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[コラム]

【第4回】値切る秘訣…シャイな国民性を克服し交渉力を鍛える

2018/05/03 09:15 JST更新

ベトナムをロジカル(ちょっと辛口)に分析し、ポジティブに解説する[ロジ・ポジ]。
今回は、観光客向け市場での値段交渉を分析し、日本人の弱い交渉力を鍛える方法を解説します。

ホンネを言うのは恥ずかしい

日本人とベトナム人で決定的に違うポイントのひとつに、 「ホンネ」と「タテマエ」の使い方 があります。
普段日本人はホンネで強く主張せず、タテマエを言って相手の忖度を期待します。これを言ったら相手に失礼かなとか、自己主張はちょっと恥ずかしいので遠慮しようとか、多様な感情が交錯し、 ホンネをストレートに言わない文化 が成り立っています。親しい間柄でも、ホンネを言うには勇気が必要です。
一方でベトナム人は、礼儀を大切にしながら ホンネをストレートに言い合い 、YESとNOもはっきりしています。ただし、ホンネを言わないテクニックも備えていて、例えば会社を辞める時には「田舎に帰って家業を手伝う」という方便を使います。
何を恥ずかしいと思うかも、大きく違うポイントのひとつです。日本人は自己主張が恥ずかしい反面、温泉や銭湯では何の羞恥心もなく見ず知らずの他人と一緒に裸で入浴できます。これはベトナム人からすると衝撃のようです。逆にベトナム人は、 女性でも体重がまったく秘密情報ではなく 、しばしば身長とともに履歴書に書いてあり驚きます。

ベトナム人は体重を知られても恥ずかしくない
すなわち、市場での値切り交渉は、「交渉に不慣れな恥ずかしがり屋の日本人」VS「ストレートで百戦錬磨のベトナム人」の構図で、明らかに日本人にとっては不利な勝負となります。

さぁ、実践の舞台へ

ホーチミンであれば ベンタイン市場 (南部発音ではベンタン市場)、ハノイであれば ドンスアン市場 のように、主に外国人観光客をターゲットにした活気あふれる市場があります。衣料品や食料品、日用雑貨など、何でも揃っている店舗がひしめき合う中、今回は[場所=ベンタイン市場]で[商品=Tシャツ2枚]の値引き交渉にトライしてみます。

 ベンタイン市場           ドンスアン市場

交渉は情報戦

交渉の第1のカギは「如何に多くの情報を持っているか」です。
製造原価
(目標の下限)
素材や製造法から、 自分なりに製造コストを試算します (この金額を下限とします)。
100円ショップの商品を見ていると原価が意外と安いことに気づきます。
仕入値 ベンタイン市場の衣料品であれば、チョロン(ホーチミン6区)にある ビンタイ市場
でおおよその仕入値を調べられます
。※ただし、ビンタイ市場では、1枚や2枚では
買えません。
市場相場 近隣の複数の店舗で値段を聞き、いくらまで下がるか交渉してみます。衣料品以外でも
最初の提示価格からどれくらい下がるのか、 傾向を知るだけでも交渉に役立ちます
日本だったら
いくら?
(目標の上限)
日本での類似品の価格を推定します (この金額を上限とします)。日本で買うのと同じ
値段ならば、あえてベトナムで買う必要はないとも言えます。
 
これらの情報を総合して、値引き交渉の目標価格を設定します。

戦略を十分に練る

交渉の第2のカギは「事前準備」です。
戦略 行動
小出し作戦 お金を小出しにするため、 財布に入れる分と、ポケットに裸で入れる分をわける (別記)
細かい演出 買う意思をアピールするため、 他店で買った袋(だいたい黒色のビニール袋)を持参 する
相手を選ぶ 交渉可能な店員をチェックする。客引き係の若手よりは、 奥にいるオバサンに権限がある
じらし作戦 店員のペースに巻き込まれないよう、交渉の主導権を握るまで 店の奥には入らない
 
【事前準備で特に重要】 財布には全額を入れない
(例)Tシャツ2枚で目標価格を20万VND(約960円、1枚あたり10万VND=約480円)とした場合、財布には現金16万VND(約770円)とクレジットカード、ポケットには現金3万VND(約140円)と現金1万VND(約50円)を分散して入れます。

交渉マニュアル(細かい駆け引きですので熟読ください)

