[特集]
ベトナムギネスに認定された巨大灯籠の名工を訪ねて
2014/08/31 06:02 JST更新
(C) laodong |
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ベトナムの「子供の日」でもある旧暦8月15日の中秋節が近付くと、ハノイ市タインオアイ郡カオビエン村ダンビエン村落では毎年、1人の伝統工芸家が一心不乱に灯籠を制作している。彼の名は、ブー・バン・シンさん。
彼の作品の中で最も際立っているのは、通常のサイズの数十倍にもなる巨大回転灯籠。シンさんは、2006年にベトナムギネスに認定された巨大灯籠を制作した工芸家としてよく知られている。回転灯籠は、内部にセットしたロウソクの炎で空気を暖め、これによって生じた上昇気流を利用して装飾の軸を回転させて、外部に影絵を映し出すという中秋節に欠かせない子供のおもちゃだ。
半生を過ぎた今、シンさんは自分がいくつの頃から灯籠を制作し始めたのか、もはや思い出せないという。ただ1つ覚えているのは、とある8月、真ん丸に輝いた満月の下で手にした自作の灯籠の明かりが揺らめいている光景だけだ。
2006年の中秋節、シンさんと同村落に住む工芸家たちは、高さ6.5m、幅2.56mの巨大灯籠を制作した。この巨大灯籠は市内にある児童文化宮殿に展示され、ベトナム最大の灯籠としてベトナムギネスに認定された。それ以来、中秋節の灯籠を制作する数少ない伝統工芸家と言えば、誰もがシンさんを思い浮かべるようになった。
シンさんは灯籠という伝統工芸を心から愛し、より美しい作品、より便利な作品を制作するためには努力を惜しまない。灯籠は、火を点したロウソクを正しい位置にセットして初めて軸が回転し、美しい影絵が映し出される。しかし子供がロウソクを上手にセットするのはなかなか難しいため、シンさんはロウソクの代わりに乾電池で軸が回転する灯籠を生み出した。これにより、小さな子供でも灯籠の美しさを手軽に楽しめるようになった。
子供だけでなく、観光客向けの灯籠もある。シンさんは中秋節の時期になると毎年、観光客にも好まれるような、大小様々の灯籠を数百個も制作する。中には1000万VND(約4万9000円)近い価格の巨大灯籠を注文する人もいるという。今年もシンさんは高さ2.1m、幅1.4mの巨大灯籠制作に取り掛かった。価格は800万VND(約3万9000円)だが、買い手はまだ見つかっていない。2014年の中秋節は9月8日。数日後に迫った中秋節に向けて、このほかにもオリジナリティー溢れる美しい灯籠が次々と制作されている。
灯籠の名工の野心はとどまるところを知らない。シンさんは、ベトナムギネスに認定された巨大灯籠と同じサイズのものをもう一度制作する計画を立てている。更に今度は、ベトナムの各時代の歴史に関わる様々なテーマの影絵を映し出すという、美しいだけでなく創造的で有意義な巨大灯籠にするつもりなのだという。
シンさんの妻、グエン・ティ・ハインさんは、「夫は長い間、愛着を持って灯籠を制作してきました。でも実際のところ灯籠制作は、売れた分の収入と材料を仕入れるコストや手間を考えると、利益はあまりないんです。」と語る。残念なことに、カオビエン村だけでなく全国でも各伝統工芸が姿を消しつつあるのが現状だ。
中秋節の時期、シンさん一家は自宅で灯籠を販売する。通常の灯籠1個当たりの価格は10~15万VND(約500~750円)で、1個5000VND(約25円)の子供向け灯籠もある。例年は約500~700個の注文があるが、今年はまだまだ少ないという。買い手は年々減りつつあるものの、シンさん夫婦はこの伝統工芸を今後も可能な限り継承していくつもりだ。「もしもこの伝統工芸の継承者になりたい人がいれば、酒でも奢るよ!」とシンさんは笑った。
[Thao Nguyen, 01:15 (GMT+7) 20/08/2014, A]
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