AIAベトナム(AIGライフ・ベトナムに改称)のテレンス・アンダーソン社長は、いかにも成功したビジネスマンという雰囲気はなく、とても気さくで何事にも前向きな印象だ。40歳過ぎでカナダ出身の彼は、いつも話し相手を楽しませようとしているようだ。
彼が好んで食べるのは、有名なフォーでも春巻きでもなく、庶民の飯「コムビンザン」だ。昼休みになると周辺の会社で働く人たちに混じって列に並んで注文し昼食を食べる彼を、誰も外資系会社の社長とは思わないにちがいない。「手軽に済ませたいから」というのではなく、彼は本当に庶民のごく普通の素朴な料理が好きなのだという。
庶民的なもの、素朴なものはテレンスの心を魅了してやまないようだ。ハノイを訪れたときは、どんなに忙しくても、親しい友人たちと町の酒場でビアホイ(生ビール)を楽しむ。彼にとって、ハノイで新旧の建物が入り交じる光景を見ながら飲むビアホイは、なによりの楽しみなのだ。
テレンスは16年間アジア各国で仕事をしてきた。各国で生活するなかで、たくさんの笑い話や冗談を覚えた。「笑い話をみんなに話して聞かせて、反応をみるのがとても好きなんだ。楽しい話をすると、お互いがより理解し合えるようになるから」。彼が貴重な時間を割いて、外国人には難しいベトナム語を学習したのもそのためだ。
ベトナム語には6つの声調があるうえ、北部・中部・南部のそれぞれに方言がある。北部のベトナム語を習得しても、南部のベトナム語はすぐには理解できない。テレンスは「最初ハノイでベトナム語を学んだから、サイゴンへ来た時、全く違う言語を話しているのかと思った」という。それでも彼は周囲の人たちとコミュニケーションを取りたいと、南部方言も習得しようと努力した。
どんなに仕事に打ち込もうとも、彼は家庭を大切にする。彼にはこれと言った趣味はなく、子どもと遊ぶのが一番の楽しみで、まだ小さい2人の娘たちが彼の最も大切な宝物だ。子どもを愛する彼にとって、この国の恵まれない境遇の子どもたちは心を痛める問題だという。
自分の娘たちと同様、すべての子どもたちも皆幸福になってほしいという願いから、AIGは2006年11月に「イースト・ミート・ウエスト」というNGOを通じて、心臓病の子どもたちの手術費用を寄付した。彼は、健康に恵まれない子どもたちのために、たとえ小さなことでもよいから続けたいと考えている。