スマホを駆使する「U70」の配車アプリ運転手 [特集]

　夜も更けた23時のホーチミン市1区で、配車アプリ「ウーバー(Uber)」で呼んだ車に乗ると、運転手は高齢だった。車は古く、ウィンカーの電球が故障しているか、もうすぐ切れそうだ。　高齢の運転手は申し訳なさそうに打ち明けた。「これは私の叔父の車なんです。私はUberの運転のために毎日20時からこの車を借りているので、ライトの整備までできていないんです」。　年齢を尋ねると運転手は、「私は1955年生まれで、今年で63歳になります。定年退職して数年経ちますが、柔軟な頭を保つためにも働くことが好きなので、Uberの運転手を始めました。仕事は楽しく、収入を得ることもできますし」と答えた。　「Uberでお客さんを迎えるために使うスマートフォンの操作は難しくないですか？」と聞いてみると、「簡単ですよ。難しいとは感じません。少し頑張って学べば、数日で使いこなせるようになりますよ」と運転手。　「早朝にはバイクタクシーの配車アプリ『グラブバイク(GrabBike)』の運転手もしています。私はホンダのエアブレード(Air blade)を持っていて、毎日5時に起き、荷物を知り合いのレストランに運んで、それからプールに向かいます。プールでは20往復、約2km泳ぎます。その後にGrabBikeの運転手の仕事に向かうんです」。　運転手の1日の生活はこうだ。早朝から昼までGrabBikeの運転手、それから家に帰って休憩。その後、再び15～16時までGrabBikeの運転手をして、家に帰って夕食をとる。ラッシュアワーで道が渋滞する時間帯は避けて、20時になると叔父から車を借り、0時か深夜1時頃までUberの運転手をする。

　1日の睡眠時間は4時間程度で十分だといい、翌朝はまた5時に起きて深夜までGrabBikeとUberの運転手をする。彼は、平均で1日40万VND～50万VND(1970～2460円)を稼いでおり、諸経費を差し引いた収入は毎月1000万VND(約4万9000円)になる。　彼の子供たちは既に独立していて、毎月食べるのに困らない金額を仕送りしてくれているという。しかし、稼がなくても生活していけるからといって、ただ座っているだけの生活には耐えられないのだと話してくれた。　GrabBikeの運転手のために新しいバイクを購入すると決めた際、彼の家族は「愛人ができたから綺麗なバイクとスマートフォンを買うに違いない」と騒ぎ立てた。彼は、新しい形態のバイクタクシーの運転手をするためにスマートフォンが必要なのだということを説明しなければならなかったという。　「妻は、私がバイクタクシーの仕事を始めて、家に収入を持ち帰るようになってからようやく信じてくれましたが、お金は必要ないのになぜ苦労して働くのかと聞いてきました。私は妻に、仮に毎月1000万VND(約4万9000円)を稼いだら、年間で1億2000万VND(約59万円)の収入になる。3年間働けば3億6000万VND(約177万円)になり、中古でも性能の良い車を買うことができる。車があれば好きな場所に連れて行ってあげられるし、時間があればUberの運転手をして、生き生きと過ごしながら収入を得ることもできる。そう説得して、ようやく理解してくれました」。　運転手はさらに話してくれた。「路上で客を待つ昔ながらのバイクタクシーの運転手は、最新技術についていけないと言っていますが、それは単なる言い訳に過ぎず、ただ怠けているだけです。今の生活に慣れてしまっているから、それを変えたくないのです。今まで通り、一定の範囲内でバイクを走らせて、高いバイクタクシー代を稼ぎたいだけなんです」。

　「スマートフォンを買ってGrabBikeをインストールするのにそう大きなお金はかかりません。200万～300万VND(約9900～1万4800円)もあればスマートフォンを買うことができます。使い方を学び、Grabに登録するのだって難しいことはありません。彼らはバイクタクシーでお金を稼いでも、夜になるとそのお金で仲間たちと酒を飲み、朝になればまた座って1日中客を待っているんです」。　そしてこう続けた。「彼らは片道のバイクタクシー代でより高い料金を稼ぎたいのでしょうが、客を降ろした後、その場所で他の客を待つことはできません。その場所は他のバイクタクシーたちの縄張りになっているからです。だから彼らは自分の縄張りに戻り、再び客を待ち続けます」。　「GrabBikeは、バイクタクシーほどの稼ぎはありませんが、安定して客を迎えることができます。私は運賃が1万VND(約49円)でも2万VND(99円)でも受けることにしています。客を降ろした後は近くで休憩できる場所を探し、携帯電話に気を配りながら次の客からの連絡を待ちます。無駄にバイクを走らせることもないので、ガソリン代を節約することもできます」。　そして、運転手はこう打ち明けた。「もう1つ面白いことを教えてあげましょう。Uberを利用している人の多くは知識も豊富な若者たちです。私はこうした人たちと話をすることで、さらに色々な新しい知識を得ることができて、ボケることもなく、心も若々しく保つことができます。私はお金のためではなく、それが楽しいから毎日運転しているんです」。

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