[特集]
人形に魂を吹き込んで20年、水上人形劇を愛してやまない人形職人
2017/01/08 05:57 JST更新
(C) An Huy, Thanh Nien |
(C) An Huy, Thanh Nien, 人形に漆を塗るオアインさん(右)と息子(左) |
(C) An Huy, Thanh Nien |
ホーチミン市7区に住むフン・クアン・オアインさん(46歳)は、水上人形劇の人形を作るようになって20年以上になる。自宅の前庭の20m2程のスペースがオアインさんの作業場だ。
オアインさんは旧ハタイ省(現ハノイ市)の農家に生まれ、幼いころから地元のお祭りなどで催される水上人形劇に慣れ親しんだ。そして、操者により楽し気に水面を駆け回るひょうきんな表情をした人形に魅了された。
その後オアインさんはハノイ絵画音楽短期大学に進学し彫刻を専攻。学生になっても水上人形劇に対する愛着は変わらず、オアインさんは友人2人と水上人形劇の人形制作で知られるハノイ市ザーラム郡やドンアイン郡、紅河デルタ地方ハイズオン省を訪れた。
ベトナムに長く伝わる伝統芸能でありながら発展のための取り組みが乏しく、職人の高齢化が進み後継者もいない現状を目の当たりにしたオアインさんたちは人形制作の道に進むことを決めた。
オアインさんたちは各地方の習慣や文化の特色を人形で表現するなどこれまでにない新しいスタイルの人形を制作した。人形は実際に劇場で使用され、高い評価を得た。
1996年に大学を卒業したオアインさんは、地元へ戻り人形制作所を立ち上げた。以前からの人脈を通じて数多くの人形制作を受注し、繁忙期には臨時工員を雇い2人の弟にも手伝ってもらうほどだった。
2000年以降はさらに受注が増え、オアインさんが手掛けた人形は北部各地や海外の水上人形劇で使用されるようになり、北部各地のお祭りへも貸し出されるようになった。
2007年になると南部地方でも水上人形劇が上演されるようになったが、当時は南部地方に人形制作所がなかったことから人形は北部から高額で輸送されていた。そこでオアインさんは水上人形劇の普及を目指し、新天地を求めて家族でホーチミン市へ移住した。
移住当初はつてもなく人形を手に劇場を回り飛び込み営業をした。その甲斐あって客は徐々に増え、現在ではロンバン水上人形劇場やサイゴン水上人形劇場、フオンナム芸術劇場などホーチミン市内の劇場で使用されている人形は全てオアインさんの制作所で作られたものだ。
人形制作は木材の選定から始まり、デッサン、彫刻、漆の塗装、銀のコーティング、各部位の組立てと完成までに3日間を要する。繊細ながらコミカルでもある人形の表情は観客の笑いを引き起こし、銀のコーティングは劇中の照明に反射し華やかさを演出する。操者が水上で人形を躍動的に動かすためには各部位の組立も重要だ。
1つひとつの工程を通して人形に魂、人格が吹き込まれていく。また、各地方のお祭りの演目向けに人形を制作する際には、お祭りの歴史や内容、衣装についての勉強も欠かせない。
1回の水上人形劇の公演は複数の演目からなり、1つの演目に使用される人形は5~10体。1公演で使用される人形の数は農業の演題なら20体、歴史上の伝説なら140体に上る。人形の価格は形状や大きさによって1体当たり80万~130万VND(約4150~6700円)で、1体の耐久期間は200公演。
人形制作の仕事だけでは家族が食べていくのにやっとで、オアインさんは仏像の彫刻や古寺の修復なども請け負っている。それでも「水上人形劇は歴史上の出来事や民族の伝統文化を観客に分かりやすく再現しています。水上人形劇を愛し鑑賞したいという人がいる限り、私は人形制作を続けます」と水上人形劇への熱意が冷めることはない。
そして人形制作を学びたいという人がいれば、この先も伝統を受け継いでもらうためにも喜んで伝授したいとオアインさんはいう。
[An Huy, Thanh Nien, 09:41 AM 28/12/2016, T]
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