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[特集]

「サイゴンの錦鯉キング」、日本のKOIに魅せられた元海兵隊員

2016/05/29 05:33 JST更新

(C) Bao Dau Tu, Gia Huy, ズンさん
(C) Bao Dau Tu, Gia Huy, ズンさん
 ハイタイン・コイ・ファーム(Hai Thanh Koi Farm)の会長兼社長のレ・フウ・ズンさんは、ホーチミン市の人々から「錦鯉の王」と呼ばれている。かつては領海や離島を守る海兵隊員だったが、1982年に除隊。現在はがんと闘いながら、次の夢を描いている。  ズンさんは北中部地方タインホア省出身だが、1982年の除隊時にホーチミン市で起業することを決めた。彼が故郷で起業しなかった理由は2つある。1つは、当時のタインホア省があまりにも貧しい地域だったから。もう1つは、海兵隊員だった時から海水魚の養殖で生計を立てたいと考えていたからだ。  ホーチミン市では生きるために様々な職に就いて絶えず動き回り、1989年にようやく最初のディスカス(観賞用熱帯魚の淡水魚)の養殖池が完成。夢が現実のものとして動き始めた。1993年には海水魚の養殖に切り替えて、ホーチミン市9区スオイティエン公園や11区ダムセン公園、南中部沿岸地方カインホア省ニャチャン市に水族館やウォーターパークを建設した。  錦鯉との出会いは2005年のことだ。その年、彼は子供と一緒に日本で開催された国際観賞魚展示会を訪れた。そこで、1匹数万~数十万USD(1万USD=約110万円)もの価値がついた美しい錦鯉に目を奪われた。人工的な条件下でうまく育てることができれば、錦鯉は体長1m以上、体重30kg以上になり、1匹あたりの価値は30万USD(約3300万円)にも上る。  「私たち親子はその展示会に何日も通い、錦鯉をベトナムに連れて帰る夢を抱き始めました」とズンさんは回想した。  ベトナムに帰国してすぐに彼はこのビジネスに取り掛かった。まず始めに、錦鯉の養殖地をホーチミン市に建設した。当時はまだ、ベトナムで錦鯉を養殖する人はいなかった。2006年、彼は親魚となる最初の錦鯉25匹を4万5000USD(約495万円)で輸入した。

 しかし喜びも束の間、親魚から生まれた100万匹の稚魚は全滅。一部の親魚も数日後に原因不明で死んでしまった。更に、第2陣の錦鯉を輸入したが、再び全て死んでしまったのだ。  努力すればするほど事態は困窮し、心配するあまり、とうとう彼は病にかかった。「支払わなければならない利息の通知が続々と届きました。私は恐ろしくて、その数字を見ることもできませんでした」とズンさん。  そんな中、幸運にもズンさんは海兵隊や同郷の仲間、退役軍人会から支援を得ることができた。彼らはズンさんが再出発できるよう、土地購入や増資のためのお金を貸してくれた。  彼は全財産と資本金をかき集めて、ホーチミン市クチ郡の未墾地20haを購入した。銀行へ借金を返済し、錦鯉養殖の研究を続けるために、以前建設した水族館やウォーターパークも全て売り払った。  しかし、ズンさんが購入したその20haの土地には、まだ電気や水が通っておらず、道すらなかった。ズンさんと仲間たちは、仮設キャンプで寝食を共にしながら、朝から晩まで開拓を続けた。その土地には、ベトナム戦争時の不発弾も残っていた。作業を手伝っていたのは皆戦争に参加した元兵士たちだったため、ズンさんたちは自ら不発弾を処理した。不発弾処理の専門家を雇うお金もなかったのだ。  彼らは何度も不発弾に遭遇したが、幸いにも事故は起きず怪我人も出なかった。このようにして、不発弾が残っていた危険な土地は徐々に平和で繁栄した人生を表すような養殖池に変わっていった。

 ズンさんはリベンジを誓い、2009年に錦鯉のオークションに参加するため再び日本を訪れた。ズンさんは色も模様も完璧な錦鯉を落札し、ビジネス界が憧れる錦鯉のオーナーとなった。このオークションを機に、ベトナム産の錦鯉が国際的に知られるようになった。  「ベトナムは錦鯉の養殖に適していますが、投資額とリスクは高く、認知度は低いこのビジネスに手をつけようとする人はなかなかいません。一方、日本は錦鯉を国魚に選びました。なぜ、ベトナム産錦鯉の商標がないのでしょう」とズンさんは語る。  2015年、ズンさんの錦鯉はベトナムのゴールドブランドに認定された。ズンさんは現在2つの大きな養殖池を所有しており、その価値は数百億VND(約100億VND=約4930万円)に上る。そして彼は、ベトナム産錦鯉の国際的なゴールドブランドを確立すべく、努力を続けている。  「私の錦鯉はまだ輸出できていないので、収益は上がっていません。 輸出するためには、品質から免疫力まで厳しい審査を通過しないといけないのです。このプロセスを完了するために4年はかかります。私の会社は2016年末にこの審査を通過し、輸出できるようになる見込みです。このために500億VND(約2億4600万円)を投資しました」とズンさんは説明した。  彼の話を聞いていると、彼が現在病と闘っているとは誰も思わないだろう。「私はまだ逝くわけにはいきません。ベトナムの鯉を海外に輸出するという熱い思いが、1年後にようやく実現するのですから」。ズンさんは、病床に伏しながらも嬉しそうに笑顔で語った。 

[Gia Huy, Bao Dau Tu, 07/05/2016 09:32, A]
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