[特集]
心温まるサイゴンの人情食堂
2014/03/02 08:50 JST更新
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サイゴンには、年中空き瓶拾いやくず鉄拾いをしながら生計を立てている老人が大勢いる。真っ黒に日焼けした彼らは、実は助け合いの精神に溢れている。今日はそんな彼らが集まる、とある菜食食堂を紹介しようと思う。
年の瀬も迫った12月のある日、我々は11区グエンチータイン通りにある「ティエン・フオック」という菜食食堂に立ち寄った。ここは貧しい労働者たちに1食5000ドン(約24円)で料理を提供している。
向かいのカフェで取材に応じてくれたのは、店主のチャン・フオック・ホアさん(38歳)。彼は客が帰った後や客足の伸びない日にはここに座って、休んでいるのだという。彼はため息混じりに語った。「お婆さんが最近顔を見せてくれないのです」
そのお婆さんというのは、空き瓶売りをしている82歳の老婆のことで、よくこの店に食事をしに来ていたという。街中を歩き回って、空き瓶を集める老婆のことを不憫に思った彼は、ある日、「今日は代金は要らないよ」と申し出た。すると、老婆は彼の手に5000ドンをねじ込んで、「私はまだ元気だから、その日の生活費を稼ぐことができる。もっと貧しい人に恵んでおやり」と言った。
彼もお金を頑として受け取ろうとしなかったので、それ以来、老婆は顔を見せなくなったのだ。「お婆さんの身になって考えるべきでした。施しなんて望んでいなかったのに・・・今も心が痛んでいます」ホアさんは悲しそうに語った。
話している間にも、米袋を担いだ浅黒い肌の小柄な男性が、子どもの手を引きながら店に入っていった。片手には宝くじの束が握られている。男性はホアさんを見つけると、笑顔で駆け寄ってきた。「そんな米袋もって景気がいいね。今朝はたくさん売れたのかい?」ホアさんがそう聞くと、「いやあ、5万ドン(約244円)だけだよ。この米はお店で使ってもらおうと思ってね。正月も近いことだし、何かと入用だろ?」男性はそう切り返す。
ホアさんによると、その男性は店の馴染みの客だという。彼は毎日、小児麻痺の子どもを連れて宝くじを売り歩く。大勢の人が親子を哀れんでお金を渡そうとしたが、彼は丁重に断っているという。「子どもを養っていくぐらいには稼いでいるし、何もせず人のお金をもらうなんてことはできないよ」彼は笑顔でそう言った。
この店に来る人は誰もが貧しいが、決して施しを受けようとはしない。88歳になる常連客のバナナ売りの老婆も毎回きっちり5000ドンを支払い、値切るようなことはしない。時々店に来る行商人の女性は、店に野菜や水を分けてくれるという。
こうした光景を見ていると、なぜこの店にこういった面々が集まるのかという疑問が湧いてくる。5000ドンという価格設定のため?いや、それだけではない。この店では毎日300食を提供するために、朝早くから6人のボランティアと2人の調理人が働いている。店主自身も自ら食材を調達するため、毎朝市場に出かけるという。仕事はきついが不満を漏らす者はいない。
2013年9月に開店したばかりだというのに、既に貧しい労働者たちにとってなくてはならない存在となっている。この店は11区ローシエウ廃材収集場から近く、廃材拾いを生業にする人々が集まる場所にあるため、用意する300食は正午には全てなくなってしまう。店内はきれいに掃除され、料理は安くて味も美味いと評判だ。
ホアさんは言う。「私も裕福なわけではありませんが、貧しい労働者の生活の助けになれたらと思うのです。最初は上手くいかないこともありましたが、店を続けていくうちに、友人や親戚が支援してくれるようになりました。幸運にも今はボランティアにも来てもらえているので、ずいぶん助かります。もうすぐエアコンもつける予定です」
[Zing 09:06 22/01/2014U]
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