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[特集]

同性愛者をカミングアウトした「ファースト・ホットボーイ」の現在

2013/04/07 08:06 JST更新

(C)  vietnamnet 恋人とのツーショット、右側がフン氏
(C) vietnamnet 恋人とのツーショット、右側がフン氏
(C)  vietnamnet 現在のフン氏
(C) vietnamnet 現在のフン氏
 同性愛者の間で「プリンス」と敬われ、世間からは「ホットボーイ」と呼ばれた人物がいる。恋多き男性として数々の浮き名を流してきた彼は、今では年老いて川のほとりで一人孤独に余生を過ごしている。  ブー・チョン・フン氏(1940年生まれ)は現在、ハノイ市で同性愛者を公言する最年長の人物として知られている。今でも、同性愛者の世界で「ホットボーイ」と言えば、彼のことをさす場合が多い。  彼が「ホットボーイ」に至るまでには様々な紆余曲折があった。そもそも彼は先天性の性同一障害者ではない。若い頃は女性に夢中になった時期もあり、女性と結婚して子供にも恵まれた。しかし、いくつかの不幸な出来事が重なり彼は女性を遠ざけるようになる。数々の裏切りに遭って、いつしか女性を憎むようになり、40歳近くなった頃、彼は自ら同性愛者になることを選んだ。  同性愛の世界に足を踏み入れて以来、エレガントな容姿と都会的な雰囲気、そして際立った歌の才能で、一気に「ホットボーイ」として名を馳せるようになった。「当時、既に40を過ぎていましたが、ハンサムで生気にあふれていたので、パーティーではいつも主役でした。私が恋愛の歌を歌えば、たちまち積極的な若者達が次々と声をかけてきて、連絡先を渡してくるのです。その中から恋仲に発展した人も数え切れません」彼は誇らしげに語った。

 最初に同棲を始めた男性の恋人はハイフォン出身の若者だった。二人が知り合ったのは、その若者がハノイに上京したばかりの頃だった。フン氏は5年間その若者を養い続け、彼が大学を卒業してからは仕事の世話もしてやった。付き合っている頃、フン氏は何度も若者の田舎を訪ね、家族とも親しくした。家族も近所の人も、二人の本当の関係については知らないままだったが。  その若者も後には妻を得、家庭を築いた。それ以降、若者のことをまだ慕ってはいたが、決して会いに行くことはせず、関係も終わりにした。長い時が経ち、彼は最近かつての恋人が妻子を捨て、麻薬中毒になっていたことを知った。その知らせを聞いたフン氏は自分の責任ではないか、と心を痛めたという。   最初の恋人と別れてからも、彼は他の男性とのロマンスを謳歌した。「バ―ビー地区に駐屯していた軍人と関係を持ったこともあります。状況が状況なので1年程で終わってしまいましたが、今でも彼とは時々連絡を取り合っています」そう言ってフン氏はその場で元恋人に電話をかけて証明してくれた。  最近、フン氏と恋人の写真が、ある女性写真家の同性愛者をテーマにした展覧会に展示された。「一緒に写っているのは一番最近のパートナーです。今は田舎に戻り結婚しています。もう私から連絡することはありません」  生活を共にし関係を持っていたとしても、彼らは互いを夫・妻と呼び合うのではなく、父・子で呼び合っていた。お金を騙し取られたのではないかと尋ねると、フン氏はこう答えた。「私は以前、建築関係の仕事に携わっていたので、恋人を養っていくだけの蓄えがありました。お金目当てで近寄ってくる者がいることも事実ですが、私は彼らを責めることはしません」

 数十年を同性愛者として生きてきた彼は、今一人孤独に老いと向き合っている。かつては財力もありハノイの中心部に住んでいたが、今ではニュエ川のほとりにある借家に暮らしている。僅か10平米ほどの湿った簡素な家で、中には金目の物は何もなく、ぼろぼろの羽目板のベッドがあるのみ。アルミ製の流しにはいくつかの鉢や箸が置かれている。壁に掛けられたたくさんの洋服がかつての栄華を寂しげに物語っている。  取材した時はきちんとしたベストでめかしこんでいたが、おぼつかない足取りや瞳に宿る孤独が「落ちぶれた紳士」の風体を醸し出している。彼曰く以前住んでいた家について親戚ともめているため、この寂しい場所に家を借りて住んでいるのだという。  コップの水を眺めながら、彼は遠い過去を見ているような目をしていた。「同性愛者になってからというもの、たくさんの人を愛してきた。しかし、殆どの者が出会って数年もすると、それぞれ自分の家庭を築くため、私のもとを去っていきました。別れた後はお互いにその後の生活に影響が出ないよう連絡をとることも殆どありません」  「婚姻届を出して法的に関係を認められたいと思うこともありました。世間では同性愛者に対する偏見が根強く残っているので、打ち明けるのは勇気が必要なことです。同性愛者の結婚が認められていないこの国で、私は共に歩む伴侶も持たず、一人で老いて行くしかないのです」 

[Vietnam net 3/15/2013 U]
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