越僑シリーズ:オーストリアで生きる2より続く
---故郷へ---
同レストランは開店から2年が経ったがお客はベトナム人よりヨーロッパ人の方が多く昼はビュッフェ形式で様々なベトナム料理を提供している。またレストランの地下にはカラオケを備えた部屋が1室あり、大人数で予約した場合サービスで利用できるようになっている。
ウイーン市内に住むベトナム人はここを誕生日パーティー会場にしたり会合で使うほか、週末には定番のDanube川岸でのバーベキューはしなくてもここに集まり小さな故郷を楽しんでいるという。
祖国を遠く離れたこの地に住むベトナム人の姿も様々である、1人1人それぞれの困難がありまた夢がある、Binhさんもそのひとりだ。ウィーン市内で日本食レストランを経営しているBinhさんは40歳にもうすぐ手が届く歳であるが現在2つ目の大学で会計を学んでいる。さらにDungさんはPhilipsの携帯電話部門で働いており、Ducさんも窓ガラス、日用品工場で組み立ての仕事についている。
Good Morning Vietnamレストランの店主Giangさんも様々な人生をたどり現在同レストランを売りに出している。計画では今年末には祖国ベトナムに戻る予定だという。GiangさんとHanhさんは最後にこのように話してくれた、"ここに来た当時は苦難の連続で、その後それも乗り越えレストランも軌道に乗って順調です。だが長年祖国から離れた異国で生きてきた私たちにとってやはり祖国は祖国、帰りたいんですよ。帰ってレストランを続けながら両親や知人と暮らしたいんです。
遠く祖国を離れた異国の地で這いつくばって現在の安定した生活を築いてきたGiangさん夫妻は小さいながらも祖国を感じる小さなレストランを営み同じく遠い海外の地で暮らしているベトナム人同胞がいつも感じている祖国から離れた寂しさを忘れさせてきてくれた。そんな小さな故郷とも言えるベトナムレストランを今売り払い祖国へ戻ってしまう。故郷を想いレストランに来てくれるお客はたくさんいたが、お客よりも本当は主人のGiangさんが一番故郷を想っていたのだろう。
彼らがベトナムに戻ってもウィーン唯一のベトナムレストランは別のオーナーのもと、入口に描かれた一柱寺が、民族楽器のT’rungが、ランプを包んだ菅笠シェードが、さらには壁に掛けられたハロン湾やフエ王宮の写真が笑顔で迎え、ウィーンにおけるベトナム人の憩いの場となり続けることを願わずにはいられない。<終>