[特集]
合気道家と運命の出会い、寝たきりから自立できるようになった少年
2018/12/02 05:58 JST更新
(C) vnexpress |
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ホーチミン市フーニュアン区児童館の3階では障がい者向けに無料の合気道教室が開かれている。教室に通じる階段には、母親に見守られながら伝い歩きで一歩ずつゆっくりと階段をあがる少年の姿がある。少年の名前はホアン・ティエンくん(9歳)、脳性麻痺で2年前まで寝たきりだったが、この教室に通うようになってからハイハイ、掴まり立ち、自立ができるようになった。
「2か月ほど前に伝い歩きができるようになったばかりなんですよ。それまではどこへ行くのもこの子を背負っていかなければなりませんでした」と母親のトゥエンさん(28歳)。2009年に誕生したティエンくんは大人しく手のかからない子だった。
ところが、生後18か月になってもハイハイも一人座りも掴まり立ちもしなかった。ティエンくんを病院へ連れて行くと、脳性麻痺で両足の筋力も弱いと診断された。「病院からの帰り道、バイクの後部座席に妻と息子を乗せて走りましたが、息子が可哀そうで涙が止まりませんでした」とティエンくんの父親のトゥンさんは回想する。
ティエンくんの治療に専念するため、トゥエンさんは在籍していた師範大学を2年生で休学した。トゥンさんは製氷店で働いていていたものの給料は少なく、夫妻は家財を売ってティエンくんの治療費に充てた。病院、民間療法、理学療法、指圧、障がい児向けのリハビリ教室などあらゆる方法を試したが、どれも効果がみられなかった。
そうしている間にティエンくんは7歳になったが、赤ん坊のように寝たままで知らない人を見ると恐がって泣いた。身体も弱く天気の変化で体調を壊しては1か月ほど長引いた。そんなときにはトゥエンさん夫妻は自らのIDカードを担保にお金を借入れた。
2016年初め、トゥエンさんはティエンくんに合った習い事はないかと児童館へ連れて行った。その日はたまたま合気道家レ・ホアン・マイ氏の子供向け合気道教室が開かれていた。息子を背負い暗い顔で階段を昇るトゥエンさんを見てマイ氏は声を掛けた。事情を知ったマイ氏はティエンくんに無料で稽古をつけることにした。
ティエンくんは週4回、教室で四足歩行、手すりや壁を使った伝い歩きを練習し手足の筋力をつけ、精神の集中を学んでいる。教室ではマッサージや指圧、整骨などの治療も受けている。
今では自ら進んで教室に通うティエンくんだが、こうなるまではそう簡単ではなかった。始めの週は帰りたいと大泣きし、次の週はなんとか教室で他の子供たちの練習を見学することができた。一進一退しながら、1か月かかってやっと練習開始にこぎつけたが、ちょっと動けば転び、床に顔を伏せて練習を止めてしまうことが続いた。
トゥエンさん夫妻は家でも積極的にティエンくんの歩行練習をするようになった。家中を四足歩行し、階段を上り下りさせた。家の中を1周回ったら力尽きていたティエンくんも次第に2周、3周と回れるようになり、2時間通して練習するにまでなった。四足歩行は身体全体を動かすことでエネルギーを発散させて発汗を促し、ティエンくんのような障害を持った子供の運動としてとても有効だとマイ氏は言う。このため、マイ氏の教室では子供たちはみな四足歩行を練習する。
教室に通いだして2年が経ち、ティエンくんは人の手を借りず1人で立ち上がれるようになった。ティエンくんが初めて1人で立った日のトゥエンさんの感動は今でもはっきりと残っている。「1人で立てるようになったのは2か月前のことです。四足歩行の練習をしている時にズボンが下がってしまったので、起き上がってズボンを直さなければならなかったのですが、自分で立って直したんです。私も先生方もみんなで喜びました」。
現在、ティエンくんは歩行器や手すり、壁を使った伝い歩きの練習をしている。ティエンくんが自立できるようになったのは繰り返しの運動により筋力が発達し脳を刺激したためだとマイ氏は分析する。歩行できるようになるにはまだ忍耐と時間が必要だが、必ず自分の足で歩ける日が来るとマイ氏。
マイ氏はティエンくんとの出会いがきっかけで、2016年6月から障害児向けの合気道教室を開いている。「私の兄弟もティエンくんのように障害を持っていて、母はとても苦労しました。ティエンくんをおぶったトゥエンさんを見てかつての母の姿を思い出しました」と、マイ氏はティエンくん親子との出会いを語る。
ティエンくんは教室の誇りであり、マイ氏の原動力になっている。障害児向けの合気道教室にはダウン症や自閉症、身体障害の児童14人が通っている。なかには知的障害で四肢に麻痺がありながら、練習を重ねたことで四足歩行ができるようになった生徒もいるという。
トゥエンさんは大学に復学し無事卒業、現在は歴史の教鞭をとっている。トゥンさんは知人から支援を受けて2016年に製氷店を開き、生活は上向いた。しかし、夫妻にとって何よりの喜びはティエンくんの成長だ。
歩行練習に加えてティエンくんは両親から色や数字、文字、家族の呼び名を習っている。覚えたことを直ぐ忘れてしまいがちなので、両親は毎日少しずつ、ティエンくんの機嫌が良く集中力がある時に教えている。「今ではa~c、1~3の文字を覚え、両親や祖父母の名前を呼べるようになりました。私にとって、これは奇跡なんです」とトゥエンさんは息子の成長を喜ぶ。
「息子と2人で出かけた時に、お父さんが年を取ったらもうしてやれないから今のうちにおんぶしてあげようか?と冗談を言うと、自分で立つといって絶対におんぶさせてくれないんですよ」とトゥンさんの声も弾んでいる。
[vnexpress.net 16:00 22/11/2018, T]
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