まず、遠巻きに、目的の商品があるか、権限のある店員がいるか、乱暴な客引きをしていないか、確認します。
<前哨戦>
     アクション                 予想される店員の反応
?店舗前の通路で立ち止まる        →    声を掛けられる
? Tシャツ1枚の値段 を聞く        →    電卓で 30万VND を提示
                         (目標額の3倍、約1440円)
補足:日本人には3~5倍の値段を提示するようです。ただし、悪意があるわけではありません。
注意:いきなり目標値になった場合、「良心的な店」か「情報不足」のどちらか。後者の場合が多い。
? 「高い」 と主張            →    電卓を渡される
?電卓に 8万VND を入力         →    電卓で 20万VND を提示
 (目標の20%安、約380円)           (目標額の2倍)
補足:ここで「OK」の場合は「情報不足」を認めて購入、もしくはいったん諦めて次の交渉に備える。
注意:交渉が長引いても9万VND(約430円)以上にはしない。交渉に疲れたり、店員の表情が曇ったら
  「 2枚買う 」と伝える。
?(2枚で) 17万VND を入力       →    電卓で(2枚で) 24万VND を提示
 (目標の15%安、約820円)           (目標額の1.2倍、約1150円)
補足:そろそろ「 Final Price 」を尋ねてくる。店員がどんなワザを持っているか、参考にする。
?(2枚で) 18万VND を入力        →    電卓で(2枚で) 20万VND を提示
 (目標の10%安、約870円)           (目標額ジャスト)
? 無言 (何も言わず財布を出すフリをする)→   「OK?」と言って Tシャツ2枚を包み始める
補足:どうしても目標額に近付かない場合は、いったん諦めて作戦を立て直す。
 
Tシャツ2枚を包み終わったのを見計らって次のアクションを開始します。実はここからが交渉本番戦のスタートです。
<本番戦>
      アクション                  予想される店員の反応
? 店舗の境界内に入り 、財布を取り出す     → (店員の心理は) 売上が確定して安堵
?財布に「16万VNDしかない」と説明(要演技力) → (店員の心理は) 少し動揺
補足: 形勢が逆転 し、「超リラックス」VS「やや動揺」に変化する。
?クレジットカードが使えるか聞く(まず使えない)→ 「できない」(店員の心理は) さらに動揺
?「近くに住んでいるので取りに行く」と言う   → 「だめ」(店員の心理は) この場で決着したい
補足:観光客相手の市場では、店員は その場での商談がすべて と思って全力で臨みます。
 
そして、この後の店員の反応により、交渉結果を分析します。
店員の反応 結果分析
16万VNDでOK × 目標価格は甘かった。次回は財布に14万VND(約670円)入れて臨むべし。
他の商品を勧める 目標価格は妥当だった。ポケットから1万VNDを出して再交渉。
袋を開けようとする 目標価格は安かった。ポケットから3万VNDを出して再交渉。
1枚だけ売ろうとする 店員のほうが冷静。ポケットの4万VND(約190円)をすべて出して目標値
で決着。
 
ヤマ場の「前哨戦」さえクリアできれば、「本番戦」では必ず勝利が見込める最終手段を持っているためリラックスした交渉ができます。交渉では、 プレッシャーがかかって選択肢が見えなくなったほうが負け というわけです。

まとめ

今回は、観光客を相手とした店舗での値切りのテクニックについてロジカルに考察してみました。ベトナムにおいては、店舗だけでなくビジネスでも、日本人は交渉する機会より交渉される機会のほうが多くあります。防戦一辺倒にならないよう、自ら値切り交渉してみることで、交渉された場合の対応策を考える良い機会になります。 準備した交渉カードが多ければ多いほど、リラックスして交渉を進める ことができます。
ただし、仮にベンタイン市場の店員が、単に値段のやり取りではなく、商品の品質や性能を本気でアピールして値下げに応じないとしたら、その交渉力には敬意を表すべきでしょう。
ベトナムの日常で日本人がストレスを溜めないために、
?値段交渉を恥ずかしいと思わない
?値段交渉のために、可能な限り情報を集め、戦略を練り、事前準備をしっかり行う
?値段交渉の過程で、逆の立場では、どうすれば値下げせずに対応できるか学ぶ
 
ことが重要です。
ロジカルに分析し超ポジティブに生きる[ロジ・ポジ]。
次回もご期待ください。
 

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