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[特集]

ひったくり犯の確保に奔走するホーチミンの「騎士」たち

2016/05/08 05:20 JST更新

(C) vnexpress, NVS
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 週末の朝、ホーチミン市3区の交差点そばにある喫茶店で、日焼けした5人の青年がしゃべりながら通りを眺めていた。すると、バイクのエンジンをふかす異様な音が聞こえ、青年たちは立ち上がった。  通りの向こう側で、若い女性が倒れていた。青年たちの1人は女性に駆け寄り、残りの4人は2台のバイクに飛び乗って、女性の携帯電話を奪った2人組のひったくり犯のバイクを追いかけた。  犯人の乗ったバイクは、群集の間をすり抜けて行く。青年たちは、「ひったくりだ!ひったくりだ!」と叫びながら追いかけた。人の少ないところまで追跡して、バイクで体当りし、ひったくり犯の2人を路上に投げ出した。  犯人の2人はヘルメットを取って殴りかかり、ナイフを突きつけて威嚇したが、4人の青年に取り押さえられた。見ていた多くの人たちが「刑事警察だ」とざわつく中、青年たちは2人のひったくり犯と証拠物件を近くの街区警察に引き渡した。  「ひったくり犯を捕まえる時も私服を着ているので、目撃した人が刑事警察か何かだと思うのも当然でしょうね」。グエン・ベト・シンさんは南部訛りでそう話した。笑顔の爽やかなこの5人の青年たちは、「ホーチミン市騎士団」のメンバーなのだ。  2年前に設立されたこのグループは、5人の主要メンバーと数人のサポートメンバーから構成されている。各メンバーの本業は、運転手、マーケティング、バイクタクシー、ビジネスマンなど様々だ。  「私たちに共通するのは、逮捕にかける情熱だけです。何のためにこんなことをしているのか、何の得があるのかと思う時もしょっちゅうありますが、ひったくり被害に遭って倒れている人を見ると放ってはおけないのです。その時は何も考えずに飛び出すのみです」。シンさんはそう語る。

 平日はそれぞれ本業の仕事があるので、彼らが「騎士」として実働するのは週末の2日間だけだ。ミーティングでは、新たに発見したひったくり犯の情報を通知し、追跡調査の計画を立てる。巡回するだけでなく、ホットラインやフェイスブック(Facebook)を通じて、ひったくりに関する通報を受け付けている。  しかし、この仕事で事故に遭うという心配もある。昨年、シンさんが1人で2人のHIV患者のひったくり犯を追っていたところ、犯人に注射針を打たれた上、バイクを破壊されてしまった。治療に何か月もかかり、財布も空になってしまったという。  「仕事はクビになり、お金もないのに治療のためにした借金だけはあるという状態で、更に薬の副作用による痛みにも耐えなければなりませんでした。不幸中の幸いで、その後グエン・ティ・キム・ティエン保健相が治療費の免除を申し入れてくれたのです」とシンさんは語る。  一方、ディン・クアン・ブーさんは童顔のせいで犯人に襲われることも日常茶飯事だ。テト(旧正月)の時には、2人のひったくり犯を追いかけていて、犯人に刃物で刺されて入院したという。  このような失敗や災難はしょっちゅうで、彼らは常に暴行や脅迫、尾行の脅威にさらされている。柔軟にうまく対応しないと、袋叩きにされてしまうこともある。  出費もまたメンバーたちを悩ませる大きな問題だ。ボランティアの活動なので、負傷したりバイクを壊されたりしても全て自己負担だ。犯人を追跡するために、彼らのバイクは常に犯人のそれと張り合えるくらい最良の状態にしておかなければならない。  バイクのメンテナンスには毎回200万~1000万VND(約9660~4万8300円)の費用がかかる。バイクタクシーの運転手からグループのメンバーになったチャン・バン・ホアンさんの場合、月収は600万VND(約2万9000円)に満たない。家族の生活も苦しい中、この仕事を続けているのだ。

 メンバーになる上で、多くの場合、身内が危険にさらされるのを望まない家族の反対が障害となる。「自分がこの仕事をしていることはいいとして、もし自分の身に何か起こっても、家族以外に誰も自分の面倒を見ることができないので、家族は反対しています。それでも人々やもしかすると自分の親類が被害に遭っているのを見ると、手をこまねいてはいられないのです」。チュオン・クアン・ビンさんはそう語る。  メンバーの1人は、引ったくり犯の追跡を正式に任命してもらえるように犯罪防止チームを設立したいのだという。「報酬や補助をもらいたいわけではなく、メンバーが事故に遭った時の治療費や、車の修理費の補助を受けられるようにしたいのです。それ以上のことは望んでいません」。  一般人がひったくりを見つけて手を出すこともあるため、グループのメンバーたちは法に触れないよう慎重に追跡しなければならない。もし何も道具がない時にひったくりに遭遇し、犯人が攻撃してきたら、かわすか警察を呼ぶしかない。  「ひったくり犯を捕まえる時には、必ず証拠物件を押さえなければなりません。証拠がなければ被害者は訴えることができないので、自分が捕まえたことも無意味になり、犯人もすぐに釈放されてしまいます。自分自身が犯人から訴えられてしまうことだってあります」。ビンさんはそう語る。  ホーチミン市では、シンさんらの他にも地域ごとに多くのグループが犯罪防止のためにボランティアで活動している。しかし、グループ同士で助け合うことは少ない。  ホーチミン市警察も彼らの功績を認めており、東南部地方ビンズオン省で活動している犯罪防止グループをモデルケースとして、同市でも同様のグループを立ち上げるべく模索しているところだ。 

[Duy Tran-Huu Cong, VNExpress, 4/4/2016 | 00:00 GMT+7, A]
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