(C)Lao Dong, 「危険な村」の家並 |
20年以上水上で暮らすホアン・アイン・トゥアンさんによると、1997年の台風以前、この水上集落では10世帯ほどの貧しい人たちが住んでいるだけだったという。だが、台風ですべてを失った人たちが土地を売って川の上に家を建てて生活するようになり、今では360世帯まで膨らんだ。いつ川に落ちて流されてもおかしくない生活をしているこの水上集落を、岸の人たちは「危険な村」と呼んでいる。
第7水上集落には現在およそ50世帯が暮らしており、魚や海老を売る店、雑貨屋やガソリンスタンドのほか、家電を売る店、食堂、更には飲み屋やカラオケ店もある。50歳のチーさんという食堂の女主人は、自分の境遇をこう話してくれた。「故郷はドンタップ省のカンボジア国境近くで、家が貧しくて、生きるすべを探してここに流れ着いたの。ここでもやっぱり貧しいけれど、食べるのに困るようなことはないわ」。チーさんによると、今の家を建てるのにおよそ1億ドン(約49万円)かかったというが、陸地であればとても家など持つことはできない。
この村落で爪の手入れを生業にしているホンさんは、台風で夫を失い、一人でここにやってきた。彼女と話している周りで、学校に通ったことのない子供たちが、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら踏み板の上を行き来する。ハラハラしながら見ていると、チーさんが笑ってこう言った。「子どもが川に落ちるなんてしょっちゅう。落ちたら誰かが引き上げてやるから心配ないわよ」。
しかし、この2年ほどは、新しい家が建つことはなくなってきた。建てる場所がないというだけでなく、水かさが増して建てるのが困難になったからだ。その一方で、水面の値段は上昇傾向にあるという。地方行政はこの状況を食い止めるべく、新しい集落の形成を禁止している。チャンバントイ県では、今後5年以内に水上生活世帯を陸上に移住させる予定で、彼らのために再定住地を用意している。