[特集]
大女優タイン・ガー殺害から40年、「舞台の女王」の人生をたどる【前編】
2018/12/09 05:52 JST更新
(C) nguoiduatin、タイン・ガー |
(C) nguoiduatin、犯行の再現 |
1978年11月26日、当時のベトナム南部で「舞台の女王」と称された大女優タイン・ガー(Thanh Nga)とその夫が、見知らぬ男2人に殺害される事件が起きた。この事件は犯人らの残虐さや犯行の大胆さから世間を震撼させた。
2018年12月2日、タイン・ガーの40周忌を迎える式典がホーチミン市4区で行われ、数多くの俳優・女優らが出席し、若干36歳でこの世を去った大女優を偲んだ。
1950年代におけるベトナム南部の伝統歌劇「カイルオン(cai luong)」の歴史の中で、タイン・ガーは評判の女優の1人で、舞台業界にとどまらず一般の人々にも広く知られた存在だった。
タイン・ガーは、その才能だけでなく、業界人の間でも際立った控えめなしおらしさや無限の慈悲の心を持つことからも愛されていた。殺害から40年が経った今もなお、ファンの心の中で彼女の記憶が色あせることはない。
「舞台の女王」タイン・ガーの生い立ちと家族
タイン・ガーは、本名をジュリエット・グエン・ティ・ガー(Juliette Nguyen Thi Nga)という。1942年7月31日、メコンデルタ地方タイニン省で生まれた。父親はグエン・バン・ロイ(Nguyen Van Loi)、母親はグエン・ティ・トー(Nguyen Thi Tho)。タイン・ガーは仏教徒で、ジエウ・ミン(Dieu Minh)の法名を持っていた。
タイン・ガーは2度結婚したが、2度目は後妻で内縁だった。1人目の夫はベトナム陸軍士官のグエン・ミン・マン(Nguyen Minh Man)、2人目の夫はファム・ズイ・ラン(Pham Duy Lan)。ファム・ズイ・ランは情報省の長官(Dong Ly Van Phong)を務めていたことから、ドン・ラン(Dong Lan)とも呼ばれていた。
タイン・ガーは芸能一家で、母親のトーはバウ・トー(Bau Tho)の芸名で活動し、養父はナム・ギア(Nam Nghia)、異父の弟はバオ・クオック(Bao Quoc)、甥はフウ・チャウ(Huu Chau)とフウ・ロック(Huu Loc)と、それぞれ名だたる俳優・女優が揃っている。
タイン・ガーには2人目の夫であるランとの間に1973年に生まれた息子のファム・ズイ・ハー・リン(Pham Duy Ha Linh)がおり、彼は現在、俳優(コメディアン)として活躍している。
タイン・ガーの女優としての活躍と評判
タイン・ガーは10歳のころから舞台に立ち始め、養父のナム・ギアが手掛けるタインミン(Thanh Minh)演劇で大成功を収める。12歳のとき、ベトナム文学の物語(詩)「ファム・コン―クック・ホア(Pham Cong - Cuc Hoa)」でファム・コンとクック・ホアの娘役ギー・スアン(Nghi Xuan)を演じ、16歳ごろからはその実力からカイルオンの「花形スター」としてのし上がっていった。
タイン・ガーは、声質も演技のスタイルも並外れている、と業界で評価されていた。時にエレガントな、時に苦しみや憂いを帯びた、しかしはっきりと感情のこもった歌声で観客を魅了していた。今日に至るまで、彼女の歌声と演技は後の世代が演劇を学ぶにあたってのスタンダードになっている。
1960~1970年代には、カイルオンの舞台で「女王」と称され、いくつもの賞を受賞するなどした。20年余りにわたる芸能活動の中で、タイン・ガーはカイルオンの歌劇の数々に名を残した。
カイルオンのほか、タイン・ガーは多数の映画にも出演した。1969年からはベトナム南部を代表する映画女優となり、1971年に台湾の台北で開かれたアジア映画祭に出席したほか、1974年には同じく台北で行われたアジア映画大会で最優秀女優賞を受賞した。
1969年にはインド映画大会に参加し、訪印団で唯一の女性として注目を集めた。さらに、インドのインディラ・ガンディー元首相の出迎えを受け、その写真はインドの現地紙にも掲載された。
タイン・ガーの写真は、東京やパリ、香港にある映画アーカイブにも所蔵されている。タイン・ガー、タム・トゥイ・ハン(Tham Thuy Hang)、キエウ・チン(Kieu Chinh)、キム・クオン(Kim Cuong)の4人は、1975年以前のベトナム南部において最も多くの映画に出演した代表的な女優として知られている。
タイン・ガー夫妻殺害事件
1978年11月26日の夜遅く。ホーチミン市の劇場でカイルオン「Thai hau Duong Van Nga」の公演を終えたタイン・ガーは、夫の運転するグレーのフォルクスワーゲン(Volkswagen)で帰途についた。
そしてこの日、23時30分ごろに事件は起きた。現在のホーチミン市1区レティリエン通りにあたる自宅前に着いたところで、見知らぬ男が突然、夫妻と息子の乗った車に押し入り、銃を向けて「息子を誘拐する」と脅してきた。必死に息子を守ろうとしたタイン・ガーと夫は、犯人らに銃で撃たれ殺害されてしまった。
―後編に続く―
[Nguoi Dua Tin 13:00 29/11/2018 / Cong An Thanh pho Ho Chi Minh 15:33 01/12/2018 / Nguoi Lao Dong 13:37 02/12/2018, A]
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