イスラエル第3の都市ハイファでイスラエル人の夫と暮らす38歳のソンさんは、ベトナムを離れて18年になる。仕事で滞在していた香港で夫のアヴィさんと出会い、結婚後イスラエルで生活を始めた。アヴィさんはソンさんをからかって、「外見はベトナム人だけど中身は100%イスラエルの女性だよ」と笑う。実際ソンさんは、イスラエル料理を食べ、ヘブライ語を話し、養老院での仕事もこなすなど、完全にイスラエル社会に溶け込んでいる。
しかしソンさんの自宅を訪れると、彼女が故郷を全く忘れていないことが分かる。暖かみの感じられる小さなアパートの部屋には数々のベトナムの装飾品が飾られ、ベトナムから来た記者をもてなすために用意してくれたチャー・カーやフォーなどのベトナム料理の数々は、ベトナムで食べるものと同じ味だ。「ハイファでベトナム人と出会うことはほとんどありません。来たばかりの頃など、ベトナム語を話す相手がいないので母国語を忘れてしまうんじゃないかと思ったほどです」とソンさんは打ち明けた。
この日ソンさん宅を訪れた友人のズンさんは、5年前から同じくハイファでイスラエル人の夫と暮らしている。彼女は自宅の庭に、ベトナム料理には欠かせないレモングラスや唐辛子を植えていると言う。彼女たちにとっては、こうした香草類も、異国の地で故郷のベトナムを思い出させてくれる大切なものなのだ。
テルアビブで暮らすハノイ出身のゴックさんは、仕事でベトナムへ来ていたイスラエル人の夫と出会って3年後、現在は5歳と7歳になる子供2人と4人でイスラエルへ移住した。ゴックさんは仕事で一日中家を空けるため、子供たちとベトナム語で話す機会がほとんど持てない。「イスラエルにはベトナム人があまりいないので、子供たちにベトナム語を教える人を見つけるのはとても難しいんです。」とゴックさんは言う。
ゴックさん夫婦の夢は、イスラエルとベトナムとの橋渡しができるような仕事をすることだ。「ベトナムでのビジネスに高い関心を示しているイスラエル企業もあります。まずは、イスラエルとベトナム双方の企業が互いに情報を得ることができる場所を、英語とベトナム語で提供したいと考えています」とゴックさんは語った。
ベトナム人がまだまだ少ないイスラエルで家族と暮らす彼女たちは、イスラエル社会にしっかりと根を下ろしながらも、ベトナムとの接点を常に追い求めている。