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ハノイ市ホアンキエム区在住のファム・ゴック・トアンさん(男性・68歳)は、手彫りのはんこ作りの家業を今も守り続けている、この道40年の職人だ。
にぎやかなハノイ市旧市街のハンクアット(Hang Quat)通りにある店の軒先に座り、トアンさんははんこを彫る作業に没頭している。店の前を通りかかる多くの観光客、特に外国人観光客は、トアンさんが座ってはんこを彫っている様子を見て立ち止まると、すっかり魅了されてしまう。
トアンさんは、70年近く旧市街で暮らしている。旧市街は通りによって様々な手工芸が受け継がれている36本の通りが有名で、「36通り」とも呼ばれている。トアンさんが暮らすハンクアット通りは彫刻で知られ、手彫りの木製のはんこ作りもその1つだ。
トアンさんは、はんこ職人になる前はハノイ市タイホー区トゥーリエン街区で数学教師をしていたが、教師の仕事では十分に食べていけず、1993年に家業のはんこ作りを継ぐことに決めた。「家業なので、小さいころからこの仕事には愛着がありました。学校に行っている間以外は、鑿や小刀を手にして、木を彫る練習をしていました」とトアンさん。
トアンさんによると、最も難しい工程はやはり彫る作業だという。職人は小刀や鑿、やすりを使い分けながら、細心の注意を払って単なる木片にモチーフを彫り、命を吹き込んでいく。「手彫りのはんこは大量生産のものより手間がかかります。シンプルなデザインなら10~20分で完成しますが、凝ったデザインだと1週間かかります」とトアンさんは語る。