父さんが家に帰ってくる夢を見たんです。お父さんは狩りに行こうと弓矢をくれました。僕は走って走って、疲れ果てましたが、ようやくウサギを狩ることができました。そうしたらお父さんが『強く生きるんだよ』と言って、そこで僕は目を覚ましました」とクエンくん。クエンくんにとって、その一言が学校に行き、自立するための原動力になっているという。
父方の祖母は新しい家族のことで忙しく、2018年は2度しかクエンくんを訪ねてこなかった。現在のクエンくんの唯一の夢は、祖母のそばにいて、祖母に髪の毛をなでてもらうこと。「髪の毛をなでてもらうと、とてもよく眠れるんです」とクエンくんは語る。
10歳の少年の後ろにあるのは、誰もいない空っぽの家だけだ。
[VnExpress 10:40 26/11/2019, A]
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