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「我々の世代の幼少期は、今ほど遊び道具がありませんでした。当時の私は、西遊記のキャラクターのデザインのはんこを作り、学校に持って行って紙にはんこを押して友達にあげていました。はんこを押した紙1枚と白い紙5枚を交換していたんですが、子供のころからビジネスがわかっていたんだ、なんて笑い話にしているんです」とトアンさんは笑う。
トアンさんの店には、今でも毎日たくさんの客がはんこを注文しに来たり、ただ単にトアンさんの話を聞きに来たりする。トアンさんは、職人として最も幸せなことは、お客さんがリピートして来てくれることだと話す。中には地球の裏側から、何年も経って再訪してくれる客もいるという。
「今から20年以上前、オランダから来たという家族4人がお店にやってきて、家族の似顔絵のはんこを作ってほしいと注文しました。しばらく様子をうかがってから、妊婦の女性にどうして4人分だけなのか、お腹の子の顔は彫らないのかとたずねたんです。そうしたらその女性と旦那さんは、子供が生まれたらまた来ます、と笑いながら言ってくれました。私はこの約束を今でも忘れていません」。
「それから、はんこを買ってくれた日本人のお客さんがしばらくしてまた店に来てくれて、うちの店が日本語で紹介してある本や地図を贈ってくれたこともあるんですよ」とトアンさんは嬉しそうに語った。