[特集]
片腕を失った退役軍人、愛する妻への贈り物に5度家を建てる
2019/09/22 05:04 JST更新
(C) vnexpress |
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ハノイ市バービー郡ドンタイ村(xa Dong Thai, huyen Ba Vi)在住のチャン・バン・クエットさん(60歳)は、23歳で軍に入隊し、カンボジアの戦場に派遣された。1981年に片腕を失い、また腹部に重傷を負ったため、戦場を離れた。
片腕を失ったクエットさんだが、3年前に自分で新しい家を建てた。以来、妻と子供たちはクエットさんに重労働をさせなかったが、長時間座っているとかつて戦場で負った腹部の傷が鈍く痛むからと、痛みを忘れるために再び働くようになった。クエットさんは働き者で、数百m2の広さの土地も片腕に持った鍬を使ってわずか30分で耕してしまう。
「私が傷病兵になったことを知った妻の兄弟たちは、妻に私と別れるよう懇願しました。でも、妻は私を心から愛してくれていたので、私の人生は本当に幸運でした。だから私は、妻へのお返しにどんな困難なことでもするんです」と、クエットさんは笑いながら穏やかに話した。
傷病兵としてカンボジアから帰国した日、クエットさんの持ち物はその時に身につけていた衣服1セットだけだった。夜寝るときにはパンツだけを履き、色あせた長ズボンと軍用シャツは翌日着るために洗う。新しい衣服を買うお金がなかったため、3年もの間、クエットさんはその格好で過ごした。
クエットさんは、妻であるフン・ティ・ドゥックさん(60歳)に手伝ってもらいながら、失った利き手と反対の左手で文字を書く練習をしたこともある。クエットさんの文字書きは2年経ってもなかなか上達しなかったが、鋤や鍬はたった数日で持つことができるようになったのだという。
若かりし頃の2人はおんぼろの小屋に住んでおり、隣には大きな池があった。 長男が生まれ、2人は 池を埋めてそこに家を建てることに決めた。クエットさんは毎晩片腕で荷車を引き、砂を求めてあらゆる場所に出かけて行った。歩きながら歌を歌ったり、大声で「大きい車が通りますよ」と叫んだりして、道を空けてもらった。池の深さは2mあり、毎日少しずつ、3年かけて埋めていった。
その間、クエットさんは1年の半分をれんが積み工として働きながら、建設の経験を積み、自宅の庭に小さなレンガの窯を作った。クエットさんは、右手の代わりに右足を使って土からレンガの形を作り、15kgもの重さになる10個のレンガを肩に乗せて窯に運んでは、レンガを焼成した。身体はまだ痛んだが、片腕で家を建てることを妻に褒められ、クエットさんは喜んだ。
長男のチャン・バン・チエンさん(38歳)は、「私は父が片腕で家を建てたことに敬意を抱き、『お父さんはスーパーマンだ』と拍手しました。疲れも知らず1日中働き、家では踊りながら家族を笑わせてくれたんです」と振り返る。
家庭の経済状況が徐々に良くなるにつれて、クエットさんは 順に5m2、20m2、40m2の家を建てていった。作業員を雇うお金はなかったため、自分で壁を作り、セメントを塗り、屋根瓦を葺いた。「片手しかない人間でも、ゆっくりとではありますが、確実に家を建てることができます。忍耐強ささえあれば、何でもできるんです」とクエットさん。
住む家が建った後も、妻のドゥックさんは毎日数km離れた場所まで水を汲みに行かなければならなかった。そんな妻のために、クエットさんは1人手作業で井戸を掘った。作業中には、深さ3~4mの地中奥深くにいる夫を妻が心配することのないよう、息切れしながらも時折大きな声で歌を歌った。
そして数か月かけて、ようやく深さ10mの井戸を掘り終えた。村人たちは「自ら苦行を積んでいるのか」と笑ったが、彼はただにこやかに笑うだけで、誰を責めることもせず、弁明もしなかった。
2016年、クエットさんは以前の40m2の家に代わる、面積100m2の家の建設に着手した。クエットさんは設計と建設に加えて電気と水道も自分で設置したため、基礎を掘る時とセメントを注ぐ時のみ人を雇った。新居は妻の好きなオレンジ色に塗られ、苔むした緑の家が多い村の中で一際目立っている。
この家を建てるため、クエットさんは100kmもの道のりをキャッサバ集めに出かけるも7日間で5kgしか集まらず、妻は空腹と子供にあげるミルクがないことで涙を流した日もあった。クエットさんは「悲しまないでおくれ。家族全員が食べるのに困らない方法を何としても見つけるから」と妻に伝え、約束通りに米やトウモロコシ、スイカを植えたりし、1年中休みなく働いた。家では子供のおむつを替えてお風呂に入らせてから、洗濯をし、料理をし、あらゆる家事をこなした。
また、時折10km以上も森の中を歩き、深い小川を泳いで魚を捕まることもあった。家に帰ると、クエットさんは大きな魚を持ち上げてドゥックさんに見せ、「あなたが太ってしまうくらい食べさせてあげるから」と嬉しそうに伝えた。そんな時、ドゥックさんはただ、夫が無事に戻ってきたことに安堵のため息をついた。
クエットさんは植付けや収穫の技術を身につけながら、小銭を貯めて、妻とともに貧困から脱出していった。クエットさんは、2000年代に入る前は毎月数十万VND(10万VND=約470円)ずつ貯めて、500万VND(約2万3400円)、700万VND(約3万2700円)と自分のブリキの貯金箱のお金を増やしていった。そして、妻のために大きな家を建てるという夢を実現することができたのだった。
さらにクエットさんは、妻に贈る家に留まらず、腎不全を患っている長男のため、自分たちの家の隣に2階建ての家も建てた。また、結婚したばかりの末っ子の家を建てるのを手伝い、5人の孫の養育費の支援も続けている。
今も毎朝、クエットさんはベランダに出て静かな村を眺め、「明日は何を植えようか、来月は何を育てようか」と考える。妻のために家を建てるという約束は果たしたが、彼はこれからもまだまだ働き続けるつもりだ
[VnExpress 16:04 02/08/2019, A]
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