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[コラム]

【第7回】抗生物質~処方されなくてもガッカリしないで

2015/12/07 09:40 JST更新

ベトナムでは、抗生物質が薬局で簡単に手に入ります。そのため、ベトナムに住み始めてから抗生物質がまるで「万能薬」であるかのように思い込み、病院で抗生物質が処方されないとガッカリしてしまう、という人さえいます。しかし、抗生物質は決して「万能薬」ではありません。今回は何のために抗生物質が使われるのか、その効用の落とし穴について解説します。

 

抗生物質(Antibiotics:アンティバイオティックス)って何ですか?

抗生物質は、感染症を引きおこす 細菌(バクテリア)や真菌、寄生虫などの微生物の増殖や機能を阻害するための物質の総称 です。世界初の抗生物質は、アオカビからみつけられたペニシリンです。結核の治療薬として使われるスプレプトマイシンは、バクテリアから作られました。
 

抗生物質は何のために使われるのですか?

抗生物質は、体の免疫システムが感染症を引きおこしている 細菌と闘うのを助ける ために使われます。ウィルス感染には効果はありません。
 

抗生物質を使うことのデメリットはありますか?

抗生物質の多用は、 一般の抗生物質に耐性(簡単に言えば抵抗性=細菌やウイルスが薬に対して抵抗力を持つようになり、薬が効かなくなること)を持つ菌の出現につながります。 すでに幾つかの抗生物質が効かない多剤耐性菌が出現しています。
その代表例が結核です。結核はベトナムでも未だに多い感染症ですが、エジプトのミイラから典型的な結核の痕跡が見つかるなど、結核は人類の歴史とともにある古い病気でもあります。日本では、現在でも1年間に4万人以上が感染しています。
結核の治療には、3~4種類の抗生物質の投与を数か月も続けなければなりません。一種類だけの投薬では、結核菌が耐性を獲得するからです。また、肺炎球菌は、以前はペニシリンが効きましたが、現在は実質的にペニシリンに耐性を獲得してしまい、他の抗生物資に対しても耐性を獲得しつつあります。
通常、抗生物質は正常な腸内細菌まで殺してしまいます。この腸内細菌は、腸が正常に働くために欠かせないもの。頻繁に抗生物質をのんでいる人が下痢や真菌感染、ビタミンK欠乏症などを引き起こしてしまうのは、このためです。

また、幼児期の早いうちから頻繁に抗生物質を使うことは、ぜん息などのアレルギーを起こす原因になる恐れがあります。簡単に出されがちな広域スペクトラム抗生物質(多くの種類の微生物に対して効果がある抗生物質)を用いた場合、ぜん息になるリスクは、そうでない場合の約9倍になるといわれています。
 

なぜ自己判断で抗生物質を服用してはいけないのですか?

人間に起こる感染症の多くはウィルスによるものです。繰り返しになりますが、 抗生物質はウィルスには効果がありません。 医師は感染の原因を確認し、最も適した抗生物質を処方します。すべての抗生物質がすべての種類の細菌に効くわけではないからです。処方され抗生物質は、少し良くなったからと途中で止めないで、指示期間に飲み切ることが大切です。途中で止めてしまうと、菌に耐性がついたり感染を繰り返すことにつながります。

<著者紹介>
Family Medical Practice Vietnam
ジョナサン・ハレヴィ医師(ホーチミンクリニック)

小児科
小児科医として15年の経験をもつ。2005年から7年間にわたりファミリ−プラクティス・ホーチミンクリニックに勤務。その後、オーストラリアの小児科医療の最高峰、ロイヤル小児科病院(メルボルン市)小児科集中治療室に勤務し、小児科集中治療分野の経験を積む。1児の父。現在、ベトナム語の育児本を執筆中(2016年初旬出版予定)。
 

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