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[特集]

片腕でチェーを売って30年、69歳老舗店主の人生

2017/07/02 05:31 JST更新

(C) thanhnien
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 ホーチミン市1区のマイティルウ(Mai Thi Luu)通りとグエンバントゥー(Nguyen Van Thu)通りの角地に、1987年に開店したチェー(Che、ベトナム風ぜんざい)の店がある。シンプルな路上店だが、30年間にわたり変わらぬ味のチェーを売り続けており、いつも客でいっぱいだ。

 「バークットさん(ong Ba cut)」のニックネームで知られる店主のボー・バン・テーさん(男性・69歳)は、40年以上も前に右腕を失い、残った左腕だけを動かして生きてきた。片腕を失ったのは、若い頃に遭った労働災害事故のためだという。しかし、片腕を失ったからといってテーさんが仕事を辞めることはなかった。

 テーさんは毎日朝早くから緑豆や黒豆などを使った様々な種類のチェーを片腕だけで調理し、11時になると1区チャンクアンカイ(Tran Quang Khai)通りにある自宅から慣れ親しんだ店の場所まで車を押して行き、忙しくも楽しい1日の仕事を始める。

 黒豆や緑豆をピューレ状にして砂糖と氷を混ぜただけのテーさんのチェーには、幼い頃に食べたチェーを思い出させてくれる懐かしさがある。テーさんは、「私には何のノウハウもありませんよ。実際のところ、以前は姉がチェーを売るのを手伝っていたのですが、姉が亡くなってから私1人で店を営んでいるんです」と話す。

 テーさんは、仕事の上で苦労が多いかと尋ねられると、「ないといえば嘘になりますが、もうすっかり慣れましたよ。店主としての仕事も難しいことはありませんし。ただ片腕というのが不便なだけです。客が多い時は、近くにいる人が手伝ってくれるので安心です」と笑顔で語る。

 テーさんのチェーは種類によって1杯7000~1万VND(約34~49円)で、何回食べても飽きないと評判だ。持ち帰りで買って行くという女性客は、「テーさんのチェーはとても美味しいですよ。毎回、同僚に10杯くらい買って行きます。テーさんはいつも笑顔で優しくて、会うと楽しい気持ちになれます」と教えてくれた。

 テーさんの店の近くで麺の店を営んでいる女性は、テーさんとよく冗談を言い合って笑っているという。女性は、「テーさんはいつも笑っていますが、苦労も多いはずですよ」と話す。テーさんは独身の人生を選択し、老いた母親と姉を支えてきた。しかし、母親は数年前に亡くなり、姉も病気がちなため、テーさんは毎日チェーを売ってお金を稼いでいる。

 テーさんは、「私は貧しいですし、身体に障害もありますし、デートをする相手もいません。以前、何人かとお付き合いをしたこともあります。皆良い人でしたが、私の世話をすることで彼女たちの重荷になりたくないと思い、自分から身を引きました」と話してくれた。

 日差しの強い昼、テーさんは今日も蜂のように一生懸命に働く。美味しいチェーと、誰もが持っているわけではない人生を謳歌する笑顔とポジティブさを求めて、客はますます増えていく。客はテーさんのチェーを1杯食べればやみつきになり、再び訪れて「バークットさん!」とまたチェーを注文してしまうのだ。 

[Le Nam, Thanh Nien, 09:12 (GMT+7), 13/06/2017, A]
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