[特集]
中国人に売られた娘を取り戻せ、父親の驚きの選択と意外な結末
2014/02/16 08:30 JST更新
(C)Dan Tri, 中国に住むフエンさん(後方左)とその家族 |
騙されて中国に売り飛ばされてしまった娘を4年も捜し続けた父親がいる。紅河デルタ地方ビンフック省に住むホー・スアン・ニャムさんがようやく探し当てた娘を取り戻すためにとった方法は、思いもよらないものだった。彼は周囲の反対を押し切ってその計画を実行し、一家は大きな苦難を乗り越えて、「水牛のみならず子牛まで」得ることができたのである。
ニャムさんの娘が中国へ渡ったまま消息を絶つと、村人たちは「あの家族は娘を中国に売り飛ばした」と噂したという。「本当に辛かった。妻は泣き続けて枯れ木のようになってしまうし、娘の心配と心無い噂で、毎日が地獄のようでした」とニャムさんは振り返る。
ニャムさんの3番目の娘ホー・ティ・ハンさんは、2006年に実の叔母に騙されて中国に売り飛ばされてしまった。叔母のフオンは以前売春の斡旋をするつもりで中国へ渡った時、中国でベトナム人花嫁の需要が多いことを知り、姪を騙して中国人に買い取らせることを思いついたのだという。
フオンは、「中国へバナナ収穫の出稼ぎに行かないか」とハンさんを誘って中国へ行き、中国人のトーという男に姪を引き合わせた。男はハンさんを気に入り、4000元(約6万7000円)で売買が成立すると、フオンは何も話さず姪を男の家に置き去りにしたのである。
一方、ニャムさん一家は、娘が中国に出稼ぎに行ったまま音信不通となり、フオンとも全く連絡がとれなくなったことから、娘が騙されて中国人に売られてしまったのだと悟った。「その年の正月は葬式のようでした」とニャムさん。娘の生き死にさえわからず、泣き暮らしていた一家に対し、「娘を売春婦にした家族」と周囲の目は冷たかった。
だが、泣いてばかりは居られないと、ニャムさんは娘を取り戻すために行動を開始する。「交通費を工面するため、売れる物は全て売り払いました。毎月のように国境の町ラオカイから中国に入り、金がなくなるまで探し回り、戻っては金を工面してまた探しにいきました」
今度こそ会えるのではという期待は、幾度となく打ち砕かれた。中国の河口(ラオカイと国境を接する町)の宿はすべて回った。観光客を装いながら売春宿を訪ねては、「ビンフック省出身の娘はいないか」と尋ねる。店主に「もっとかわいい娘がいる」と他の娘を薦められると、ニャムさんは「ビンフックの子は気立てがいい」と言ってごまかした。だが、どの店にも娘の姿はなかった。金のないニャムさんは駅や森の中で野宿し、少しばかりのパンと水で何日もねばった。
そんな生活が4年にも及んだある日、ニャムさん宅に1本の電話が入る。娘のハンさんからだった。その日、ハンさんは中国人夫とバナナの収穫に出かけた時、偶然ベトナム人女性に出会い、夫の眼をごまかしてその女性に頼んで家族に連絡してもらったのだ。この電話のお陰で、ニャムさん家族はようやく娘の居場所を知ることができた。
ハンさんは、彼女を買い取った男の妻となり、2人の息子をもうけていた。娘の元を訪ねたニャムさんは、不本意な結婚ではあったものの可愛らしい孫ができ、嬉しさ半分、娘への哀れみ半分の複雑な気持ちだったという。そして、彼女の苦しい生活を目の当たりにして、娘と孫たちをベトナムに連れ戻す決心を固める。ハンさんの幸せのため、そして中国で娘を売春させている一家の汚名を晴らすためだった。また、フオンを告発することも考えていた。フオンのことはどうしても許せなかったのだ。
だが、もし中国人の夫にこのことを勘付かれたら、娘たちはどこかに連れ去られてしまうかもしれない。そこでニャムさんは男の信頼を得るため、驚くべき行動に出た。中国人夫の弟に末娘を嫁がせたい、と申し出たのだ。
その後、ベトナムに戻ったニャムさんは、家族に事情を話し、中国人夫の信頼を得なければハンさんを取り戻せない、そのためには末娘のフエンさんを嫁がせるしか方法はない、と説明した。フエンさんは最初は大きなショックを受けたが、姉を取り戻す最後の手段はこれしかないと納得した。親戚の多くは「下手すると娘2人を失うことになるぞ」と止めたが、ニャムさんの決心は固かった。とにかく中国人夫の信頼を得て娘を里帰りさせ、その間に娘を陥れたフオンを告発して裁判に勝ち、娘を2人とも連れ戻す、というのが彼の計画だった。
末娘が中国に嫁いだ後、ニャムさんがハンさんと2人の子供の里帰りを提案すると、案の定、中国人の夫は快く同意した。ハンさんたちが帰郷するとすぐ、ニャムさんはハンさんを連れて警察署に行き、フオンを告発した。そして、2011年3月、フオンに対する裁判が行われ、懲役6年の判決が言い渡されたのである。
ハンさんを取り戻すという目的を果したニャンさん一家だったが、話はここで終わらなかった。なんと、娘を買い取った中国人夫が妻と2人の子どもを恋しがり、ベトナムに移住してきたのだ。かつては憎んでいた男だったが、かわいい孫の父親はこの男しかいない。ニャンさんや親戚たちは協力してニャムさん宅の向かいにハンさん家族の家を建ててやった。
中国人夫のトーさんに中国が恋しくないのか尋ねると、照れくさそうにこう答えた。「両親は既に亡くなっているし、中国に恋しく想う人はもう居ないんです。ベトナムに住んで家族みんなが幸せになれました。ここの暮らしに満足しています」。
ところで、中国に嫁いだ末娘のフエンさんはどうなったのか。「これについては想定外の結果になりました。フエンは中国人の夫と幸せに暮らしており、ベトナムに戻る気はないというんです」。ニャムさんの口ぶりからは、末娘の幸せそうな様子が見て取れた。娘を売り飛ばされるという苦しい経験をしたものの、ニャムさんの決断が家族を幸せに導いたのだ。
[Dan Tri, 2013/10/14 13:10 S]
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