長い間海外に暮らし、久しぶりに故郷へ帰った時の喜びというのは言葉で言い表せないもので、何でもないようなことにさえ感動を覚える。
幼い頃に渡米したジャクリーヌ・レ・チンにとって、初めベトナムは遠い国だったという。最初にベトナムを訪れる飛行機の中でも彼女は「きっとつまらない所なのだろう。」と思いこんでいたという。空港に降り立つと、彼女は人々を興味深く観察した。「ここの人たちはなんて親しげで感情豊かなのだろう。」というのが彼女の最初の印象だった。その後戦争博物館で歴史について学んだり、街並みを散策したりするうちに、いつのまにか故郷に対して愛着を感じるようになる。アメリカへ戻って後、彼女はいつの日か故郷で会社を興そうと志す。現在彼女はホーチミン市で広告・イベント会社を経営していて、天災救済チャリティーイベントなどを開催している。
歌手のエルビス・フーンとレ・ホア夫妻もまた、1996年に初めてベトナムを訪れたのをきっかけに故郷で暮らしたいと思うようになり、アメリカでの仕事や家を整理して2001年にベトナムへ移住した。夫のエルビス・フーンは、どんなに便利で快適な生活も、故郷で暮らすことにはかなわないと言う。今夫婦はホーチミンに暮らし、夜な夜なベトナムのステージで彼らの愛する歌を披露する生活を送っている。
科学の教授グエン・チャイン・ケー氏もまた長い年月を日本とアメリカで過ごした後、故郷へ帰ることを決めた。理由は、変革の時期を迎えているベトナムに世界レベルの研究や技術を持ち帰るためだという。彼は帰国後ホーチミン市ハイテク特区研究発展センター所長に就任した。
ホーチミン市在外ベトナム人会の会長グエン・チョン・チュン氏によると、帰郷する越僑の数は以前と比べて増えているという。彼らのほとんどは生活の質が落ちるのを承知の上で帰郷し、故郷に貢献しようとする。自国に対する思いと自国の将来に対する期待の現われだろう。
越僑の彼らが海外で長く暮らした後ベトナムに戻ると、まずは故郷の生活スタイルを取り戻すことから始めなけらばならない。「昔の服をひっぱり出し、自然なベトナム語になるよう努力し、バイクの練習もしないといけなかったわ。」とレ・チンは振り返る。また、いたって普通のことが、彼らにとっては新鮮だったりもする。グエン・チャイン・ケー教授はベトナムに帰って以後、暇を見つけては田舎を訪ね歩いているという。また、公演を見に行ったり、市場に行って自ら料理をしたりとベトナムの生活を満喫しているようだ。