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[コラム]

【第3回】人生半ば過ぎからの恋 ~少数民族のリアルな恋の話~〔後編〕

2017/07/19 08:35 JST更新

皆様、ご無沙汰しております!
Threads 代表の東山です。
前回 は少数民族のリアルな恋の話ということで、マイさんとチョイさんのお話をお送りしましたが、話の途中で切らせて頂いて申し訳ありませんでした!
案の定、色々と嬉しい「苦情」を頂きました!
それと、例のショートムービーですが、あいにくこのほど サパ は雨続きでカメラ機材を山に持ち込めない状況でしたので、しばらく中断しておりました。
さて、マイさんとチョイさんの恋物語の続きですが、息子に結婚を猛反対されたチョイさんはその後どうなったでしょうか。
今回は後編をお送りします。
(前編はこちら >> 【第2回】人生半ば過ぎからの恋~少数民族のリアルな恋の話~〔前編〕
 
息子に反対されてしまったチョイさんは考えました。
チョイ:確かに、もう1回葬式なんて面倒くさいと思われても仕方がない。しかし、息子の結婚相手を探すには間違いなく「お母さん」という存在が必要で、マイさんほど良い相手はなかなか他にいない。それに・・・、実はマイさんのことを若い時から慕っていた。これは運命が導く千載一遇のチャンスじゃないか!
ポジティブシンキングなチョイさんはもう1回マイさんを呼び出して、真剣にプロポーズをすることにしました。
しかし、当時のマイさんは自分の子供たちや村人の目を気にし始め、チョイさんへの気持ちは遠ざかる一方でした。
元々、 「再婚」自体が一種の「裏切り」と見なしている文化 ですので、心理的な面でのハードルは高いのです。
また、子供たちがみんな成人した今では、「子供を養うために再婚する」という理由もつけることができません。
そのため、きちんとした理由もないのにもう一度婚姻生活に「Yes」と簡単に言うわけにはいかないのです。
好きな気持ちだけでは結婚できない、愛し合っているだけでも結婚できない。
それはまさにマイさんに押し付けられたリアルで過酷な現実。

現代(西洋)の結婚観のように、牧師さんの前で一生愛し合うことを誓い、二人が夫婦となることを神様に認めてもらうこととはまるで真逆で、結婚の意思決定プロセスにおいて、二人が愛し合うことがそんなに意味をなさないのがサパの現実です。
その根底にあるのは、結婚は単なる繁殖活動の一環に過ぎず、いかにより多くの子孫を元気に育ててくれる相手を選ぶことが大事になってくるのだと思います。
ベトナムの著名な歴史学者でベトナム教育省大臣も務めたことのあるNguyen Van Huyen(グエン・バン・フエン)さんの『The Civilization of Vietnam』(2013)にもこう書いてあります。
“The aim of marriage is to perpetuate the family・・・・・・Marriage has always been considered a family affair and not a personal act concerning two individuals.”
(結婚の目的とは家族を恒久化することにある、結婚は常に家族の問題であり二人の個人的な行為ではない。)
・・・要するに 氏族の繁盛のために結婚がある のだという。
その結婚観が正しいかどうかの判断は皆様にお任せすることにして(個人的には正しい答えがないと思いますが)、チョイさんの2回目のプロポーズは見事に失敗しました。
その後、二人は連絡を取り続けましたが、以前のように頻繁に相手の家に行くことはありませんでした。
このように、日が経つにつれ、二人の距離は徐々に遠ざかっていきました。
ところが、ある日事件が起きました。
マイさんの具合が急に悪くなったのです。
連日熱が下がらず、もう命を落とす寸前ということろまで来ていました。
しかし、マイさんの子供たちは病院には連れて行かずに、村の「伝統的な療法」を続けました。
「伝統療法」と言っても我々がイメージする中国漢方などとはかけ離れているもので、ここでの 伝統療法とは、伝統儀式+漢方+謎な物理的刺激 という病気を治せそうもない謎だらけの3点セット なのです。
この伝統療法により、マイさんの体はみるみるうちに弱っていき、このままだと本当に取り返しが付かないことになると気付いたチョイさんは、家族の反対を押し切ってマイさんを家から連れ出し、病院まで連れて行きました。
そもそも月収が2万円もなく、医療保険もないサパの少数民族にとって、村から病院まで行くだけでもすごく大変です。
それに都市レベルの医療費を押し付けられると、死んだ方がましと考える人も出てきます。(よく病気になると自殺するのが山の現実です。)
現地の人にとっては、病院に行くということは、私たちが想像できないくらい労力もお金もかかるのです。

病院に運ばれたマイさんは治療を受け、幸いにも一命を取り留めました。
それはまさにチョイさんの英断のおかげで、チョイさんがマイさんの命の恩人となったのです。
マイさんの子供たちもこれを機に、母を救ってくれたチョイさんを認めるようになり、再婚に前向きな態度をとるようになりました。
 
そして3回目のプロポーズ。
チョイさんは自分の息子や親族を全員集め、マイさんに向かって言いました。
チョイ:「今日はみんなを集めました。親族全員の前であなたに聞きます。私の妻になってくれ。そして残りの人生を一緒に歩もう!あなたは他の人がどう考えているかを気にしているようなので、今日は全員に聞きます。僕とマイさんの結婚に関して、反対する人はいますか?」
部屋は静まり返りました。
チョイさんの真剣な思いに胸を打たれたのか、誰も言葉を発しませんでした。
そして、しばらく経って、ずっと黙っていたチョイさんの息子が隣に来て言いました。
息子:「お父さんの好きなようにすればいい。俺は祝福するよ。」
ずっと反対してきた息子からそのような言葉を聞けるとは思いもしなかったので、思わず涙が溢れてきてしまいました。
チョイさんは、息子の肩を叩いて「ありがとう」とお礼を言いました。
そして、マイさんは誰も反対しなかったことにホッとしたと同時にチョイさんの真摯な言葉に心を打たれました。
マイ:「はい、あなたの妻になります。いろいろこれまでありがとうございます。もう歳も歳ですし、結婚式とか結婚証明とかはいらないからね。二人でこれから一緒に暮らして行きましょう。」
3回目のプロポーズでやっと成功したチョイさんは今も適度な関係を保ちながら、マイさんと夫婦としてお互いのことを愛し合っています。
 
以上、2回に渡ってサパに住む少数民族の恋のお話をお届けしました。
今回、私がこの夫婦を題材にしたのは、「結婚は氏族の繁盛のため」という文化で育てられ、縛られた中年の二人が、愛というものに果敢に向き合う姿が実に心に響くものだったからです。
みなさんにはどのように届いたでしょうか。
さて、恋愛話はこの辺にしておいて、次回は少数民族の食卓にフォーカスします。
『俺の山飯』的なことを書きたいと思っております。

 

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